最終話 夏休みの計画@ランチタイム
太陽の香り。やはりここが落ち着く。
「どうも」
「よう、三上」
俺が定位置についたところで、玉城と橋本が手を挙げて現れた。ふたりとも弁当箱を持っている。
「リア充どもがなんの用?」
一緒に飯を食いにきたに決まってんだろ。
せっかく来てくれた友達になんて言い様だ。
「黙ってください」
玉城が素っ気なくこたえて、三上の隣に正座する。
「うわっ、機嫌わるっ」
「三上さんがそういう感じなら、その髪飾り、返してもらいますよ?」
「あんたが貸してくれたんでしょうが」
三上は頭の髪飾りを大事そうに撫でている。ほんと、仕草だけはいっちょ前の美少女。
「結構気に入ってるのよねぇ」
「髪が伸びたら、即刻返してくださいよ」
「わかってるわよ。あんたこそ、前に貸した漫画、早く返しなさいよ」
「はいはい。あと10年くらい借りといてもいいですかね」
「この借りパク女!」
「まぁまぁ三上。章子ちゃんな、友達減ってイラついとるで。優しくしたって」
「余計なことは言わないでください」
「ごめん、ごめん」
橋本も芝生に腰を下ろし、三人が輪になった。
「で、なにしに来たのよ?」
「ボッチの三上さんがかわいそうだから、ここでご飯を食べることにしたんですよ」
「だったら、帰りなさいよ。あ、ただし、弁当は置いていくこと」
「嫌ですよ」
「もう、二人ともイチャイチャせんといてくれやん?」
「してないです!」
「してないわよ!」
玉城と三上がハモる。息ぴったりである。
「っていうか、しょうーもない言い合いしとる場合とちゃうやろ? 夏休みの計画、相談しにきたんやろ?」
橋本が子どもをあやすみたいに、玉城の顔をのぞき込む。
「そ、そうでしたね」
玉城が咳払いをしながら、女子にしては少し大きめの弁当箱を風呂敷の上に広げた。
「早く言いなさいよ」
悪態をつく三上だったが、「夏休みの計画」と聞いてまんざらでもないようだ。毎度のごとく、顔がニヤけている。
「はい、お箸」
「えっ」
目を丸くして、玉城から割り箸を受け取る三上。その膝元に、色とりどりのおかずが差し出される。
うまそうな匂い。俺も食欲がそそられる。
「どうぞ。三上さんも良かったら食べてください」
「えっ、いいの!?」
「はい。料理のうまさを見せつけたいので」
「ふん、いちいち嫌なやつ」
「ええから、早く食べよ。うち、お腹減ったわ」
三人が手を合わせて「いただきます」をする。
幸福なランチタイムの幕開けである。
「おいしい!」
「当然です。かすみちゃんも食べていいですよ?」
「あ、もらう、もらう」
「お茶もありますよ」
「気が効くわねぇ」
「さすが章子ちゃんや」
ああっ、俺も混ざりたい。っていうか腹減った。
俺は三上の膝から降りて軽く跳ねてみせる。こっちにもおかずよこせアピール。
「ウサギにもあげるわ」
すると、先に橋本が自分の弁当箱をゴソゴソと漁り出す。
お前はほんとによく気がつく……。
「これ好きやろ?」
スライスにんじん。
ウサギとしては大正解。でも俺は人間だ。肉をよこせ、肉を。
「うわっ、かわいい、めっちゃおいしそうに食べとる」
両手でにんじんを持ってかじるウサギ。
貰ったからありがたくいただいてるだけだよ。
「また、あとで、肉でもなんでも、あげるから、大人しくしなさいよ」
三上は玉城の弁当を頬張りながらモゾモゾと言った。こいつ、今は自分の飯のことで頭がいっぱいってか。
「で、夏休みは、どこに行きますか?」
「……ん!」
三上が真っ先に手を挙げ、胸を叩いて飯を飲み込む。
「海よ! 海!」
「おっ、ええやん。うちも同じこと考えとったわ。友達と海とか憧れるやん」
「あら、奇遇ですね。私も友達と海に行ってみたかったんですよね」
三人が箸を片手に顔を見合わせる。
