第14話
モルトとの訓練が終わり、宿に戻ったメルトはベッドに横になる。
「実力はあるけど経験が致命的に足りない……か」
それは今日モルトから下された評価だ。実際にメルト自身の実力がないということはないが、それを生かせる判断力などが不足しているのだ。
「もっと実戦になれないと」
脳裏に浮かぶのは先日の盗賊戦だ。自身よりも遙に自力の劣る相手に苦戦を強いられ、あまつさえ逃げられるなどという愚行を犯してしまったのだ。
「ウロボロス時代だったらあり得ないなこんなことだな」
感覚が制限されていたウロボロスと現実となった今では身体の感覚が違う。そしてなにより日本という平和な国で生まれ育ったメルトにとって実際に生き物を殺すということは意識していなくとも心を蝕んでいる。
「ふわぁぁ。このまま寝ちゃうか」
想像以上に疲労していたのかメルトは大きなあくび1つして眼を瞑る。
「明日は今日よりもうまく戦えるようになるといいな」
明日のことを考えながらメルトは柔らかなベッドの中で夢に落ちて行く。
***
「おいおい、それじゃ目眩しにしかならねえぜ!」
「そりゃただの目眩しですからね!」
メルトの発現した巨大な火球を正面から打ち破り突っ込んでくるモルトにメルトは声を荒げながら次の一手を打つ。
モルトが火球を抜けると同時に正面から剣が迫る。勝利を確信しながら降られた剣はしかし、剣が届くよりも先にモルトの大剣が突きつけられる。
「ほい、また俺の勝ち」
「くっそ」
モルトの勝利宣言と共に首に突き付けられた大剣に悪態をつく。
「おしおし、だいぶ良くなったじゃねえか!」
「でも全然差が縮まった気がしないんですけど」
戦えば戦うほど感じるモルトとの差に素直に喜べないでいるとモルトは苦笑する。
「そりゃ一日二日で何年も鍛えてる俺との差が縮まるはずないだろ。そんなことできる奴は化け物だよ」
モルトの表情が一瞬陰るが、すぐ元のモルトに戻る。何かの見間違いかとメルトは目を擦るが、昨日ととくに変わったところはない。
「とりあえず休憩にするか。朝から昼までずっと休憩なしで疲れたしな」
「もうそんなに時間が経ったんですね。全く気が付きませんでした」
訓練に夢中で時間を忘れていたメルトは、今が昼であることを知り急に空腹と疲労に襲われる。
「ははは! かわいい音だな」
「笑わないでくださいよ」
「わるいわるい! でもちょうどいい時間だな。リーザたち誘って飯行くか」
「はぁ、そうですね」
メルトの抗議に全く悪びれた様子もなく昼食に誘うモルトに溜息を吐く。
「よしそれじゃ俺のおすすめを奢ってやろう!」
そう言って歩いて行くモルトの後に続いてメルトは訓練所を後にした。
ウロボロスより異世界へ 聖瑞水琴 @mikotto0829
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