第43話『出会いの地、再び』

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 ちょっとばかしフェルトと二人で旅に出ると、そうロディとリリーに伝えた。


 その間は店じまいをするから、休暇にしてやったのだが……ロディはともかくリリーはなぜか悲しそうな顔をしていた。反論することはなくとも、その表情一つで、俺の良心が揺らいじまう。だからここはグッと我慢し、心を鬼にした。



――安心しろ。別に危険なことは何もないからさ。



 その言葉をリリーに送り、俺は行き先不明の旅に出た。


 いつも通り、お気に入りのゴスロリを着てきたフェルトは、今日は珍しくポニーテールに髪を束ねていた。いつもは下ろすかツインテールにしてるのに、どういう風の吹きましだろう?


 ま、そんな野暮なことは聞きはしないけど。



「ナオシさん」



 そんなことを考えていると、フェルトに声をかけられた。手をつないでいる左手をやさしく引っ張りながら名前を呼びかける姿は、なんだか妹みたいに感じた。



「どうしたよフェルト?」


「まだ行き先を聞いていません。どこへ行くんですか」


「そりゃあ……そうだな。まずは俺とお前が出会ったあの街に行こうぜ」



 俺が知っている人で、裏の世界に精通している人といえば、あの人しかいない。


 別に仲が良い訳ではないが、顔見知りであるのは変わりない。もしかすると、何らかの情報を手に入れることができるかもしれないんだ。



「あの街ですか」


「フェルトは嫌か? あの街に行くのは」


「いいえ。何の問題もありません。ナオシさんがそこへ行くと言うのなら、私は付いていくだけです」


「そっか。じゃあまず、足を手に入れないと。ヒッチハイクだな~」



 そうして俺たち二人はヒッチハイクを繰り返し、どんどんあの街に近づいていった。


 あのフェルトとの始まりの地の名前は《カロールタウン》といって、一昔前は炭鉱の街として繁栄したらしいが、エネルギー源が電気やら何やらの次世代エネルギーにシフトしたおかげで衰退しちまったらしい。元々いた人たちは離れて行き、気がつけば悪い人たちのたまり場になっちまったと。


 なんともまぁ、ありがちな話だわな。



「ありがとうございました! 何かお困り名事があれば、ぜひ連絡していただければと思います。とってもサービスしますよ!」


「あいよ。本当に困ったときには連絡させてもらうかな。じゃあなニーチャン、気ィ付けろよ」


「はい。ありがとうございました。それでは!」



 車に乗せてもらった俺は、ドライバーのおじさんにお礼と宣伝をして別れる。


 さぁて、ようやく付いたぞカロールタウン! あの黒スーツの男は元気にやってんのかな? 今でも悪党なりに頑張ってるといいけど……。



「フェルト、あの黒スーツのリーダーさんの居場所ってどこだったっけ?」


「大丈夫です。覚えていますので案内します」


「よろしく頼むよ」



 俺はフェルトの案内で、再びこの地を歩む。約一年前の出来事だったが、あまりにも自分を変えるのに大きなイベントであったのは間違いない。


 フェルトと出会った道端を通り、危うく入りかけたラブホテル、そして休憩がてらに入った寂れた薄汚い喫茶店を通り過ぎ、ゴロツキが沢山いる区域へと入っていく。



 俺とフェルトを見た瞬間、ゴロツキたちは勝手に一歩後ろに下がる。どうやらあの一年前の出来事がキッカケで、俺たちは有名人になってしまったらしい。一年という歳月が過ぎ去ってもなお、俺とフェルトのことを覚えているとか、相当なインパクトだったんだろうな……。



「ここです、ナオシさん」


「おう。……お久しぶりです。俺のこと、覚えていますか?」



 いかにもな茶色く日焼けしたゴッツイ野郎二人が事務所の入り口を警備していた。


 俺は臆することなくその二人に話しかける。なぜなら、その二人は見覚えがあるからであって、フェルトの圧倒的な力を実際に見ているからだ。だから、ここは俺の方が力があって上の存在であることをアピールする必要がある。



「あぁ、覚えているぞ小僧。今頃ここに来て何の用だ?」


「ちょいとね、あんたらのお頭さんに聞きたいことがあるのさ。もちろん、情報料として幾ばくかの金も用意してある。ここは穏便に済ませたいんだけど、話通してくれない?」


「……待ってろ」



 一人が事務所の中へと入っていき、もう一人が俺のことを監視している。


 別に暴れたりする気はないんだけども……用心深さが半端ないことになってる。これは相当ビビッてると見た。まぁ、全方位からの銃弾の嵐を無傷で済まし、腕を切り落とすということを仕出かしたんだ。ビビるなって方が無理な話か。



