フロリダ西岸に突如出現した空飛ぶオオジロザメと、生命科学により生み出された合成獣(蛇+猛禽)との、生死をかけた壮絶な空中戦のお話。
あるいは、そこに関わることになった人々のドラマです。いやこれが本当に凄いというか、どうしても紹介に困る部分があって、この作品最大の見せ場であるモンスター同士の戦闘シーンにかなりの尺を割きながら、人間サイドの描写が実に魅力的なんです。
まずもって、登場する人物の数そのものが単純に多く、それを書き分けながら捌き切る手際に脱帽しました。ふたりのサメハンターに、合成獣の生みの親たる博士、また部隊を引き連れた謎の海軍大佐など。まあ「サメ小説だから(=食われる被害者が何人かは必要)」という作劇上の要請はあるにしても、でもそういった側面をまったく感じさせないところが本当に凄い。彼らがそれぞれに個人としての意思や動機を抱えて、そして行動を起こした結果食われたり生き残ったりする、その描かれ方の過不足のなさがとてつもないというか、端的にいうなら「コンパクトながらも群像劇を成立させている」というところが本作最大の魅力だと思います。
とはいえ当然のこと、見せ場そのものはモンスター同士の対決にあるわけで、その辺の書きっぷりがまた上手い。物言わぬ怪物同士の対決、どの程度知性があるのかも不明で、畢竟彼ら自身の視点からは語り得ない戦いを、それを見守る人間の視点から描くこと。丁々発止、一進一退の攻防そのものに面白味があって、なにより巨大な力同士のぶつかり合いであることがよく伝わってくる、その見せ方が本当に巧みでした。最終的にはそこに食らいついていく人間たちの姿にドラマがあるところも含めて、怪獣映画の面白さのようなものを感じさせてくれるお話。
痺れました。最後の最後、結末なんてもう本当に……この辺はネタバレするのがもったいないので、是非とも読んで確かめてみてください。なんだか大仰な感想になってしまいましたけれど、基本的には頭空っぽにして楽しめる、直球のエンタメ作品でした。サメ小説最高!