準備②~無理難題~
「レフィ、こいつを説得してくれ!」
パータムは叫ぶように懇願した。
確かに、ギムダが無茶なことを言っているのは確かだ。
あの山のように、というより実際本当に山と同じくらい大きい竜を調べるなんて、誰が想像出来るだろうか?
しかし、ギムダはただの説得で諦めてくれるような男ではない。この男はあらゆる技術に心酔し、人生を掛けて時代の技術水準を上げた技術者なのだ。
目に見える範囲に未知の技術があれば、手を伸ばさない選択肢は無いだろう。
とはいえ、この場に反対意見があるということを知っておいて欲しい。
「ギムダ、それは流石に無理だ」
「いや、俺は出来ると思っている。砂嵐が無い今なら竜に近づくことだって可能だろ」
「近づいたところで、どうやって登るんだよ」
「それは……崖登るみてえによ……」
ギムダは言葉に詰まり、狼の獣徒であるオルグルスに「できんだろ、お前なら」と答えを仰いだ。
「……」
オルグルスは尚も押し黙っている。
獣徒の中でも狼族の彼らは、身軽で狩りや隠密を得意とする一族だ。
ただし己の技術に対してのプライドが高く、できるか出来ないかと問われると、簡単に「出来ない」と答えられないのがたまに傷である。
「どうだオルグルス、お前のとこの弟子なら……」
「……出来るかどうかは問題ではない、と俺は思う」
狼族の長であるオルグルスは、自分のプライドを押し出さない慎重派だ。だからギムダの意見が先走らないように、よく考えて牽制した。
実際、彼の言う通りである。
「あの竜挑んで、帰ってきた者はいない。もし仮に砂嵐を避けて竜の下へ行けたとしても、竜がこちらを攻撃してこない保証は無い」
「触らぬ神に祟りなし、ってか?」
「俺は、仲間の命を賭すならもっと確実に挑む為の情報を得るべきだ、と言っているのだ」
「む……」
「仲間の命」というオルグルスの言葉に、ギムダは椅子に座り直した。どうやら冷静になってくれたみたいだ。
実は以前にあの竜に挑んだという記録が残っている。記録によれば、挑んだ者は生きて帰って来れず、数ヶ月してその者の骨だけがこの町に降り注いだとか。
なんとも報われない話だ。
しかしギムダは諦めきれないのか、尚も食い下がろうとした。
「でも実際、古代の技術には様々な価値があるんだ。うまく持ち帰れば、金持ちになることだって夢じゃない」
「トレジャーハンターなんて、命知らずの馬鹿がやることだろ!」
ギムダの言葉に唾を吐いたのは、コボルト族のリーダーであるマナマナだ。
犬のような長い耳を持った子供の姿をしているが、マナマナの性格は熾烈そのものである。
「古代の技術ならここにあるやつで我慢しろ!下手にあいつを刺激するような事言ってると蹴り飛ばすぞ!」
「あいつって……だからさっきから扉の前で立ってるのか?」
「そうだ!入って来れないように耳立ててんだ!」
俺はすぐにピンときた。
今、「竜を調べるかどうか」の会議は、専門家と各族長の意見交換によって、見送りの流れになりつつある。
もしここにあの人がやってきたら、きっと俺たちは、いや、ギムダ以外は後悔することになる。俺たちの回らない舌では、あの人を説得することなど出来ないだろうし……。
「よし、今回は早めに切り上げて、各自の仕事に戻ろう!」
というわけで、最悪の展開になる前に、俺は話を切り上げようとした。
しかしギムダがまた立ち上がって文句を言い始める。
「おいおい、有識者の意見は全員分聞くべきだろ!」
「俺は冬入り前の食糧備蓄計画を考案をせねばならない」
「オルグルス!」
「あたしも豪雪対策の材料集めんのに忙しいんだよ!」
「ま、マナマナ……!」
現在の季節は秋の始まり。冬越しの準備で竜の調査に行く暇などないのだ、という風に二人は振る舞う。
実際はもう少し遅く初めても問題ないのだが。
「それじゃあ、解散ということで……」
俺がそう言って窓から離れた瞬間。
「何か面白い話をしているじゃニャいか?」
背後から伸びのある高い声が聞こえた。恐る恐る振り返ると……。
「ち、町長……」
「みんな席に座るのニャ。あの竜を調査するかどうか、意見を聞かせてくれたまえ!」
町長のルーシュ・マージバトンは、窓から会議室に入ってそう宣言した。
世界一の守銭奴、もとい成金のご登場に、俺は思わず顔を手で覆う。
竜と幻想~イリニの住人による竜の探索記録~ カザハタ @turitarou
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