とあるビルの屋上で、私たちは目を醒ました。

「おはよう、エミ」

「おはよう。今日はどこに行こうか」

 きみが今日も笑いかけてくれるから、私も笑顔を返す。……きみにいったことは無かったけどね、これが、今私が笑ってる本当の理由なんだよ。きみがそう決めたからじゃなくて、私がしたいように笑ってるんだよ。

「そうだねえ……でも、どこへ行くかを決める前に」

 私、きみに伝えたいことがあるんだ。

 そう言うと、きみは少しだけ目を見開いて、怯えたのを取り繕おうと仏頂面になる。「……何」なんて低い声でいうけど、そんなに怖がらなくていいって。

「実はね、きみの名前を、ようやく思いついたんだ。聞いてくれる?」

「……その名前を、呼び続けてくれるなら」

「もっちろん!」

 そう言うと私は、きみの耳元に口を寄せる。

「きみの名前はね――」

 私がそれを囁くと、きみはとびっきりの笑顔になった。

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廃都のふたり 朽葉陽々 @Akiyo19Kuchiha31

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