第3話 ラリー再び

 努力することを覚えた俺は、入りたい進学校の高校に無事入ることができた。


 そして、偶然にも彼女と同じ高校に通うことになったのだ。


 しかし気まずいことに俺は受験勉強の関係で、中学三年の前半に部活は辞めていたのだった。


 幸か不幸か彼女とは別のクラスになった。


 部活は友達から誘われた関係で別の体育系の運動部に入った。


 しかし、この時またアクシデントが起きたのだった。

 彼女が所属する卓球部と隣り合わせだったのだ。


 彼女は何か言いたそうにこちらを見ていた。

 俺はその時バツが悪くて喋りかけることができなかった……。

 

 それから月日が流れ高校三年生の時、テスト期間中だった関係かその日の俺らの部活は筋トレだけで終わった。部活の友達はみんなテスト勉強があるからと素早く着替えて帰って行く。


 俺は汗まみれで、ヘトヘトになった体を休めるため、肩を上下させながら体育館の壁に背を当て体力の回復を計る。


 そして、いつも通り横目でチラリと隣の卓球部の様子を見る。友達から「お前わかりやすい性格してるよな」と言われるくらいにだ。


 この日は何故か卓球部は三島さんしか残っていなかったのだ。


 見ると彼女は中学生時代と変わらない姿勢で、真面目に黙々と練習をしていた。


 見た目も和風美人だったこともあるが、そのひたむきな姿は相変わらず綺麗だった。


 彼女はスタミナが切れたのか動きが止まり、俺の視線に気づいたのかこちらをじっと見つめてきた。

  

「ねえ? 原、暇でしょ? 久しぶりにちょっと付き合ってよ?」


 俺はこの時、彼女に誘われたことが滅茶苦茶めちゃくちゃ嬉しかった。

 「絶対に受からない」と中学の担任の先生から言われてた高校受験に合格して飛び上がって喜んだ時よりもだ。


「えっ? でも……俺」


 そう、嬉しかったんだけど……。


「原、高校に入って真面目に鍛錬たんれんしてるから体力ついてるでしょ?」


 なんか怒ってるのかな? 声のトーンが上がり、若干彼女の表情が険しくなり、むっとしているように感じた。


 でも、その声は赤ん坊をあやすような透き通る綺麗な甘い声で優しさを感じる……? うーん女性の心情はよくわからないなー……。


 しかし、こいつも俺のこと見てたのかよ。


 うん、正直嬉しい……。


 確かに俺は夜練も毎日でてたし、高校に入って部活をサボったことは一回も無かったな。


「……うーん俺ずっと卓球してねーから、自信ないぜ?」


 正直、卓球は高校に入ってからは、学校の体育祭の時くらいしかやってないので、現役バリバリの彼女の相手になるか自信が無かった。


「じゃいくよー」


 そんな俺の心情をくみ取っているのか、いないのかわからないが、彼女は笑顔で元気な掛け声を出し、打ちやすい軽めのサーブを放つ。


「無視かよ……」


 俺は苦笑いしながら言葉を返した。


 しかし、相変わらず強引だよな……。

 とりあえず、こうなったら付き合うしかない。


カンッ…… 

コンッ……

カンッ……


 軽い腕ならしのラリーから始める。


 俺の体感だが、彼女はあの時以上にキレがいい球を返してくる。

 彼女がずっと真面目に練習している成果が結果として表れているのだ。


「懐かしいねー原ー」


 彼女は笑顔で楽しそうに返す。


 本当に数年ぶりのラリーなので懐かしい……そして……。


「……ああ」


 俺は滅茶苦茶嬉しかった……。

 彼女の笑顔を久々に見れたのと、優しい声を聞けたのが本当に嬉しかったんだ。


 真近に見た彼女は中学時代より綺麗になっていた……。


カン……

コン……

カン……

コン……


 ラリーのスピードは徐々に早くなっていく。


「やっぱ、体力ついてるじゃん原」


 長いラリーをし、俺の卓球の当て感が戻ってきているの確認する彼女。


 嬉しいことを言ってくれる彼女の気遣いに俺は優しさを感じた。


 そして、そんな思いやりがあり、かつ余裕がある彼女の器の大きさも同時に感じる。


「まあな。俺達あの練習の厳しいサッカー部の連中と肩を並べて、毎日五キロ以上外回り走ってるんだぜ? 当たり前だろ」


 その成果か、県の高校でも屈指のキツさと定評がある競歩大会も普通に完走して、アホみたいに体力があるサッカー部や野球部の連中の次くらいの順位だったな確か。


 あまりのきつさに折り返し中、足がつったのを今でも覚えている。サッカー部の友達に励ましてもらって気合を入れなおして根性で走りきったっけ。


 実際俺達の部活の練習は厳しかった。

 他高との合同練習も頻繁ひんぱんに行っていたし、その努力の結果、チームで青森のインターハイに行けたのは良い思い出の一つだ。


 ……努力するという言葉と、それを実行できるようになったからだと本当は彼女に言いたかった。そして、……。


カ……

コ……

カ……

コ……

カ……


 更に、


「原、私のこと隣にいる時にずっと見ていたでしょ?」


 彼女は真っすぐの澄んだ可愛らしい声で、俺の心をくすぐってくる……。

 ピンポンの球は打ちやすいストレートだが……。


「み、見てねーよ! おまっずりーぞ?」


 俺はその言葉に思わず動揺してしまった。くそっ……こいつ……こっちは球を打ち返すだけで精一杯なのに、ズルい……。


 今俺が打ち返した甘く、若干緩くなった球は俺の心情の動揺そのものだ。

 


 そしてフルスマッシュの打ち合いになる。


 俺達は無言で真剣に打ち合う。こんな時には言葉はいらない……。


 これはそんなもんじゃない……。


カッカッカッ……カッ…………

 

 球がネットに引っ掛かり、動きが停止する。


 彼女のミスでラリーは終わってしまったのだ……。

 正直、勝った負けただの俺にはどうでも良かった。


 そんなことよりも……もう。


「ねえ? まだ時間あるでしょ? しばらく付き合ってよ?」


 彼女は表情を見た感じ、少し悔しそうな顔をしていたが、声の感じは怒りよりも別の感情がこもっている感じがした?


「え? ああ」


 俺はラリーを続けれる嬉しさと、にその申し出を受ける。


 結果、今度は俺がミスをする。


「ふふっ、私の勝ちだね!」


 彼女は笑顔で本当に嬉しそうだ。

 相変わらず負けず嫌いのご様子……。


「……とりあえず一対一じゃね?」


 正直ムッとした。


 俺も高校受験や厳しい部活で色んな物をやりきる自信が付いていたので、プライドという今まで持っていないものが身に付いていたからだ。


 そして次の言葉が自然とでた。


「まだ……まだ俺と付き合えよ!」


 俺の言葉に対し、彼女は何か考えているようだった? そして、俺の目を真剣な目で見つめる。何だろう?


「いいよ……ずっと付き合ってあげる……」


 彼女のいつもの勝気な強い声のトーンじゃない。


 今まで聞いたことがない静かな甘えるような声だった。


「えっ?」


 俺は彼女の言わんとしている言葉の真の意味と、その声の理由が分からず困惑し、対して彼女はクスクスと可愛らしく笑う。

 

「……私の告白に対して返したんでしょ?」


 彼女の優しく包容力があり、甘える女性の言葉が『俺のハート』に突き刺さる。


カッカッカッ……カッ…………


 あれ? あっ……これは参った。だわ……。


 そう、なのである……。 





 






 


 


 

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ピンポンハートスマッシュ こんろんかずお @hiisan0624

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