後日談 Z級サメ映画「ジュラシック・メガロドンVSエクソシスト」

 こうして、メキシコ湾沿岸地域の人々を大いに恐怖させた「飛行オオメジロザメフライング・ブルシャーク」は討伐された。だが結局、この正体不明のサメが何処から来たのかは何も明らかにならなかった。


 解決から数日後、マークは自宅に友人たちを呼んで新作DVDの上映会を執り行っていた。映画はもちろん、サメ映画である。先日リリースしたばかりのビデオスルー作品「ジュラシック・メガロドンVSエクソシスト」だ。

 上映会が終わった後、マークも友人たちも、皆青い顔をしていた。相当な精神的苦痛を、上映した映画から受けたようである。


「何だよ……ゲロばっかりじゃねぇか……」

「低予算なのは仕方ねぇけどよ……何もかも滅茶苦茶じゃねぇか。酷いったらありゃしねぇ」

「DVD買ったオレが言うのも何だがヨ……ちょっとこれは思ってたより酷かったゼ……」

「悪魔憑きとサメっていう発想自体は悪くないんだが……どうしてこうなった……低予算にしてもこれはクソすぎる……」

「家にサメが出る映画も酷かったけどこれはそれ以上なんじゃないか……?」


 マークと友人たちは、口々に映画の悪口を言い合った。今回のサメ映画は、これまで見たなかでもとびきり酷いものだったのである。一緒の画面に映らないサメと人、過去作の使い回しの捕食シーン、違和感のありすぎるシーンのつなぎ方、大量に差し込まれた無意味な尺稼ぎシーン、そして登場人物が頻繁に嘔吐するといった絵面の汚さが、視聴者の精神を限界まで追い込んでくる。そのような駄作であった。いや、もう駄作という言葉さえ生ぬるいかも知れない。

 サメ映画は低予算で作られるものが多く、一部の名作、良作を除けば駄作が多い。当然、サメ映画を愛好する側もそれを承知の上で視聴するのである。しかし、この「ジュラシック・メガロドンVSエクソシスト」はそれらの駄作サメ映画たちをさえ過去の物にしかねないほどの酷い作品であった。そのことは、視聴を終えたマークと友人たちの憔悴ぶりが何よりも物語っている。

 げっそりしたマークが席を立ったその時、彼のスマホが鳴り出した。


「……ほう、公衆便所にサメか」


 かかってきたのは、サメ退治の依頼の電話であった。どうやら公衆便所にサメが出没したとのことであった。


***


「フカヒレ料理にしてやるゼ!」


 マークの振るったチェーンソーが、トイレから這い出たサメを切り裂いた。サメの体は鼻先から真っ二つに裂け、血肉をまき散らして息絶えた。


「フィ~一丁あがりィ!」


 袖で額の汗をぬぐうマーク。今回の戦いも、熾烈なものであった。神出鬼没の便所鮫トイレット・シャークの尻尾を掴むのに一週間もかかってしまった。サメとの戦いは気が抜けない。その上命の危険と隣り合わせの危険な仕事だ。それでも、学生時代に対サメ戦闘競技でならしたマークにとって、この仕事は天職そのものであった。


 この世にサメ被害のある限り、マークの戦いは続くであろう。彼は命ある限りサメと戦い続ける、サメ狩人なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アナコンドルVSフライング・ブルシャーク サメ狩人は挫けない 武州人也 @hagachi-hm

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