当方、過去の恋物語はききたくないので。
@blanetnoir
心地よく響く低音の声、
大人の余裕で主人公の世話を焼く姿、
たまに見せる爽やかな笑顔が、
あまりにも魅力的な人。
こんな人が本当にいたら、ひとたまりもないなぁなんて、
珍しくゲームに夢中になっていた。
ココ最近、私はゲーム実況者によるプレイ動画を見ることが密かなブームで、
自分がプレイするとあまりRPGにのめり込めないけれど、誰かがプレイしているのを覗き見してるくらいの気軽さなら心地よくゲームのストーリーを楽しめた。
今見ているのはとある恋愛シュミレーションゲーム、
よく練られたキャラクターとストーリー展開が多くのファンを獲得していると評判が良いらしい。
リアルなプライベートではゲームもしなければ恋愛の気配もなく、
だからこそ非日常を楽しむような気持ちで、スキマ時間を見つけてはゲームの中のラブストーリーを実況者の背中越しに追いかけていた。
「じゃあ、つぎはこのキャラクターのルート狙ってみようかな」
実況者がターゲットを攻略して、次のお相手を選択している。
ゲームの舞台は高校、主人公は女子高生。
実況者はあまたいる男性キャラクターの中で、唯一の大人の男性キャラクターとして登場する保健医を指名して、物語をスタートさせた。
話が展開していく中で合いの手のように挟まれる実況者のコメントに笑わされたり時にうなづいたり、その発想はなかったと驚かせられたり、〈実況者がプレイするゲーム〉を楽しんでいる。
主人公と保健医が出会って、会話を重ねて、イベントが発生して。
徐々に保健医の特別な顔が主人公に見せられるようになると、
ゲームの中の保健医が、
あんまり魅力で。
気づけば私が、彼に夢中になっていた。
ストーリーが進めば彼は主人公と結ばれる、その展開を楽しみにしながら、彼がどんな心理模様を辿って主人公と結ばれるのか、大人と未成年の恋はいつの時代もどんなコンテンツでも一定の人気と物議を醸すものだけど、
このゲームの中ではどんなコントラストで描くのだろうと思っていたら。
突然現れる保健医の元カノの存在に、
ストーリーの中の主人公や、ゲーム実況者を差し置いて、私が一番動揺してしまった。
実況者は朗々と語る、
「あー、そうだよね、これまでのキャラクターは同じ年齢で、壁はあったけどそれは過去のトラウマとかだったんだよね。
これは完全に恋敵だねー。
そうだよねー、
こんなイケメンでさ、
いい大人だし、
そりゃ過去に恋人いたよねぇ、
むしろある程度の年齢で、恋人いなかったらその人は人格に問題があるからねぇ」
実況者はそんなコメントをはさみながら、
大人の恋愛模様を目の当たりにしてもなお表情の見えない主人公の感情を想像しながら、役割通りゲームを進めていく。
ああ、
そうだった。
ゲーム実況者の言葉に、
私の心に何かがストンと落ちてきた。
離れすぎて忘れていたけど、
私は誰かの過去の恋人の存在を見せつけられると、
フリーズしてしまうタチだったことを思い出した。
それが、素敵だと一度でも感じてしまった人のことなら、ダメージ不可避で。
その人が手の届かない遠くの存在でも、
架空の存在だとしても。
おおよそ多くの人は、
過去に一人は居ただろうに、
初恋の人という存在が。
なんなら、
私にだって、いたのにね。
その人が付き合っていた人だと言われれば、
そのパンチ力はダメージ力が何倍にも跳ね上がって、
私の心にストレートを決め込む。
なんで、こんなに打たれ弱いかなぁ。
そう、
これが私の問題点なのよ、よく知ってるね、
問題のある人はひとりでいるしかないんだよ。
と、心の中で実況者に言葉を返す。
こんなことで心に傷を負うようじゃあ、
そのダメージから逃げ続ける気でいるようじゃあ、
多分この先どんな人に出会っても、
きっとまたどこかのタイミングでフリーズを起こす場面に遭遇して全てを凍らせて、
逃げた先でまた誰かに出会ってを繰り返し、
何も成せないまま人生を使ってしまいそう。
フリーズを起こした私を優しく解凍してくれる人がいてくれたらいいんだけれど。
次にフリーズを起こしたらもう二度と走れない気がするから、
そんなことが起きないようにの心構えで、
次の逃避先では誰にも魅力を感じないように、
感性を麻痺させていこうか。
当方、過去の恋物語はききたくないので。 @blanetnoir
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