第2話 ループする力
今日も一緒に登校を果たす。片方の耳が痛くなるくらいに麻衣子はよく喋る。何回も聞かされたドラマの内容なので頭の中に全てが入っている。相槌を打つタイミングもわかっているので何の問題も起こらない。
あくまで麻衣子はカモフラージュ。わたしの最大の懸案は通学路の先にいる。麻衣子は何も知らずに学校での失敗談を面白おかしく話し始めた。
聞き飽きた内容ではあったが無視すると不機嫌になる。行動に支障が出るので話を合わせた。
「そんな時こそ、担任の長谷川の出番でしょ」
自分で言っておきながらかなり寒い。麻衣子は目尻に涙を溜めて笑い出す。異星人の気持ちでわたしは眺めた。気を抜くのはここまで。
瞬間の横目で彼の姿を視認する。クラスメイトの
わたしは知っている。誰とも待ち合わせをしていないことを。瞬間的に向ける視線にも気づいている。その後の行動を予想はしているが、後手に回ることが多い。僅かな隙を衝かれ、そして訪れる結末を嫌という程、見せつけられた。
だからと言ってわたしは派手な行動を取らない。自然の流れに身を任せ、ほんの少し変える。懐中時計の職人のように繊細な指の動きで未来に僅かに触れる程度が望ましい。未来とはとても過敏で、想像を超えた現象を引き起こすものと認識していた。
彼の前に差し掛かる。ふと気づいたように横目を向ける。
「おはよう」
当然のように何も返さない。架空の待ち合わせ相手に愚痴を零し、舌打ちで終わらせた。わたしは麻衣子の聞き役となって道なりに進む。
十字路を左手に曲がって間もなくして行動を起こす。
「ごめん、忘れ物をしたから先に行ってて」
「ここで待ってるよ」
「遅刻するかもしれないよ」
「それは困る。今月で三回目だし」
麻衣子は困ったような笑みで手を合わせた。ここまではいつもと同じ。
これからが問題になる。彼の行動の選択肢は相当に多い。わたしの行動によっても変わる。
それでいて最後は決まって
彼に鍛えられたというのか。肝は極太に育ち、妙に腹が据わった。どのような最期にも驚かず、速やかに対処する自信が備わった。
わたしのループする力があれば過去をやり直せる。回数に制限はない。強く望めば何度でも可能になる。
絶対に彼をわたしの前で死なせない。この力で変えられなかった過去はない。全て満足のいく状態に改変した。
大きく変えると未来に影響を及ぼす。だからほんの少しだけ、変える。職人気質を胸に今日も挑む。
しかし、彼女の試みは失敗した。五十四回目のループを果たし、麻衣子と一緒に登校する。
すでに彼のことが忘れられなくなっていた。
二人の異能対決 黒羽カラス @fullswing
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