今日、も。
***
「——ねえ、大人さん」
「その呼び方、懐かしいな。君ももう大人さんだろ」
純白のドレスを着た彼女が、あの日よりも顔を綻ばせて可愛らしく、ふふっと笑う。
顔にかかっているベールを後ろへめくり向き合いながら、あの遠い目をしていた彼女を思い出す。
頰を軽く撫で、血色の良い肌と清廉な目を愛おしく思いながら、外の波の音に耳を澄ませた。
「くそみたいな世界も幾分かマシになったでしょう?」
「相変わらずくそだけど、死にたくはないな。君が心配で、死ねないよ」
「私は昔から死にたいなんて思ったことないのに。貴方のほうがよっぽど心配よ」
頰を膨らませてムッとする彼女を見ていたら、自然と笑みが零れる。
その日は晴天で、それはもう苛立ってしまうほどの光で、海はきらきらと輝いていた。
この晴天の辛さを、苦しさを、俺は知っているから清々しいなんて絶対に言わないけれど。
どうかこの晴れた空を仰いで、死にたいなんて思わないようにと祈りながら。
——今日も生きていけますように。
ある死にたくなるほど晴天の日に 葉月 望未 @otohana
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