目覚めたら長い間疎遠になっていた幼馴染がミニスカサンタコスをして俺にひざまくらしていた件
本町かまくら
第1話 ホワイトクリスマスの奇跡
「ん、ん……」
朧げな意識が段々とはっきりとしてくる。
カーテンの隙間から差し込む光が目にダイレクトに入ってきて、眩しさを感じた。
「ん……」
寝返りを打とうと右に転がる。
だけど、何かが遮って止まってしまう。
ってか何これいい匂い。あとめっちゃふわふわしてる……
「んあ? な、何だ?」
曖昧でまだパッチリと開かない目と手を使って状況確認。
って言うかこの枕、いつものやつじゃない。
けど、これまた柔らかくて寝心地がいい。
「んっ……は、はーくんどこ触ってんのぉ」
「ん?」
俺の寝具で、触ったら幼馴染の声が聞こえるものってあったっけか。それもちょっと色っぽい。
いや、あったらさすがにヤバいしそもそもないけど。
でも一体何が起きてるんだ?
「はーくんったらさっきからベタベタ触って……甘えたいのかな? よしよし」
頭を優しくなでられる。
なんだこれ。めちゃくちゃ気持ちいいぞ!
だんだん意識がはっきりとしてきて、視界も晴れてきた。
そこで真っ先に飛び込んできたのは、赤色と山のような二つのふくらみ。
……んんん???
なんだこれはと思って、触ってみる。
「ひゃうっ⁈ ちょ、ちょっとはーくん⁈ そ、そんな……そこ触っちゃあ……」
「ん?」
「んっ……は、はーくんっ……!」
妙に艶っぽい声が聞こえる。
ってか柔らか! こんなに柔らかいものを俺は触ったことがない。これぬいぐるみ化とかしたら売れるだろ絶対。
「も、もうダメっ……!」
「……んんん???」
白い腕と、幼馴染に似た顔が視界に入った。
つまりこれ……人?
ってことは今俺が触ってるのって……OPPAI⁈
「どうわっ⁈」
「ひゃんっ‼」
寝坊したバリに早いスピードで起き上がり、枕の方を見る。
するとそこには、完璧なサンタコスを施した美少女の姿があった。
それも見た目は完全に……俺の幼馴染。
「は、はーくん強引すぎだよぉ……」
「こ、琴音……」
顔を真っ赤にして両手で胸を隠す琴音。
つまり……そういうこと。
「な、なんでお前がここにいるんだよ」
「えーっとね、今日はクリスマスじゃん?」
「あれ、そうだっけか」
時計を見る。
すると確かに、今日は十二月二十五日だった。
俺には関係なさ過ぎて、ただの休日くらいにしか思ってなかった。
……いや悲しっ!
「それで、実は……」
もじもじした様子で、黒タイツに包まれた足を擦る。
さっきまであそこで寝ていたのだと思うと、思わずどきりとしてしまう。
俺は固唾を飲んで、琴音の言葉を待つ。
琴音はいつ見ても整った綺麗な顔を上げて、いたずらにこう言った。
「私、はーくんのプレゼントになりにきちゃった♡」
「…………はい?」
***
金髪のショートボブで髪を耳にかけていて。
宝石のように輝きを放つ大きな目は相変わらず輝いていた。
頭の上には赤い三角の帽子。
見慣れた赤い服に、色々と見えてしまいそうなほどに短いミニスカ。
そして柔らかな足を包む、黒タイツ。
俺のベッドの上に正座してちょこんと座るミニスカサンタ美少女は、紛れもなく俺の幼馴染だ。
「まずはその……触って悪かった」
「いいのいいの! 私がサプライズで膝枕してたのが悪いし、はーくんならいいよ!」
「そ、そうか」
はーくんならいい⁈
その言葉そのままの意味だったらだいぶ衝撃なんですけど⁈
マジでいいってどういう意味⁈ いいってそういう意味なの⁈
「で、なんでプレゼントになりに来たのかというとね」
琴音の言葉で俺の加速し続ける思考がようやく止まった。
危うく燃え尽きるところだった。
「様々な情報源からはーくんがどうやら彼女が欲しいらしいってわかったから――」
「いやちょいちょい。様々な情報源って、まず何?」
「クライアントの情報ははーくんでも教えられないなぁ」
「えぇー……」
ってことはつまり、俺の身辺で琴音に寝返って俺の情報を渡しているスパイが居たってこと?
