第2話

 冷えた廊下に二人の靴音が響く。それはこのフロアの一番奥に位置する部屋に向かって進み、ドアの前で規律正しく止まった。

 「ここで待て」

 部下は敬礼をしてドアの横に立った。そして正確にドアがノックされる。

 「入れ」

 中から重い響きの声がした。入ると司令官としては小さな執務室であり、奥の窓際のデスクで迷彩戦闘服姿の将校が書類に目を通していた。

 「風間一等陸尉・・」

 上官は手で入室要領は省略しろと合図した。風間一尉はすぐさま部屋を横切り、デスク前について姿勢をただした。

 「市ヶ谷から連絡があり報告に参りました。」

 特殊作戦群群長、大和田利治は眼鏡を外して軽く目頭をさすった。

「書類とコイツを付き合わせていると目がやられる。」

 風間一尉は手にしていたタブレットコンピューターを机に起き、画像を拡大した。

 「画像に写っている、この人物が該当者と思われます。情報保全も事件当日にこの店舗の情報端末から複数箇所のサーバーへの侵入形跡があったことを確認しています。」

 「うむ、しかしこれで対象人物を判断するには、すこし厳しくないか。」

 都内の雑居ビルに集まった消防と警察車両の赤色灯が反射し、かろうじて黒い背中が見えるくらいの画像だ。身長くらいは判断できるかもしれないが、確定的に顔がわかったりするものではない。

 「現在、自分の班の者がこの人物を継続追跡中です。この手の人物はいずれ情報端末に接触すると思いますので、確保も容易かと思います。」

 大和田は静かに椅子から立ち上がり、窓から見渡せる駐屯地内の風景を眺めた。

 「警察の動きがでれば、我々よりこの人物の確保は早い。人員の数が違うからな。で、折衝役は誰がやるんだ。」

 「自分が行います。内藤も同行させます。」

 「そうか、長期に部隊の主軸が二人もいなくなるのは困る。作戦は迅速に終了してくれよ。」

 風間は敬礼をすると、ふたたび部屋を横切りドアの前で礼をして外に出た。ドアの横で直立不動で待っていた隊員とともに再び来た廊下を戻る。

 「聞いていただろう、内藤曹長。」

 「いえ、壁から漏れてくる音は聞こえておりましたが、」

 風間は内藤の巧みな返事に口元をゆるめた。

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砂上の城 @hodakasora

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