「あれ? 章子ちゃん、みんなと海行ったことないの?」
「はい。去年の夏休みは、ずっと実家にこもってゲームしてました」
「ええっ、引きこもりやん」
「失礼な! そういうかすみちゃんはどうなんですか?」
「うち? うちはずっと部活。強豪やでな」
「でも、かすみちゃん、大会とか早々に負けてたじゃないですか」
「応援っていう重要な役割があんねん」
「鶏口牛後。かすみちゃんは牛のケツってところですね」
「ちょっ、ひどいな! っていうか臭そう」
「それはさておき、みんな、海に行くのは、はじめてなんですね」
「おい」
「なんや? 三上」
「私にも、海に行ったことあるかききなさいよ」
「どうせ家にいたんですよね?」
「そ、そうだけど……」
「きくまでもないやん!」
「う、うっさい!」
三人は穏やかに罵り合いを続ける。
俺は空腹なんて忘れるくらい、その様子にすっかり見とれてしまっていた。こいつらのやり取り、何回見ても飽きない。
「そういえば、三上さ、彼氏は連れてかへんの?」
「は? 彼氏?」
三上の背筋がピンと伸びる。
「伴くんのことですよ」
俺の心臓がドキっと跳ねる。
やはり、目の前で自分の名前を出されると弱い。
「し、知らないわよ、あんなやつ!」
「最近、ちょくちょく話しとるやん。付き合っとるんちゃうの?」
「違うって! 誰があんな変態と!」
「変態なんですか」
「と、とにかく、夏休みの旅行は私ら3人で行くの!」
三上が立ち上がり、胸の前で拳を握る。
さっきまでの話を聞く限り、3人揃って友達と海に行くのははじめてみたいだからな。みんなの水着姿が見られないのはちょっと残念だけど、今回は、3人で存分に楽しんできてもらうか……。
「ただ、ウサギは連れてく」
なんて、考えていたら、三上がひょいと俺を抱き上げる。
「ウサギさん、いいですね。彼氏の代わりに」
「な、なんでそうなんのよ!」
「なんとなくです」
口笛を吹く玉城。いや、全然吹けてないけどな。
っていうか、その台詞どっかで聞いたような……いや、気のせいか。
「三上はほんまにそのウサギが好きなんやな」
「ま、まぁね」
ちょっとだけ頬を染める三上。
ウサギ状態とはいえ、まさか同行できるなんて……。
ありがてぇぇ。
俺は目だけで三上に感謝を伝える。
当然のように視線を外されたが。
それにしても、夏休みに女子3人で海か。
まず気になるのはやはり水着。これは外せない。三上はフリフリのついたかわいい系を選びそうだな。玉城はスク水の可能性あり。橋本は絶対大人っぽいセパレートのやつ。それから、泊まるのは旅館だろう。ウサギも一緒に温泉行くとかならないかなぁ。夜は一緒の布団で……って、妄想が止らねぇ!
あ、それと、玉城の縁結びも忘れたらいけないな。
海、ナンパ、ひと夏の恋。なんかありそう!
「じゃあ、旅行の詳しい段取りは、また放課後にゆっくりしましょうか」
「そうね。こういうのは、計画を立てるところも楽しいのよ」
「それ、わかるわぁ」
「では、そういうことで、あそこのファミレスにでも寄っていきますか?」
玉城の提案。
俺は思わず三上の顔を見上げる。三上も同じく驚いた表情で俺を見下ろしていた。
「定番やな。ええと思う」
「三上さんは?」
玉城と橋本が三上を見つめて、返事を待つ。
放課後に友達とファミレス。
こんな他愛のないことでさえ、三上にとっては憧れだったはず。
いい友達ができて、本当に良かったな……。
ウサギを抱いた三上の顔がぱぁっと明るくなり、
「……うん!」
夏空の下に元気な声が響き渡った。
(了)
嫌われヒロインのかわいさは、ウサギだけが知っている かっさいひろか @kss24dk
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