水の涙

堕天使

水の涙

 あなたは「青春」と言う言葉を聞いて初めに何を思い浮かべるだろう。青い空、辺りが橙色に染った放課後の夕やけ空、友人や恋人の日々の生活。これらは一般的に青春と呼ばれる物のほんの一部に過ぎない。

 これからのお話は私、夢野詩の普通じゃないちょっと変わったじゃない青春物語だ。

    脆く儚い 

 超が付くほど普通であり、勉強も運動もそこそこ、顔も良くも無いしだからといって悪い訳でも無い。人間関係だって、友達が多い訳でもいない訳でもなくてそれなりに充実した日々を送れている。神社で引くおみくじに例えると吉だとか中吉のような人間な私。

 代わり映えのない日々に不満を抱いていたことは無いけど、ふと新しいことがしたいと思って地元の中学校から離れて県外の私立高校に入学した。それと同時に一人暮らしも始まった。

 高校生活が始まって一ヶ月、ごくごく普通に過ごす毎日。友達も何人か出来て、クラスの人気者で、隣の席の長谷部君に初めての恋をした。

 長谷部君はかっこよくて、運動神経抜群。その上、勉強はあまり得意そうでは無いけど明るい性格で誰とでも分け隔てなく喋ってくれる太陽みたいな存在だった。だから男子にも女子にも人気で、私みたいな普通すぎる人間とは程遠い存在に感じていた。それでも毎日笑顔で話しかけてくれる彼は物凄く輝いて見えた。

「夢野さんって好きな奴とかいんの?」唐突すぎる質問に思考停止。どうしよう。なんて答えよう。 ──どうしてこういう時だけスラッと言葉が出てくるのか分からない。

「いるよ。目の前に。」あれ、いま自分なんて言った?どんどん血の気が引いていくのと同時に顔の温度が確実に上昇してるのが分かる。やってしまった。そして長谷部君は困ったような悲しいような顔をして

「そうなんだ…ごめん。夢野さんの気持ちには応えられない。」と言って気まずい空気だけが残る。

「ううん!気にしないで。私が勝手に長谷部君は誰にでも優しくてキラキラしてて憧れるなって思ってただけだから!」

「うん、ありがとう。」そんな優しい顔で微笑まないで欲しい。あぁ、初恋ってこんなに呆気なく終わるんだ。恋ってなんなんだろ。何もかもわからなくなった。

   電車

 一人暮らしをしているマンションの最寄り駅から学校の最寄り駅までは八駅。三十分くらい電車に揺られながら毎日学校に通ってるけど、最近不思議な人が毎日目に付く。というか横にいる。すごく綺麗な顔立ちで分厚い小説を淡々と読み進めている男子高校生。制服が違うから他校の人だとは思うけど、その人が纏っている空気というかオーラというかが少し周りとは違うものだった。触れたら雪のように溶けてしまいそうな繊細さでひんやりとしている。いつからかは分からないけど気付いたら毎日彼が隣に座っているようになった。どうしてかは分からないけど私はすごく、色んな意味で彼に惹かれていた。今日こそはと意を決して声を掛けてみる。

「そ、それ、なんていう小説なんですか?」

「……」あれ?聞こえてない?

「それ!なんていう小説ですか?」少し声を大きくする。

「……○○…です。」答えてくれた。私も一度読んだことがある。少し話は難しいけどすごく感動する切ない恋愛小説だった。二人は愛し合っているのに運命に翻弄されて結ばれない話だった。

「私も読んだことあります。」

「………そうですか。」気まずい。話しかけたは間違いだったかも。でも声聞けたしいっか。思ってた通り不思議な人だな。でもどこか懐かしいような暖かい感じがした。

 明日も会えるかな。会えるといいな。

  謎

 高校生になって半年、例の男子高校生君とは以前話してから少しずつ仲良くなって毎朝話す関係になった。名前は時乃小雪、とだけは教えてくれたけど年齢や高校は教えてくれなかった。どこまで言っても不思議な人だなぁ。そんな時乃君の事を私は好きになっていた。長谷部君の事があってから、少し恋愛や恋をするのが怖くなっていたけど時乃君と話していたら何故かすごく心が明るくなった気がして、登校のたった三十分間が本当に楽しかった。輝いていた。

