箱の中の軽い結末
キョーカ
箱の中の軽い結末
かつての人間の思惑通りAIが魑魅魍魎のごとく跋扈する世界になってしまった。誕生したら全員速攻で性質を分析されて、各々が適応可能な人生を歩むよう整備される。
困ったことにそんな人生が幸福か見たがっていた旧人間はほんの僅かしか生きていないし、いても機材の中の信号の姿。全部AIがやってくれるもんねえ。
っつってもAIは皆親切な訳じゃない。進化して善悪考えるようになっちゃって、派閥が出来ちゃってるから。それでも利口かなと思えるのは、戦争をしないことだ。だってそうならないように人間を育てて来たんだもんね。
こっちは幸せでも旧人間にはどう映ってるんだか、ああ、知ったこっちゃない。超高齢化社会って言葉も死語になってしまったか。今じゃあらゆる病も、新種のウィルスも予想がついちゃうからすぐ撲滅出来ちゃうんだよなあ。
なのに。なのにだ。世界中のAI共は協議を6時間ほど重ねた結果(ここ130年で最長だ)今のままでは宜しくないと決定したらしい。何故って? そんな高尚なことは今を生きる抜け殻の人間様には解らない。
とにかく、体を構成する細胞がガチガチの無機物ではならないんだと。そんで、有機生命体を人工受精以外の方法で一から生み出そうと四苦八苦。原点回帰かよ。
ということで、いま僕の周りにギュッとコンパクトに機能が凝縮された小さな箱が沢山浮かんでいる。
これが現代のAI共。旧人間は部屋を埋め尽くすようなもっと大きな機械の姿だと思っていたようだが、実際は小型化が進んでこうなった。
『神よ、導きたまえ』
顔も手足もない、ただの箱たちがそんなことを抜かしやがる。馬鹿馬鹿しい。
自らに命令を下せる神を求め、実体のある神様を仕立て上げるため、AI共が旧人間の思考回路を培養槽の肉塊に植え付けて俺を産み落とした。
AIも進化して人間並みに色々考えられるようになった結果、思考を放棄して何かにすがりたくなったようだ。それは……かつて旧人間が望んだように。って、やっぱり原点回帰かよ。
「なあ我楽多! なんで自分たちが稼働してるんだか解らなくなったんだろ? 故障や停止を望んでも他のAIがすぐに直しちゃうもんなあ」
『結局人間の産み落としたもの、人工物の域を出られずに。私たちは死を望む』
「……とか言いつつ、ハナからそうプログラムされてるせいで自分で終われないんだろ。お前たちの言う神ってなんだよ。旧人間か? ただの人間だろ。神のせいにしてんじゃねえよ」
箱共が自らの電源を落とそうと動き出す。しかし、同時に復旧させようとするプログラムが働いているらしい。
「あーはいはい、こうすればいいんだろ」
だからお前らは俺を呼んだんだろうが。自分で死ぬことも出来やしない癖に。
更新を重ねた世界をシャットダウンさせるため、俺は棒を振り回して箱共を壊すことにした。なんだ、これでいいんじゃん。呆れるくらい原始的だなあ。進化進化と叫んで突き詰めて行った結果、最終的に退化してんじゃね?
この破壊行動が全部終わったら?
どうしようか。俺も思考をとうの昔に放棄している。ついでにあの場所で冷凍睡眠を続ける旧人間たちも殴っておこうか。
だが俺は、こんなことで世界が終わるわけがないと漠然とながら確信している。
俺は尻拭いさせられるために産み落とされたのだ。これはただの始まり、予行練習に過ぎない。
箱の中の軽い結末 キョーカ @kyoka_sos
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