ママのサンタクロース

pipi

ママのサンタクロース

今日はクリスマスです。

みっちゃんは大きなモミの木の下で、ぶるぶるふるえながら

空を見上げていました。

空ではキラキラお星さまも、

ひんやりとした空気に凍って落ちてきそうです。


その時です。

月の右側にキラっと大きな光が現れました。

その光は流れ星みたいに空を滑り降りながら

どんどんとこちらに近付いてきました。


流れ星と違うのは、シャンシャンと音をたてている事。

そして違うのは、良く見るとそれは星でない事。

さらにもっと違うのは、それは、ソリでその上にはまっかな服を着た

サンタさんがニコニコ笑って座っている事でした。


みっちゃんは、サンタさんを見ると「おーい」

と、手を振りました。


「おーい、サンタさーん」

すると、サンタさんは、キキーッと音をたてソリを旋回させて

みっちゃんの前まで来て、ピタッと停止しました。


「クリスマスの、よる遅くにこんな小さな女の子が起きてるなんて…」

サンタさんは、みっちゃんを見下ろして言いました。


「君のママは、眠りの魔法をかけ忘れたのかい?」


「いいえ、忘れてないわ。

クリスマスの夜は眠りの魔法で早く眠ってサンタさんを待つのよ。

サンタさんはとても恥ずかしがりやだから、

眠っている人にしかプレゼントを届ける事ができないのよって、

ママが言ってたわ。ママは今日も眠りの魔法をかけてくれたけど、

みちこ、鏡で魔法を跳ね返したの。

だから、みちこのかわりに今はママが眠ってるわ」


サンタさんは首をかしげました。


「みちこちゃんはなんでそんな事をしたんだい?

プレゼントは欲しくないのかい?」


「欲しいわ。でも、今年はいらないの」


「どうしてだい?」


「みちこのかわりに、ママにプレゼントを上げて欲しいの」


サンタさんはとても嬉しそうに言いました。


「自分の変わりにママにプレゼントを上げようなんて子供には、

300年生きてきたが始めて会ったよ。

いいだろう、そういう優しい子の願いはなんでも聞いてあげよう。

それで、みちこちゃんはママに何をプレゼントしたいんだい?」


「ママはね、いつもこう言うの。10年前に勇気があったら…って、

だからね、みちこ10年前のママに勇気を上げたいの。」


これにはサンタさんもびっくりしました。


「10年前のママにだなんてだめだよ。それはできないよ」


すると、みちこちゃんはほっぺたをプクッと膨らませて言いました。


「何でも聞いてくれるって言ったくせに。サンタさんは嘘つきだって皆に言うわよ。」


「それは、困る」


サンタさんは言いました。

子供達にサンタさんが嘘つきだなんて思われたら、

サンタさんは商売上がったりになってしまう。


「でも、どうして10年前じゃなきゃダメなんだい?」


サンタさんはみっちゃんに尋ねました。

するとみっちゃんはこう言いました。


「みちこのパパはね、とっても恐いの。

いつもいつも怒鳴ったり、怒ったりしてママを泣かせててばかりいるの。

みちこにも一度も笑ってくれた事ないの。

あんなパパ大嫌い。

でもね、時々遊びに来る利郎おじちゃんはとても優しいの。

パパに内緒で遊園地に連れて行ってくれた事もあるのよ。

利郎おじちゃんがパパだったら良かったのに!

ってママに言ったらね、ママがこう言ったの

『10年前、パパと結婚する日に、

本当は利郎おじちゃんと逃げるつもりだったのよ。

でも勇気がなくて、できなかったのよ』1

0年前のママに勇気があれば、パパなんかと結婚しなくて良かったのに!」


は~っとサンタさんはため息を尽きました。


「話は良く分かったよ。

でも、みちこちゃんのママが、10年前にパパと結婚しなければ、

みちこちゃんは生まれなかったかもしれないんだよ。

もしそうだったら、みちこちゃんは消えちゃうんだよ」


「どうして?」


みっちゃんは聞きました。


「それはね、みっちゃんがパパとママの愛の結晶だからだよ」


みっちゃんは首をかしげました。


「じゃあ、もしままが利郎おじちゃんと結婚したらみちこは消えちゃうの?」


「そうだよ、それでもいいのかい?」


サンタさんは頷きました。

すると、みっちゃんは悲しそうに言いました。


「消えてもいいよ。だって、ママが泣いてばかりいるの可哀想だもん」


サンタさんは、みっちゃんの優しさにうたれ、

みっちゃんを抱き締めて言いました。


「分かった、そこまでいうなら、ママにプレゼントを上げよう。ついておいで」


それから二人は、さくさくと雪を踏んでみっちゃんの家に向かったのです。


みっちゃんの家ではママがテーブルにうつぶせて眠っていました。

サンタさんはポケットから星の形の時計をだすと、


「ママの時間よもどれ」

と、言って、きりきりとネジを回しはじめました。

すると、どうでしょう、どんどんと辺りの景色が遠くなって、

みっちゃんの体はふうっと軽くなりどこかへ飛ばされて行くようでした。

ずっとずっと、飛ばされて、気がつくとそこは教会の中でした。

遠くから鐘の鳴る音が聞こえます。

そして、暖かい光が差し込む部屋に、真っ白なドレスを着たママが座っています。

ママは、時計を見ながら、立ったり座ったり落ち着かない様子です。


その様子をみっちゃんとサンタさんはママのいる部屋の鏡の中から見ていました。


「この飴をママにあげるんだ」


サンタさんは、みっちゃんに星形のキラキラ光る飴を渡しました。


「この飴を食べると、勇気が出るんだよ」


みっちゃんは、それを受け取ると、鏡の中から外へ飛び出しました。

ママは、鏡の中から飛び出したみっちゃんを見て驚いたようです。


「これを食べて、ママ」


みっちゃんは、ママに星の飴を渡しました。


「なあに?これは」


ママが首をかしげて聞きました。


「それは、勇気だよ」


みっちゃんが答えました。


すると、ママは言いました。


「あなたは、だあれ?天使なの?」


「そうよ」


うなずくとみっちゃんは振り返り、走って鏡の中に飛び込みました。


ママは、びっくりして鏡を見ていたけれど、やがて星の飴を口に入れました。

すると、見る見るママの顔付きが変わり、

ママは、ドレスを脱ぎ捨てて、窓から外に飛び出して走って行ったのです。


みっちゃんとサンタさんはそれを見届けると、元の世界へ戻って行きました。


それから、クリスマスが終わって随分たった頃、

サンタさんは人間のふりをして一度みっちゃんの家を覗きに行ったのです。


そこでは、みっちゃんとママと利郎おじさんが仲良く暮らしていました。

それで、サンタさんはやれやれと胸をなで下ろしたと言う事です。


でもね、みっちゃんには一つだけ分からない事があるんです。


あの時サンタさんはみちこが消えちゃうって言ってたけど、

一体どう言う意味だったのかしらって…

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