「夢野さん、今日の放課後ちょっと会えるかな。」なんだろう。時乃君からの話なんて滅多に無い。すごく気になる。

「もちろん!どこで待ち合わせする?」

「大丈夫。君がいる所に僕が行くよ。」どういうことだろう。待ち合わせなしでどうやって会うんだろう。でも時乃君が大丈夫って言ってるから大丈夫なんだろうな。

「分かった。それじゃあまた放課後。」学校に向かう途中もずっと考えてた。時乃君からの話、なんだろう。私も今日伝えようかな。私の気持ちを。想いを。

 学校について教室に行くとすごくざわついていた。何かあったのかな。クラスメイトの灯里が顔を青くして走りよって来た。

「詩おはよう。長谷部君が昨日川で溺れたんだって。それで、それで…うっ…」状況は何となく掴めた気がする。とにかく灯里に落ち着いてもらわないと私も焦る。

「灯里、大丈夫。落ち着いて。どういうことか話せる?」うん、と灯里は頷いて深く深呼吸をした。話を聞くと昨日、長谷部君は昨日友達四人と川で釣りをしていて、急に川に引きずられるように飛び込んでいってそのまま溺れ、病院に搬送された。そして今は意識不明の重体。驚かなかった訳じゃない。心配じゃない訳でもない。でも私は何故か長谷部君は無事だと心の中で確信して、なんだそんな事かと思ってしまった。その考えをしてしまう自分が怖かった。何かに取り憑かれてしまったのかという位のいつもとは全く違う思考回路に動揺した。恐ろしかった。

 どこか落ち着きのないような空気感のまま学校が終わり、放課後になった。時乃君とどこで会えばいいんだろう。ぼぅっとそんな事を考えていながら学校を出て歩いていると気が付いたら昨日長谷部君が溺れたという川に着いていた。それにも驚いたけど、それよりももっと驚いたのは──

 そこにどこか冷たげな寂しげな表情を隠すように静かな微笑みを顔に貼り付けた、時乃小雪君が立っていた。どうしてここにいるのか。どうしてここが分かったのか。どうして私は今ここにいるのか。全てが分からない。気持ちが悪い。吐き気がする。なんで、なんで、なんでなんでなんでなんで──

 ふと気付いたら自分のマンションの部屋に座っていた。それだけじゃない。時乃君もそこにいて二人で並んでテレビを見ている姿勢だった。さっきまであの川にいたはずなのに。何かがおかしい。そう思った瞬間に時乃君が沈黙を破った。

「話っていうのは大袈裟。ただ少し夢野さんと話したかったんだ。」優しく私に微笑んだ時乃君のその表情には嘘は無いように思えた。その時乃君の言葉に少し自分の顔が熱くなったのが分かった。

「私は時乃君に話、あるよ。聞いてくれる?」静かに時乃君が頷く。

「私ね、時乃君の事が好き…っていうかなんて言うか、一緒にいると凄い落ち着いて、安心するんだ。だからこれからも仲良くしてね。」十秒、二十秒、三十秒…無言の時間が流れる。横目で時乃君の方を見ると時乃君は涙を流していた。端麗な横顔を伝って流れる涙はまるで錦鱗のようだった。息が止まりそうだったがはっと我に返った。どうして時乃君は泣いているんだろう。何か良くない事を言ってしまったかな。

「時乃君、どうしたの?大丈夫?何かあった?」静かに時乃君が口を開く。そして

「ううん。なんでもないよ。ありがとう。僕も夢野さんに言いたかったんだ。…好きだよ。」涙を流しながらその言葉を口にする時乃君を見て、私は心が苦しくなった。どうしてそんなに悲しそうな表情をしながら、どうして私を好きと言ってくれたんだろう。分からない。時乃君が分からない。だけど好きだと言ってくれた時乃君をすごく愛しく感じて嬉しくて、私も気付いたら涙を流して時乃君に抱きついていた。時乃君をずっと好きでいよう。大切にしよう。何かがあったら私が守ろう。時乃君のおかげで私は強く、優しくなれたような気がした。

