第13話
わりと早い内から、ライオネルが自身を拾った青年について思っていたことだが、少年は無防備かつ、無謀だ。
安定した魂と精神を持ちながら、何処か安定しない危うさは、見るものを苛立たせ、心配させる。
まるで、青い炎の先端、朱色に揺らめくそこのように。
(今も、そうだ。俺に干渉するつもりは無いといっておいて、気をかけさせる。)
近づけるなら近づいてみると良い。そう、覚束ず揺れる白を、思わず掴んでしまった。
築何十年といったか。ぎし、ぎしり。
続く雨で湿気った床板の軋みが煩い。首のしまるのに抵抗していたのも、体勢を変えて対応した少年は、大人しく後ろをついてきている。するりとライオネルの骨ばった指を首から外すと、その指を絡めて手を繋いだのだ。
曇りガラスのドアを叩き、住人の不在を確認。返ってこない物音に、ライオネルは繋いだ手を引いて中に入った。
学ランはクリーニングに出して今はない。直に着たTシャツをおもむろに脱いだライオネルに驚くこともなく、少年も続く。
既に湯船を占領した彼に少し笑うと、用意された風呂桶と椅子にもっと笑った。
「優しいですね、ライオネルさんは。」
「……さっさと洗え」
どうせまた無理をしたんだろう。
続いた声に、ふっと目元に影が射し……ぐしゃぐしゃ髪をかき混ぜられたことで消える。元来面倒見の良いライオネルは、たまに、少年をこうして介抱したり、風呂に連れてきていた。
『あの子、フラフラで帰ってきてもそのまま寝ちゃったりしてさ、危なっかしいんだよ……え、わかる? だよねぇ。だからさ、ちょっとでいいんだ、様子を見てやってくれないかなぁ』
叔父の言葉だ。
仕方ないなと頷いてからまだ1ヶ月もたっていないのに、ライオネルがこの状態の少年を見るのはもう何度目か知れない。
1度、2度めはライオネルの存在に身体を固くさせていた少年は、今は躊躇いもない。
少年が湯船の端に手をつき、肘おきに頬をのせる。
ライオネルは、髪と肌の、藍と白の境目を眺めた。
すると少年が眩しいものを見るようにこちらを見遣るので、わざと外していた視線を不意に合わせる。
「俺の存在は、不快ではないか」
問いかけなのか、断定なのか、どちらとも取れる問い。少年は、まったく彼らしいと思う。
「まさか。そうだったとしたら、こんなに気を許していません」
見透かされそうだと思っていたのは、どちらだったか。
今日も、ライオネルと少年は一定の距離を保っている。その距離のお陰で自然体でいられるのかもしれないし、単に波長が、気が合うのかもしれない。
どちらにせよこの関係を、両者とも気に入っていることは、確かだった。
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