「入れ」



 すると黒スーツの屈強な男が出てきて、ただそう一言だけ言った。


 俺は約一年ぶりの事務所の中に入り、久しい顔をみることとなった。



「久しいな、サカイ。なに、俺に聞きたいことがあるって?」



 黒いハットとスーツを着た中肉中背の男が、この街――カロールタウンを取り仕切っている支配者。金・暴力・セックス。そのすべてを手に入れた俺とは正反対の、根っからの悪人。



「あぁ。だがその前に、お前の名前を聞いておきたい。一年前は名前も聞かずにフェルトを連れて行っちまったからな」


「そういえば、そうだったな。俺の名前はウルフガング。一応、この街を取り締まっているんだが……」


「どうしたんだ? 何か変わったことでも?」


「お前さんがフェルトを連れて行った件で、ちょいと俺たちが嘗められちまっているってわけさ。ま、それでもすべて返り討ちにしてやってるがな」


「そうか……面倒くさいことになってるってわけか」


「そうなんだよ。お前のせいでな。はぁ……フェルトにあんな力があるとはなぁ。まったく持って予想外、そんでもってその力が欲しい」



 すると、またもや俺たちはウルフガングの下っ端に囲まれた。


 どうやらフェルトを奪い返す気らしい。だが、フェルトの力を手に入れるには――。



「やめておいた方が良いと思います」



 平坦な声が、その場を支配する。


 フェルトはウルフガングの言葉を待たずして、その言葉の先を言った。



「私の、ジェネレーターの力は強い精神汚染をもたらします。それに耐性がある方でないと、廃人と化しますよ」



 サラッと恐ろしいことを感情もなく喋るフェルトに、少々鳥肌が立つ。


 でも、俺は耐性があったために、あの気が狂いそうな感覚を耐え抜いて、そしてフェルトの力を手に入れることができた。



「サカイが、その耐性のある野郎だってのか?」


「その通りです。そして、元主様、あなたは私の力を手にしたら最後、気が狂い発狂することでしょう」


「元、主様ね……。そうか、あんなトンデモない力が誰彼構わず使うことができれば苦労はないわな。そうか、そういうことなら俺はサカイ、お前に依頼をしたい」


「は?」



 ウルフガングが、この俺に依頼だって?



「お前、今は何でも屋をしてんだろ? それに、何かやって欲しいことがあれば言ってくれと言ったのはお前だろう? その自分の言葉に責任を感じてくれなきゃな」


「……俺が聞きたいことも、その依頼を達成してからってことか」


「察しが早くて助かるよ。ま、簡単な仕事だからちゃちゃっと片してくれ」


「内容による」


「なぁに、俺に歯向かおうとしてるある団体をこらしめて欲しいのよ。力不相応だというのに調子に乗ってる輩は、ちょいと痛い目にあってもらう必要があるからな」


「その依頼を受ける前に、俺の質問に答えられるかどうか、その確認をしておきたい」


「おう、大事なことだなそりゃあ。で、何が聞きたいんだ?」


「ヘーレジア、聞いたこともない兵器の存在、フェルトと同じく、その身を武器に変える粒子をばら撒く存在。そして、この前の選挙の裏側。ここら辺で知っていることは?」



 ウルフガングは少し黙り込んだ。あれは何か知っている表情に違いない。



「お前、ヘーレジアと言ったか?」


「確かに俺はヘーレジアについて何か知っていないかと聞いたな」


「ヘーレジア、兵器、選挙……ついこの間の事件のことの裏側を知りたいってことね。オーケー、俺の依頼を達成してくれた暁には俺の知っていることを全て話してやろう」


「その言葉、忘れるなよ? 俺に面倒な仕事だけ押し付けただけなら、お前の命はないと思ってくれ」


「おー怖い。心配しなくとも、お前さんとフェルトの力は十分わかってるさ。しょうもない嘘をついて死にたくはないよ」



 ここいらを取り仕切っているボスが下手なウソを吐いてその身を危険に晒すようなバカなマネはさすがにしねぇか。と、いうことは、ウルフガングは確かにこの前の選挙の裏側を知っているということ。


 ならば話は早い。


 こいつの言う通り、ちゃっちゃと依頼を片すに限る。



「ならば早速行こうか。ここまで来て、悠長にしているほど俺は暇じゃない。先に進めるってんなら、立ち止まっている必要はないんだからな」


「よぉうし。サカイ、頼んだぜ」

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最強の武器になれる美少女に選ばれた俺は異世界で何でも屋をやっちゃります! 加藤あきら @kato_akira

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