何それこわ。
「それで、最近忙しくてこっちに来れてなかったらし、いい機会だからプレゼントになってきちゃおー! ということで現在に至ります」
「過程薄いな! どんだけ思い立ったが吉日的思想に染まってんだよ!」
「だって……三年も、はーくんに会えなかったから……」
「こ、琴音……」
そう。俺と琴音はここ三年間、一度も顔を合わせていなかった。
以前は俺の家の隣に住んでいたのだが、現在は家の都合で兵庫県で暮らしている。
どうしても気軽に会える距離ではなく、またお互い色々と忙しかったのだ。
「でも、こうしてクリスマスにはーくんに会えて嬉しい! ほんと、幸せで蕩けちゃいそう」
「っ……‼」
その本当に幸せそうな表情、俺には猛毒性があってヤバい……
加えてその最高に似合ってるミニスカサンタコス……可愛すぎて昇天しそうだ。
「はーくん、今日は最高に幸せな一日にしようね♡」
クリスマスなんて認識すらしていなかった俺がまさかこんなにも可愛い幼馴染と一緒にクリスマスを過ごすことになるとは……
クリスマスというのはやはり、奇跡が起きる日なのだろう。
「とりあえず……」
「ん?」
「その服、脱ごうか?」
「え……えぇ⁈」
また胸を隠して顔を真っ赤にする琴音。
マズイ間違えた……と思ったのはその反応を見てから。
この言い方じゃあ俺、完全にド変態じゃねぇか!
「間違えた間違えた! そのミニスカサンタコス着替えてくれ!」
「えっ、なんで?」
きょとんとした表情で俺のことを見てくる琴音。
無自覚でこの破壊力……人を殺しかねないぞこれは。
ついでに言うと、俺が視線の置き場所に困って死んじゃいそう。
「し、刺激が強いんだよその服は!」
「えぇー結構気に入ってたんだけどなぁー……」
唇を尖らせてそう言う。
本心を言えば、
常にその格好でいてくださいお願いシャスッ!
と野球部の挨拶ばりに頼み込みたいところだけど、多量出血で死にかねないのでここは我慢だ。
「もぉーしょうがないなぁー……」
琴音が渋々、着替えることを了承してくれた。
***
結局、着替えたところで琴音の破壊力はそう変わらなかった。
白いモコモコしたセーターにジーンズのショートパンツ。
そしてそこから長い黒タイツを身に纏った足が伸びていて、三年で大人の女性の魅力がグッと出ていて正直ヤバかった。
今にも抱きしめたいと強く思った。
「って、マジかよ……」
琴音と一階に降りてリビングに入ると、置手紙があった。
その内容は、
『やっほー晴馬元気してる?
今日はクリスマスなので、お父さんとお母さんはクリスマスデートしてきまーす!
しかも、お・と・ま・り♡
弟か妹ができるかもしれないけど、その時は可愛がってあげてね♡
追記
孫の顔が見たい。
お父さんより 』
というカオスな文章が書いてあった。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
「相変わらずだね、おばさんたち」
「ほんとこの人たち年取るって言葉知らないのかな……」
いつになっても、外見的にも精神的にも年を取らない両親。
クラスメイトからは、
『両親が美男美女で羨ましい!』
と言われることもあるが、俺としては苦労することばかりである。
だって親の発想が完全に高校生のそれだから。
「ま、孫……ひゃう……」
こうして慣れているはずの琴音でさえ赤面してるくらいだし、そりゃもう大変だ。
それにしても……ほんとに第二子出産しないよな?
正直、しそうである。
「ってことは、今日一日この家は俺と琴音だけか……」
「うん、そうだね」
少しもじもじした様子でそう返す琴音。
きっとさっきの両親の置手紙が影響してるんだろうけど……もしかして期待とかしてる?
……いや、ないよなぁ。
「とりあえず、今からどうする? はーくんのしたいこと、なんでもしてあげるよ?」
「な、なんでも⁈」
「うん、なーんでもっ!」
これはもしや……誘われている⁈
いやでも三年ぶりに会ってすぐにそれとか……第一俺たち付き合ってもいないのに。
いやきっとこれはモテない男子高校生である俺が勝手に妄想しているだけ。そう、悲しいただの妄想だいやなんか自分で言ってて悲しくなってきた。
「じゃ、じゃあ……朝ごはん、食べたいなぁ」
だからとりあえずそんな当たり障りのないことを言ってみる。
実際、突然の展開で腹は空いていない。
「そっか……やっぱりはーくんも男の子なんだね」
「ん……んんん???」
恥じらいながら、なぜか琴音が脱ぎ始めたぞ?
…………え?