  幸せ

 時乃君と両思いになってから時は過ぎ、冬になった。週に一度二人で会ってデートをした。私が時乃君の好きな食べ物を振舞ったり、他愛もない会話をして微笑み合ったり。手を繋いで街を歩いたり、美しい冬の夕焼けとうっすらと光り輝く星を背に初めてのキスをした。何もかも幸せで、それが何故か怖かった。消えてしまいそうで、失ってしまいそうで。私も時乃君も目に涙を浮かべていた。そしてまた二人で笑い合った。

「寒いね。帰ろっか。」私は頷く。そしてまた二人手を繋いで家路についた。この幸せがいつまで続くのか分からない。だけど可能ならばずっと、ずっと永遠に続いて欲しいと心から願った夜だった。

  夢[#「夢」は中見出し]

 時は過ぎ、春。学年が一つ上がった私だったが今までと変わらず電車に乗って学校に向かっていた。変わったことといえば時乃君が隣に居なくなったことだ。二週間前に時乃君は

「少しの間一緒に登校できなくなってしまうけど、心配しないで。必ずまた逢いに行くから。」寂しくなかったと言ったら嘘になるけれど、時乃君を信じると決めたからにはいつまでも、また逢いに来てくれるまで待つことにした。

 それから数日経ったが、最近不思議なことがある。最近よく夢を見る。夢の内容は目が覚めるとほとんど忘れてしまうけど、ほぼ同じ内容の夢を毎日見ていることは確かだ。水…?のような蒼い情景だけが脳裏にフラッシュバックする。なんだろう、この感じ。

 時乃君、元気かな。早く会いたいな。

  不安

 時乃君に会えなくなってから二ヶ月、三ヶ月と時が過ぎた。長谷部くんはまだ意識不明のまま目を覚まさないらしい。色々と不安が募る。長谷部君は本当に大丈夫だろうか。あの時の絶対に無事だという確信は間違いないだろうか。あの日の時乃君との出来事を思い出す。あの時乃君の表情、あの出来事──

 気が付いたら私はあの川に向かって走っていた。分かった気がする。何が分かったのかも分からないけど、あそこに行ったら必ず分かる気がする。自宅からあの川はかなり遠い。でも電車に乗る時間すら勿体ない気がして走った。何かに引っ張られるかのように。取り憑かれたように。今日はやけに暑い。真夏日だ。

 走っている途中、今までの出来事を振り返った。時乃君と話すようになって一年間、色々あった。不思議な出来事や幸せな夢のような日々。時乃君がたまに見せる悲しそうな、申し訳なさそうな表情やそれを隠すような優しい笑顔。そして時乃君が家や学校を教えてくれなかったこと。私が長谷部君が意識不明になったと知ったあの日、気が付いたら今向かっている川に居て、そこに時乃君が居たこと。考えれば考える程分からなくなってくる。分からない。分からない。怖い。

  告白

 何分、何時間走っただろう。暑い。苦しい。疲れた。やっとあの川が見えてきた。それと同時に人の姿が見える──

「時乃君、久しぶり。」そこに彼は立っていた。あの日と同じように。でもあの日と違った事がある。今日の時乃君の表情は今までに見た事もないくらいとても真剣で、周りの暑さを忘れさせるような冷たさを感じさせた。

「夢野さん、僕から話さないといけないことが沢山ある。出来れば最後まで聞いて欲しい。」

 時乃君の話は難しくて、苦しくて、悲しくて、作り話やおとぎ話のようで理解したくないのにあまりにも真っ直ぐと脳に、心に流れ込んでくるので信じざるを得なかった。涙が止まらなかった。

  

  

 時乃君は、この川で命を落とした。すると突然、水の精霊に特定の人間にだけに自分の姿が見える能力を渡す代わりに、次にこの川で命を落としそうになった人間には自分の仮の魂と引き替えに蘇らせるようにと告げられた。時乃君は言われたことをよく理解出来ず、何年間も考え続けた。誰にも姿を見つけてもらえないまま。声を聞いてもらえないまま。水の中で、美しい魚として。

