機人と称される女性型アンドロイドパイロットと、その性能テストのための模擬戦を担当することになったベテラン戦闘機乗りの、二週間にわたる訓練と交流のお話。
SFです。それもハードSFというよりはエンタメ寄り、というかもうロマン方面に突き抜けたような、ただただ格好良くて気持ちの良い物語です。読者の欲しいものを欲しいタイミングでさりげなく差し出してくれる、仕事ぶりの完璧なコンシェルジュみたいな作品でした。たぶん「出来が良い」という形容が一番しっくりくる感じ。
最大の魅力は作品全体に通底するわかりやすさ、ある種のホスピタリティのような部分です。「とにかく読んだ以上は満足して帰ってもらう」という圧の凄まじさ。テーマやモチーフそのものはある種定番ともいえるくらいの王道感があって、なのに決して軽くない。しっかり腹に溜まる読み応えがありながら、でも読んでいてつっかえるような難解さは徹底して排除されている。すごい。作中のあらゆる格好よさや心地よさが、ちゃんと「読者にとって」のそれになっている、このバランス感覚とサービス精神。仕事人すぎて惚れ惚れします。
個人的に大好きなのが、というかここを見た時点でもう「参りました」ってなったのが、一番最初の導入部。情け容赦のないテクニカルタームの連打。個々の正確な意味はわからなくとも、でも「なんらかの航空機の離陸」ということだけははっきりとわかって、そしてだからこそ気持ちがいい。語の意味がわかればなおのこと、わからなくともわからないからこそ魅力的に見える。この〝文章の意味を超えて本当に読ませたいもの〟をぶつけてくる、その手管っていうかもう絶技に惚れ惚れしました。こんな美しい滑り出しで始まる物語、面白くないはずがない。
最高でした。なんというか、ロマンの原液をそのまま静脈注射されたような気分。もちろんただ格好いばかりでなく、胸に響くドラマをも投げつけてくれる、極上の娯楽小説でした。面白かったです!
筆者初の空戦もの(漏れてたらすみません)。
架空の世界なのか、少し先の未来の話なのか、作中で多くは語られないものの、おそらく精巧なアンドロイドは既に実用化されており、この度戦闘機パイロットとしても導入が試みられる、と言ったところだろうか。
筆者が得意とする登場人物同士の軽妙なやり取りは健在で、戦時下で常に臨戦態勢にある前線に近い基地という緊張感を和らげている。
本作の主眼は恐らく二人の機人の心の交流、葛藤であり、精巧なアンドロイドが人間を脅かすかもしれないという、SFで語られがちなテーマは薄い。しかし最終的にエイトの”人間臭さ”がかなり露見することで、本作で描かれたテーマとは違った軸で物語を発展させる要素も持っていると感じる。
個人的には模擬戦の描写が少し(量的な意味で)物足りなかったので残念。