「いやちょいちょいちょいちょい! なんで脱ぎ始めてんだよ!」
「えっ、だってはーくんが朝ごはん食べたいって」
「朝ごはんってそういう意味じゃないからな‼ ほんと、全くもってやましい意味とかないからな‼ ただの飯だ飯!」
「えっそうなの?」
「そうなの!」
琴音は少し残念そうに「そっかぁ」と呟いてはだけた服を整え始めた。
先ほどちらっと下着が見えたのだが、下着も攻めて赤色。まさかのクリスマスカラー。
……もしかしてほんとに、期待してたりする?
「男の子ってすごくそのぉ……え、えっちなことが好きだって聞いてたから、勘違いしちゃった」
「そんなわけないだろ?」
いや、決して間違いではないんだが。
むしろ正しい。男というのはいついかなる時もエロいことしか考えてない!
そう断言できる。
「やっぱりデマだったかぁ……女子高だし、ごめんね?」
「いやいや、気にすんな」
「んふふ。気を取り直して、朝ごはん作っちゃうぞ‼」
「おう! 手伝えることとかあるか?」
「大丈夫! はーくんはソファーでくつろいでて!」
「そっか、悪いな」
「気にしないで!」
腕をまくってキッチンに向かう琴音。
そんな琴音を横目に見つつ、ソファーに腰を掛ける。
なんかこういうの……いいな。
まるで妻を持ったような気分になった。
***
話し合いの結果、結局俺たちはクリスマスを家で過ごすことにした。
お互い人混みに慣れていないというのもあるし、今日はクリスマスでカップルも多いだろうからやめた。
誰が幸せいっぱいの場所に飛び込んでやるか。
まぁ実際、俺は今幸せなのだけど。
今日という日を最大限に楽しむため、まず俺たちは買い出しに行くことにした。
午前中ならまだマシで、外界のアウェー感はない。
適当に駅前をぶらついて、家で楽しめそうなものを購入した俺たちは駅前のデパ地下に訪れていた。
ここは午前中にも関わらず人で溢れかえっている。
「うわぁ人多いね!」
「だな。はぐれないように気をつけろよ?」
「うん、はーくんは絶対離さないよ!」
そう言って軽く俺の手を握ってくる琴音。
三年前なら確かにこういうスキンシップに対して何の感情も抱かなかったのだが、大人に成長した琴音だとどうしてもそれは難しい。
ひとまず俺は煩悩を払うことに集中し、琴音先導のもとカートを引く。
「あっこれも美味しそう! あぁーでもこっちも美味しそうだなぁ……はーくんはどれがいいと思う?」
「琴音」
「あぁーやっぱりこっちの方が美味しそうだし食べやすそうだよねぇ。じゃあこっちにしようかな……って、琴音?」
「……ん?」
なんだ急に固まって。
財布でも忘れたのか?
「…………今ここで、するの?」
「……んあ?」
「そっか……やっぱり真由美ちゃんの言ってたことは本当だったんだね。分かった。私も腹をくくるよ」
琴音はそう言って、コートを脱ぎだした。
やけに息は荒くて、妙に艶っぽい。
そんな琴音を見た刹那、煩悩という煩悩が脳に入ってきて俺は先ほどの自分の言葉を思い出していた。
『琴音』
……これやってるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
「琴音ストップストップ! 完全に間違えた! 琴音が食べたいってわけじゃない!」
「えっ、そうなの?」
「あぁ! 今のは完全にぼーっとしてて頭の中で思ってたことがついぽろっと……」
「じゃあつまり、はーくんは頭の中で私のことを考えてたってこと?」
「んがっ……そ、そういうことになる……な」
さすがにここで否定するのは苦しい。
猛烈に恥ずかしかったけど、俺は言うしかなかった。
「そっか……はーくん、そうなんだね……んふふ、はーくんったら♡」
……なんかすごく嬉しそう。
その後、琴音の足取りは翼が生えたみたいに軽かった。
***
家に戻ってきた俺と琴音は、昼ご飯を食べながら映画を見ていた。
琴音の強い要望もあって、見ているのは恋愛映画。
俺は宇宙人に侵略される映画を勧めたんだけど、ムードがないと却下された。
琴音も乙女になったんだなぁ、と少し関心。
「なんか三年ぶりに鮮烈な再会を果たしたわけだけど、普通に日常って感じだな」
「まぁこれが私たちのクリスマスの過ごし方なんだよ。私はとっても楽しい!」
「そっか。ならよかった」
「はーくんは?」
「俺だって、もちろん楽しいさ!」
「んふふ、良かった」
唐突に始まる、俺の理想のクリスマスの過ごし方~!