 そして私、夢野詩を見つけた。私は幼い頃この川に来たことがあるらしい。そこで無邪気に遊んでいる私を見て妙に魅力を感じ、満を持して一年前、人の姿になって私の目の前に現れた。私がこの近くの高校に通うことになるのは時乃君も驚いたらしい。そして私たちは電車の中で隣に座った。初めはどう話しかけようかと迷って迷って、自分がまだ生きていた時によく読んでいた小説を読みながら話しかけるタイミングを探っていたら私から声をかけられた。私もすごく時乃君惹かれていたから多分これは偶然じゃなくて必然だったと思う。でも時乃君は私が時乃君の存在に気付く少し前に長谷部君の事が好きだった事を知っていた。だから少しだけ姿を見せるのに抵抗もあった。でもそれ以上に私の事を想い、愛してくれていた。

 幸せな日々は長くは続かず、時乃君にとって最悪の日が訪れた。長谷部君の川での事故だ。あれは偶然起きた事故では無く、時乃君のことを良く思わなかった川の主が全てを見込んで長谷部君を川の中に引きずり込んだ。時乃君が愛する私が初めて好きになった相手を。時乃君を陥れる為に。だからあの日、時乃君はあの場所に行き、状況を理解した。もうあまり長くこの夢のような日々は続かない。長谷部君を救わなければいけない、と。それから時乃君は運命に抗い続けた。私と想いが通じ合ったあの日から、私と少しでも長い時間を過ごす為に。この世界に後悔を残さないために。人として生きる喜びを噛み締め、水の中では無い地上で、美しい景色を、思い出を心に刻むために。

 そして春。私に会えなくなると告げたあの日から時乃君はたくさん水の精霊と話し合いをした。そして自分はまだ人として生きたいと、私にしか見えない存在であっても私を幸せにしたいと、自分の意見を強く強く申し立てた。だけどやはり認めてもらえず、あの事件から一年が経つまでに長谷部君に魂を譲るように言われ、それと同時に自ら私に会いに行くことを禁じられた。時乃君は川で自分が泳ぐ姿や川の中の様子、色んな季節の川の表情や音、どうか私に伝わるようにと強く願って連夜夢を見せた──

 そして私は今ここに居る。淡々と告げられる切なく苦しすぎる話を、時乃君自身から話を聞いて沢山の出来事の辻褄がパズルのようにはまっていって、それと同時に受け入れたくない現実がもう目の前にまで迫っていることを理解し、泣き崩れた。

  運命

「ここまでが、今までの僕の成り行きと夢野さんへの気持ちだよ。聞いてくれてありがとう。」どう反応したらいいのか分からない。時乃君とこれからも一緒に居たいと思っていた。居れると思っていた。でも、時乃君が読んでいた小説と同じように運命に翻弄され、結ばれないまま、何も抵抗できないまま従うことしか出来ない。何も出来ない自分が悔しい。

「時乃君、あと一日だけ私に時間をくれませんか?あと一日だけでも、時乃君と一緒に過ごしたい。」自分の本当の気持ちだった。どう足掻いてもこれからもずっと添い遂げることは出来ない。でもそれを分かった上であと一日だけでも時乃君の傍で笑っていたい。

「分かった。じゃあ明日、最後の一日を一緒に過ごそう。」最後の一日。それが何を意味しているのかは言われなくても分かる。その言葉の重さを十分に受け入れて、私は家に帰った。

  最後の

 朝、時乃君は私の部屋へ来てくれた。特別なことをするんじゃなくて、二人でゆったりと幸せな時間を過ごす。冷房の付いた涼しい部屋で手を繋いで映画を観る。何もかも最後だと、考えないようにしてもどうしても出来ない。十時、十三時、十五時──川の水のように止まることなく、一定のスピードで時間が流れていく。そして時乃君は優しい落ち着いた声で、表情で教えてくれた。長谷部君は私の事を好いてくれていたらしい。でも、長谷部君は時乃君の存在やこの後の出来事を感じ取っていて、時乃君の事を思いやって私の気持ちには応えられないと言った。

