2クールアニメの第7話ぐらいのやつ

澄岡京樹

第7話「日常/イルマの残響」

2クールアニメの7話ぐらいのやつ



◇前回までのあらすじ◇

 【魔導】のセンチネル・プライムとの取引によって一時休戦することに成功したジョウとヒドイ。だがヒドイが何を司るセンチネルなのか未だにわからないジョウは、どうにかして彼女との距離を近づけようとしていた……。



第7話「喫茶店に行こう」



「というわけでヒドイちゃん。今からサ店に行くぜ!」

 俺がそう言ってから数秒後、ぽかんとしていたヒドイちゃんがようやく口を開いた。


「サ店ってなんですか?」

「そこからかー」

 まずサ店が何の略語であるのか、というところから話し始めなければならなかった。センチネルは残留思念の集合体。特定の分野に偏りすぎた場合、現代の知識を持たない場合もあるだろう。とりあえずそういうことなのだと思った。


「サ店ってのは喫茶店のことなんだワ」

「喫茶店ってなんですか?」

「マジかーー」


 ヒドイちゃんはひょっとすると、喫茶店がまだ存在しなかった頃から地上に留まり続けている残留思念が核になっているセンチネルなのかもしれない。バスターとプライムはわりと最近のこともわかっていたようだしこの推測は正解なのではなかろうか。


「ま、とにかく行こうぜ。ヒドイちゃんの好きなほうじ茶もあるからさ」

「ほんとですか!!! やったーーー!!!」

 キャッホー、などとハイテンションのヒドイちゃん。俺よりちょい歳下ぐらいの彼女は、何があって残留思念となってしまったのだろう。そのあたりも聞けるといいな。そのように思った。


 そんなこんなで〈喫茶つきみね〉にやってきたのだが——————


「げ。進堂くん。なんでここに?」

 そこではバスターとその依代であるエリカ先輩が既にティータイムを楽しんでいた。


「ありゃ、二人も来てたんすか」

「あー! 筋肉ヤロー! 次もぶったおす!」

「進堂くん、外出歩くのね。ちょっと意外だったわ」

「おー初日以来にバトるか〜〜??」


 混線する会話。戦闘を行うつもりなんて毛頭ない——というか夜じゃないのでセンチネルの出力だって抑え目でしょうが。このままでは泥試合ですよ? いやまあ実際外は年がら年中雨なので文字どおり泥試合になりかねないんですが。

 ——ていうか。


「エリカ先輩。俺だって外出歩きますよ。この俺が常に部屋に篭ってギャルゲやってるだけの男に見えますか?」

「見えるわね」

「見えてたかー」

 いやまあそれほぼ正解なんですけどね。もっと言うと俺ってばアリスさんルートばっか遊んでるからね。アリスさん本当に最高のヒロインだからね。


「ていうか前アンタがギャルゲ遊んでるとこ見たことあるけど、アリスって姉さんの名前だからちょっと複雑だったわね」

「え、なんで複雑なんですか。名前が一緒なだけであってエリカ先輩のお姉さんを俺がどうこうってわけじゃないですよ」

 そう言うとエリカ先輩は少し言い淀みかけて、そして言った。


「——本当に覚えてないのね進堂くん。……あなた、?」

「————え」


 ——わからない。突然知らない情報が流れ込んできた。俺が爺ちゃんの住んでいたこの町に来たのは大学に進学した去年が初めてのはずだ。だからそれは何かおかしい、おかしいはず、だ——


「ちょっとお兄さん! どうしたんですか!!」

「————はっ、」


 ヒドイちゃんの言葉で我に帰る。……わかってはいたが俺は本当にボーッとした性格のようだ。小さい頃にもこの町に来ていただなんてな。俺じゃなくてエリカ先輩の方が覚えているとは驚きだ。


「ていうかエリカ先輩、俺のこと知ってたんすね」

「あ、ええまあ確かにうん、そうなのよ……」

 少し顔を赤くさせながら答えるエリカ先輩。少しアリスさんに見えなくもないのでちょっとだけ可愛いなとか思った。普段はマジでクールなので可愛いというよりカッコいいので意外だった。


「お兄さーん、ほうじ茶飲みましょほうじ茶! ここらであったかーいほうじ茶がこわい!」


\どっ/


 などとどこからともなく聴こえてくるリアクション。ヒドイちゃんの持ちネタの一つである。これによって俺はますますヒドイちゃんの正体がわからなくなっている。だって彼女の武器は鎖付きの鉄球なのだから。


「……なあ、兄さんよ」

 ふと、バスターに声をかけられる。普段のお調子者なテンションはどこへやら。そこには知的な眼光が鋭く光っていた。

「な、なんすか」

「ま、依代である兄さんにも言いたくないことだってある。それが正体であっても、な」

「…………」


 ヒドイちゃんの正体。訊くべきか否か迷い続けているそれを、バスターは訊くべきでないと暗に示した。


「ま、今はだよ。言ってもいいってアイツが思うまで待ってやるってのも、できる依代の器量ってやつよ」

「バスター……」


 ……ヒドイちゃんが隠していること、言えずにいること。きっとたくさんあるのだろう。けれど俺は信じて待とう、今は、そう思うことにした。



雷光の永雨城・第7話、了。

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2クールアニメの第7話ぐらいのやつ 澄岡京樹 @TapiokanotC

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