第13話

 目の前で呆れているモルトに恥ずかしくなる。


「い、いえ少し制御を誤ってしまっただけです」


 赤面しながら今度こそと魔力を込める。


「ライトニングランス」


 今度は1つだけ発現させる。


「行け」


 初めて発現させたこともあり、思ったよりも制御が効かない。これではモルトに直撃することはないだろう。


「おいおい、初手でそんな攻撃でいいのかよ」


 案の定メルトの攻撃は軽々と回避された。が、モルトは回避した場所から一向に動かない。


「雷鳴魔法『雷槍』」


 今度はいつも通りの魔法を発現させる。


「必要魔力量が違う」


「熟練度の違い? それとも別の要因がある? いや、熟練度は違うか、だとしても雷槍に比べてあまりにも消費魔力が多すぎる。これなら雷槍5本は撃てる」


 ライトニングランスと雷槍の必要魔力量の違いについて腕を組んで考える。


「おいおい、戦闘中に考え事か?」


 すぐ目の前から声が聞こえて、今が戦闘中だと思い出し飛び退く。


 先ほどまでメルトがいた場所にモルトの拳が突き刺さる。


 判断がもう少し遅かった直撃していたことを想像して冷や汗を流しながら次の手を打つ。


「大地魔法『砂粒化』」


 メルトが魔法を唱え、足で地面を叩くと地面が砂粒と変化した。


「はっ、面白い魔術使うな」


 楽し気に笑うモルトは、足に魔力を纏わせると何事もないかのように動き始める。


「そんなのありですか」


 魔力を一部分に纏わせるなんて芸当は魔力操作をこの世界に来てから意識しはじめたメルトには不可能な芸当だ。故にモルトのように足場不良の場所でも問題なく行動できる技術があることを失念していた。


「ありなんだなぁそれが!」


 再びメルトの眼前に到達したモルトが叫びながら拳を振るう。咄嗟に避けようとするも、メルト自身が発現させた魔法によって身動きが阻害され思うように動けない。


「とりあえず一発だっ!」


 鋭い拳が腹部に突き刺さる直前、メルトは咄嗟に防御力アップの効果のある大地属性のエンチャントに切り替えて腕で拳を受け止める。


 それでも完全に防ぎ切る事はできず後ろに吹き飛ぶ。


「絶対さっきより強いだろっ 火焔魔法『炎球』!」


 なんとか着地して痛む腕を抑えながらモルトを牽制する。


「はっ」


 炎球を間一髪で躱したモルトに、攻撃させまいと次の魔法を発現させる。


「大地魔法『クリスタルソード』」


 通常の3倍の魔力を通して発現させたクリスタルソードがモルトを襲う。決して早いとは言えないそれを避けながら後退して放置してあった大剣を担ぐ。


「これならもう少し本気でやっても大丈夫そうだな」


 獰猛に笑うその顔はまるで得物を前にした猛獣のようで、常人ならば視線を向けられただけで恐怖に支配されてしまうだろう。

 現にメルトは今まで感じたことのないプレッシャーを感じわずかに後ずさってしまった。


「おいおい、そんなんじゃこれから先冒険者なんてやってけねえぞ?」


 内心でモルトのような人間が冒険者にうじゃうじゃいてたまるかというツッコミをしつつ、自分も魔法で剣を作成する。


「それじゃ、死ぬんじゃねえぞ」


 メルトが対応できていたさっきまでよりも速度が更に上がったモルトはメルトが魔法を発動するよりも早く剣を振るい始める。既に砂粒化は解除され堅い地面に戻っているが、それでも回避に費やす時間はない。


 防ぎきれないことを承知で剣を軌道上に置く。それと同時に無詠唱の土壁モルトの足元から発現させる。


「うおっ」


 予想外の攻撃に体勢を崩したモルトに好機ととらえ、更に魔法を発現させる。


「雷鳴魔法『雷電』!」


 一筋の稲妻が回避する余裕のないモルトを貫く。


「がっ!」


「よしっ」


 ずっと通らなかったモルトへの攻撃がようやく通ったことへの喜びでテンションが上がる。モルトやリーザに手も足も出なかったことで自信を失いかけていたのでこれはメルトにとっては喜ばしいことだ。だがそれがよくなかった。


「よそ見すんな」


 魔法をくらい動けないはずのモルトがなぜという疑問よりも先に衝撃に襲われる。殺す気ではなかったもののモルトの攻撃をまともに食らったメルトは、後方の壁に叩きつけられる。


「かはっ!」


 壁に叩きつけられ体内の空気が体外へあふれる。 メルトは意識を保つことが出来ずにそのまま気絶した。


「やべ、ついやりすぎちまった」


 その場にはモルトがばつの悪い顔で呟いたそれが響いただけだった。

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