 そして時乃君は自分が長谷部君に魂を譲って、長谷部君が目を覚ました時には長谷部君と幸せになって欲しいと私に頼んだ。本当に寂しいお願いだった。私と時乃君は二人で幸せになることが出来ない。その上、時乃君は人である事すら出来なくなる。私よりもっともっと辛いはずなのに時乃君は優しく微笑んで涙を流す私を抱きしめ、背中をさすってくれた。十八時、別れの時が迫る。二人で部屋を出て川に向かった。きちんとお別れをするために。お互いのこれからの幸せを祈り、心の中で見守ると誓うために。駅に向かう途中のいつもの道、夕焼け空が綺麗だ。鮮やかな橙色の雲、紅く染った空、時乃君と見る最後の夕焼けだと思うとやっぱり悲しい。電車に乗って横に座る。初めて私達がお互いを認識して、話して、仲良くなった場所。懐かしいような昨日のことのような沢山の不思議な体験や幸せな思い出が蘇る。思い出が湧き上がってくると同時に涙が溢れてきて、ふと横目で時乃君を見ると彼も泣いていた──

 「小雪君、一年間ありがとう。大好きだよ。小雪君の事絶対忘れない。」ずっと呼べてなかった苗字じゃなくて下の名前。やっと呼べた。小雪君は、はっと驚いた顔をしてすぐににっこりと笑った。

「詩ちゃん、僕はこれからもずっと君を愛してるよ。絶対に幸せになってね。陰ながら見守ってる。」ありがとう。としか言えなかった。これ以上喋るとまた泣いているのがバレる。笑顔で送り出すって決めたから、絶対に小雪君の前では泣かない。川に到着した。もう辺りはほぼ真っ暗で月明かりだけが私達を照らしてくれている。本当に今日で最後。わかれてしまえばもう姿を見る事も声を聞くことも一生できない。

「詩ちゃん。」名前を呼ばれ、抱き寄せられた。

「小雪君。」名前を呼ぶ。それだけなのに胸が苦しい。寂しい。私を抱きしめる力が少し強くなった。そして最後のキスをした──

「「ありがとう。さようなら。」」二人同時で言った瞬間、辺りが突然神々しい青色の光に照らされた。眩しい。少ししてから目を開けると、そこには静かに流れる川と月明かりが私一人を照らしていた──

  目覚め

 次の日、目が覚めると私は急いで支度をして長谷部君が入院している病院へ向かった。約一年目を覚まさない長谷部君を目覚めされるために。

 病室に着くと、長谷部君は静かに眠っているようだった。するとしばらくして、長谷部君は目を覚ました。小雪君が今、魂を長谷部君に譲ってくれたんだ。心の中でありがとう。と唱えた。

 高校二年生の二学期が始まって、目が覚めたことをみんなに内緒にしていた長谷部君が教室に入ってくるや否や、クラスメイト達はみんな目を丸くして口を開けていた。そして数々の行事や高校生活を通して、もう一度一から仲良くなり、高校三年生の冬、長谷部君は私に

「ずっと前から好きでした。」と告白してくれた。もちろん私も同じ気持ちだ。恋人同士になったのも束の間、卒業が徐々に近付いてくる。この学校に通った三年間、本当に色々なことがあった。沢山をの事を学び、知り、感じた。ずっと普通だ普通だと思って生きてきた自分に自信も持てた。強く生きるんだって、もっと自分をさらけだしていいんだって。

 年が明けて、友達と行った初詣で引いたおみくじは大吉だった。色々良い感じのことが書いてあったけど内容はよく覚えていない。

  卒業

 卒業式、最後の登校。心地よい春の空気を感じながらいつも通り電車に乗った。この電車にも沢山の思い出や感謝が詰まっている。高校生活を通しての思い出は全て覚えている。一年間の不思議な体験。今のとなっては夢だったのではと思ってしまうほど美しく、眩いく儚い思い出だ。

 高校を卒業したら、私は長谷部君は私の地元にある大学に行くというので、同じ大学に行って同居することになっている。卒業するのは少し寂しいけど、新生活への期待も凄く大きい。

 卒業式も何の変哲もなく終わり、離れてしまう友達と他愛もない会話をし、家に帰った。

 青春

 これが普通だった私を変えた、普通じゃないちょっと変わった青春物語だ。今でもたまに思い出して胸がいっぱいになる事があるけれど、それもまた良い思い出で、味のある自慢の私の人生の一部だ。

「ね?水那斗さん?」

「ん?」彼は何の話か全く分かって無いと思うけれどそれは良いとしよう。今日も長谷部家はごくごく平和で平凡な時間が流れている。

 水槽にいる美しい魚の鱗がキラリと光った気がした。

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水の涙 堕天使 @datenshi__05

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