最高に好きな彼女と朝からディズ〇ーランドに行って、パレードとイルミネーションを見て帰る。
帰り道には近くの公園で……キスなんかしちゃって。
そんな風に過ごすのが、俺の理想だ。
だけど……こうやって家で幼馴染とまったり過ごすのも、いいな。
むしろ、こっちの方がいいかもしれない。
「キスしちゃいそう」
「ぶっ!」
思わず口に含んでいた水を吹き出してしまう。
ナニイッテンデスカコトネサン?
「ほら見てよこの雰囲気! そろそろしちゃうんじゃないの?」
「あっ、映画ねそっちね! いや、そうだろうなとは思っていましたよええ!」
「えっそっちって……はっ! そ、そういうこと……」
何かを察した琴音。
うんなんだろう。
すごくデジャブを感じるし、すごくこの先の展開が読めた気がする……
「食事中だし、ちょっとだけ……」
「だからなんで脱ぎ始める⁈ 全然頼んでないしそういう意味じゃないんだけど⁈ それにキスするのに脱ぐ必要ある⁈」
「真由美ちゃんが『男は全裸が好きな生き物よ』って」
「真由美ちゃんどんだけ歪んだ恋愛してきてんの⁈ ってかほんと偏見すごいな! あと俺は着衣派なんだ!」
いや、俺何言ってんだろ……
「なるほど、はーくんは着衣派……と」
「おいおいメモするな! メモする価値もないから!」
「そ、そっか!」
この子天然過ぎない大丈夫?
天然過ぎてそろそろ天然記念人物に俺が指定したくなってきたよ。
ってか、記念じゃなくね?
「あっ、キスした」
「あっ、ほんとだ」
切り替えのスピードは凄まじく、その後俺たちは食い入るように映画を見た。
案外恋愛映画も悪くない。
そう少し上からな意見を持っていたのだが……
「うぐっ、うぐっ……よかった、よかったなぁ!」
「はーくん泣きすぎ! でもまぁ、昔からはーくんはこういう感動系には弱いもんね」
「ほんと、みんな幸せで……よかったなぁ!」
「はいはい。今なら私の胸、貸すよ?」
「貸して欲しいけど一度落ちてしまえばそのまま戻ってこられなくなってしまいそうだからやめておきますどうもありがとう」
「急に饒舌⁈ 切り替えがすごすぎるよ!」
何本か映画を見た頃にはもう涙で顔をぐちゃぐちゃにしていた。
恋愛映画……最高!
それにしても、好きっていう言葉はなんて美しいんだろうか……
恋愛映画見た後って、なんか謎の全世界肯定モードに入るよね。
「でも、ほんと恋って美しいね。好きって、いいね」
「だな。これからはリア充粉塵爆発しろ! とか言わないようにするわ」
「粉塵爆発⁈ まったく……はーくんは物騒だなぁ」
呆れたようにため息をついて、俺の肩に頭を乗せる琴音。
琴音の生暖かい温度が直に伝わってきて、ぬくもりを感じる。
辺りはすっかりと暗くなってきていて、俺たちのクリスマスはあっという間に過ぎていた。
ふと、マシュマロのように柔らかそうなものがいくつも空から落ちているのが視界に入った。
「えっ雪⁈」
琴音がカーテンを開ける。
降り始めの雪が、この世に生きた証を残そうと空からはるばる降りてきていた。
やはり、雪が降っていた。
「すげぇな……ホワイトクリスマスなんて実在しないと思ってたよ」
「やっぱりクリスマスって、奇跡が起こるんだね!」
「だな」
奇跡と言えば、こうして俺と琴音が三年ぶりにクリスマスで再会したことも奇跡だと思う。
それに再会の仕方はだいぶ鮮烈で。
朝目覚めたらミニスカサンタコスをした幼馴染の膝の上……なんて、きっと誰も経験したことないだろう。たぶん俺たちが世界で初めてだ。
奇跡は奇跡を呼び起こす。それもまた奇跡。
なんだか妙に、感慨深かった。
「いいねぇ」
「だなぁ」
窓を開けて、少し寒いけど庭に足を出す。
寒いからしょうがなく、俺たちはくっついていた。
さっきの続きをするみたいに、琴音は俺の肩に頭を乗せてきた。
「どう? 寂しいクリスマスのはずが、私というプレゼントで最高になった?」
「寂しいとか言うな。まぁ実際、例年通りなら寂しいクリスマスになってただろうけどさ。でも、今は最高に楽しいし幸せだよ」
「そっか……んふふ♡ 嬉しい」
猫みたいに甘えてくる琴音。
やはり俺の幼馴染は最高に可愛い。
「実はね、私の方が寂しかったんだよ?」
