無能なパーティメンバーを追放したら、魔王軍最強の黒魔導士になって現れた。 

暁 葵

第1話 無能な魔法使い

 俺たちは、日々勇者として様々な魔物と対峙し、そして討伐してきた。それも全て、世界を支配し、破壊することを目標としている魔王を倒すためだ。

 この「勇者パーティ」には、俺含めた四人の人間がいる。

 まずは俺—―アドラ。燃え盛る炎のような髪と琥珀色の瞳を持っている。一応、勇者パーティのリーダーをしている。聖剣プロメアスに選ばれ、魔王討伐の使命を課された身だ。

 次に、キュリス。海色のセミロングと氷晶の様な瞳の少女。勇者パーティで弓使いとして活躍しており、その洞察力と反射神経は常人のものとは思えない。俺でも頭が上がらないほどだ。

 次に――ヴィネス。太陽のように輝かしい金髪と翡翠色の瞳を持った少女だ。勇者パーティでは回復術師と聖職者の二つの顔を持っており、回復や強化支援など、そして神聖術による攻撃も出来る凄い奴。

 ――そして最後に、マルス。勇者パーティでは魔法使いをやっているんだが――


「マルス! 危ないぞ!」

「え? あ――」

 魔狼の漆黒の鉤爪がマルスの胸へと襲い掛かり、彼は為すすべなくその攻撃を受けてしまう。結構深い傷だ。深手を負ったマルスを見て、回復術師であるヴィネスが向かい、回復魔法をかけている。

 その間に、俺が聖剣で魔狼を切り裂く。そして、全ての魔狼の討伐を終えたと同時に、マルスの回復が終わる。

「……ふぅ、ごめん。ヴィネス、アドラ、キュリス、毎回迷惑かけて」

「いや、こんな危険なことをしてれば、怪我だってするよ」

 回復術師であるヴィネスが、微笑みながらマルスをフォローする。マルスは申し訳なさそうに俯いて「うん……」と言う。

 俺とキュリスは、そんな光景を真顔で見つめ、溜息を吐く。


 時間は進んで、夜――酒場にて、俺たちは夜ご飯を食べていた。俺はエールを飲み、他二人は、ジュースを飲んでいる。理由は単純で、未成年だからだ。

 マルスは少し飯を食べて、そそくさと帰ってしまった。……だが、別に疑問に思うことは無い。何故なら、俺たちはその理由を知っているから。

「やっぱり、マルスには荷が重いんじゃないか?」

「そうよ。大体、あんな低級の魔物の攻撃すら回避できず、魔法を撃つ判断が遅い奴に、私たちの戦いについていくのは無理よ」

 そう辛辣に語るのは、弓使いのキュリスであった。

 彼が何故勇者パーティに入れたのか……それは、彼の持つ【星芒魔書】にあった。

【星芒魔書】とは、あらゆる星々の持つ魔法が記載された伝説の魔導書だ。マルスは、その伝説の魔導書に選ばれた逸材なのだ。

 ……しかし、その星々の魔法を扱うところを、俺たちは見たことが無かった。

「アイツはあくまで〝本に選ばれた〟だけで、〝本を活用している〟ってわけじゃないんだ。多分アイツ自身も、使えないで嘆いてるんだろうさ」

 俺はエールを口に流し込み、話す。そこで、回復術師のヴィネスが口を開く。

「……でも、流石にそろそろ路銀も枯渇してる。もう余裕がないんだよ。魔力切れの予備の回復剤を買えるかもわからないよ……」

「そうか。……マルスには悪いが、これ以上パーティに負担をかけるわけには行かない。……なぁ、キュリス、ヴィネス」

「言いたいことは分かるわ。……マルスを、このパーティから外すつもりでしょ?」

 キュリスが怜悧な眼差しで、俺を見つめる。俺はそれに頷く。

「あぁ。アイツだって、これ以上迷惑をかけるのはごめんだって、思ってるはずだし。解放してあげよう」

 マルス自体は悪くない。俺だって、アイツが毎回魔法の練習や体術の訓練をしていたのは分かっている。だけど、人には「才能」という壁がある。いくら【星芒魔書】に選ばれたとはいえ、使えないんじゃ意味がない。

 だったら、解放してあげて、自由にさせた方がアイツの為になる。

「私は構わないわ」

「あたしも……いいよ」

 満場一致だ。俺は最後のエールを飲み干し、立ち上がる。

「よし、明日朝早くに王城に向かうぞ。流石に無断でパーティから外すのは色々と面倒だからな」

「分かった」

「うん」

 そうして、俺たちは宿へと戻るのであった――


 翌日――俺たちはマルスと集合した。

 マルスはやはり何処か気まずそうな表情で、俯いていた。

「……なぁ、マルス。話がある」

「ど、どうしたの? 急に」

「実はお願い――いや、リーダーとして命令する。マルス、お前はこのパーティを抜けろ」

 俺は覚悟を決めてマルスにそう告げる。すると、

「……いつか、そう言われると思ってたよ」

 マルスは意外にも、冷静かつ、何処か安堵した表情で俺の方を向く。彼自身も、覚悟を決めていたんだと思う。

「僕は……いくら頑張っても、皆の役には立てなかったから。正直、そう言われてホッとしてる…………分かった、僕はここを出ていくよ」

「待ちなさい」

 キュリスがマルスを呼び止める。マルスが振り返ると、キュリスが小さな小銭袋を投げる。それをマルスは掴む。

「これは……?」

「流石にこのまま追い出すのは良心が痛むからって、アドラが……」

「い、いいよ! 僕は……アドラたちは、勇者なんだから。魔王を倒す為に、頑張らなきゃでしょ? だったら……これは受け取れない」

 マルスはそう言って小銭袋をキュリスに返す。そして、そのまま彼は去っていく。

 俺たちはそのまま立ち尽くし、背中を見送る。そして俺は懐に入れていた羊皮紙を取り出し、そこに視線を落とす。

「……結局、これを見せる必要は無かったわけか」

 そこには、文章が綴られ、一番下には王族の紋章が捺印されていた。これは、マルスのパーティからの離脱を許可するという旨が記載された証明書だ。

 これでマルスも、自由を獲得できるはずだ……そう、俺たちは心の中で願うのであった――


 ――だが、俺たちは二か月後、知ることとなる。

  ――彼が、途轍もない力を得て帰ってくることを。

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