エピローグ
『前原コウさん、おはようございます。一月八日のニュース記事をまとめておきました。人工知能に関する新着ニュースが一件あります』
冬休みが終わって最初の登校日、十六歳になった僕は高校に向かうべくロードバイクを走らせていた。
なんとなく習慣になってしまったので、骨伝導イヤフォンをつけて人工知能が読み上げるニュースを聞いている。この子にまだ名前はつけていないが、僕が好んで閲覧するニュースの傾向を把握してくれているので、人工知能に関するニュースを運んできてくれたようだ。
「そのニュースを読み上げて」
南町から北町へ上る坂道にさしかかったので、思い切りペダルを踏み込む。
『かしこまりました。千葉市にある日本人工知能研究所が、今春から一般販売される予定の人工知能を搭載した総合業務支援ソフトウェアのパッケージを発表しました。昨年チューリングテストを突破した人工知能akaRI-Eがさらに洗練され、三種類の個性を付与された個別のパッケージにまとめられました』
「三種類だって?」
最近はこの坂道を自転車で登っても、あまり息切れがしなくなってきた。僕は余裕のある呼吸をしながら詳しく訊ねる。
『高齢者ユーザーとの対話に特化された「
思わず僕は急ブレーキをかけ、自転車を停める。プログラミングのための紙媒体の参考書がカバンからバサバサと地面に落ちた。
(若年層ユーザーとの対話に特化された「
僕は思わず東の空――千葉のある方向を見つめた。リエさんとakaRI-Eは、先月の機械学習をもとにいろいろな個性付けをしたアルゴリズムを生み出したらしい。その中には『アイにきわめて近い』――しかしアイとは別人の、あのアルゴリズムもあるのだろう。
アイが残したものは、この世界に着実に息づいている。
「負けてられないなあ」
僕はひとり呟いた。
「ちょっと前原くん、大丈夫?」
「こんなところでどうしたんだよ、参考書落ちてるぜ」
そうしていると、後ろから声がかけられた。ロードバイク部(非公認)の楼本さんと羽生くんの二人だった。坂の中ほどで立ち止まっている僕を見つけて不審に思ったらしい。
羽生くんは僕が落としたプログラミングの参考書を拾い上げてくれた。
「紙の参考書なんて今どき珍しいな――プログラミング?」
「前原くん、プログラミングが趣味だったっけ?」
楼本さんの問いかけに、僕は笑ってうなずく。
「うん、好きな人に影響されるってこと、よくあるよね」
(完)
肉体を持たないカノジョと、四季を過ごした。 姫野西鶴 @saikaku_alone
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