しんしんと音もなく降る雪のようにぽつりと呟く。
「あっちに引っ越してきてから、何もかもが新しくなって……それでも何とか友達はできて、今では楽しいって思える。だけど――隣に大事な人がいないって思ったら、すごく寂しかった」
「…………」
「だから私は、はーくんのためとか言っておきながら実際私のためにはーくんに会いに来たんだ」
「……そっか」
「うん。だから結局、はーくんにたくさんプレゼントもらっちゃった」
えへへ、と笑って外を見る琴音。
その笑顔はどこか儚く、それでも俺のそばにあって。
でもどこかあどけない感じは、三年前のあの笑顔となんら変わっていなかった。
「だから、私からのプレゼント――受け取って?」
琴音はそう言って、雪みたいに柔らかいキスをした。
触れる唇と唇。
雪が蕩けていくみたいに、意識が混ざり合っていく。
自然と俺の中で驚きはなくて。
俺はただただ琴音からもらった本当のプレゼントを、小さなこの手で握りしめていた。
キスをしてしばらくの間、俺たちの間に会話はなかった。
ただ降り積もる雪に思いを馳せて、互いの温もりを感じるだけ。
でもそれが、最高に心地よかった。
「あぁーなんか、私このままはーくんの隣から離れたくなくなっちゃった」
「そうは言っても、明日には帰るんだろ?」
「そうだけどぉ~……あっ、いいこと思いついた」
「ん? いいこと?」
「うん! いいこと!」
琴音はそう言ってスマホを取り出し、誰かに電話をかけ始めた。
何となく、誰か分かった気がする……
「あっ、おばさんこんにちは!」
やっぱりかぁ!
でもなんで今俺の母さんに……?
どこか嫌な予感がする。
それは幼馴染の勘という、なんとも信ぴょう性のないものだけど。
だけどこれは当たるという確信が、俺の中にあった。
「あのー私、これからこの家に住んでもいいですか?」
『うんいいよー』
「やったーありがとうございます! 詳しい話は、また後日! えっ孫? そ、それはまぁ……程よく期待しておいてください! では!」
…………
「…………」
立て続けに、次なる相手へ……
「あっ、お母さん? 今はーくんの隣にいるんだけどね、はーくんの家にこれから住もうと思うんだけどいい?」
『おっけい』
「やった! じゃあ詳しい話はまた後日! えっまた孫? それは程よく期待しておいて! うん、じゃあ!」
…………
「…………」
…………
「というわけで――」
「いやというわけでじゃねぇッ!!!!!!!!!!!!!!!」
「えぇ⁈」
なんで、いやなんで⁈
「なんで勝手に同棲するのが決まってんだよ!!!!」
「だって……一緒に暮らしたいから?」
「だからってそんな簡単に決めるんじゃねぇッ! ってか双方の親軽すぎない? マジで少しも心配とかしてねぇの⁈」
「そういえば、おばさんたち旅行先の街気に入ったらしくて、しばらくそこで暮らすらしいよ」
「いやマジかよ! ってかお互い軽すぎなんだけど⁈ そんな試食みたいなノリでいいのかよ!」
「試食……わかったよはーくん。ちょっとだけだよ……」
「だから琴音は勘違いして脱ぐな! 風邪引いたらどうすんだ!」
「はーくん……優しい!」
「ばっかその状態で近づいてくんな! 色々とヤバいって!」
「んふふ~はーくんと同棲~♡」
ダメだ。
もう俺の人生は、俺が舵を取れないようになっている。
俺の人生は、もう完全に――この幼馴染の手の中だ。
「あぁ! もうどうにでもなれッ!!!!!!!!!!!!」
俺は諦めて、雪降る夜空を見上げた。
今日という日は、誰かをきっと幸せにしていて。
どんな場所にもどんな人にでも、きっと奇跡を起こしている。
この世の中には、サンタがいるのだろう。
そして誰からの見返りも求めず、ひそかに幸せをこの空から振りまき続ける。
でも俺はちゃんと言葉にするよ。
「ありがとう」
俺たちが好きの二文字を伝え合ったのは、幸せのように積もった雪が蕩けたときだった。
MERRY XMAS
目覚めたら長い間疎遠になっていた幼馴染がミニスカサンタコスをして俺にひざまくらしていた件 本町かまくら @mutukiiiti14
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