エピローグ

最終話 玲瓏の空

「……久しぶり」

 季節は春を迎えようとしていた。空はよく晴れ、太陽も元気いっぱいという感じだ。

 僕は退院した後、零菜の故郷へと来ていた。

 理由は今まで一度も来れていなかったお墓参りをするためだ。


 零菜のお墓の前に立つと自然と目や心が熱くなった。

 ああ、ほんとに死んでしまったのだな、と思った。何年も前の事なのに未だにどこかで受け入れていなかったのだ。


 僕は持ってきたオレンジ色の花と零菜が好きだったお菓子を添えた。どういう花がいいのかは分からなかった。ただ、零菜が好きなオレンジ色にしようとは決めていた。


「今日は何を話そうか?」

 いつも零菜と話をしていたかのように僕は話を始めた。


 まず、今までお墓参りに来なかったことを謝った。

 多分、零菜は拗ねる。


 その後に零菜がいなくなってから、何をしていたのかを話す。

 きっと零菜は途中で飽きて、お菓子を食べ始める。


 次に女の子を助けようとして、死にかけたことを話す。

 零菜は自分を大事にしろと絶対に怒る。これは自信がある。


 最後にその子と僕の友達と一緒に零菜の事を小説に書いたことを話す。


 さっきから君を呼んでいる零菜っていう名前もみんなが決めてくれたんだ。気に行ってくれるかな?

 小説のタイトルはすぐに決まったよ。


       【玲瓏の空】


 玲瓏れいろうって言葉は美しく光り輝くさまって意味なんだって。よく笑う君に、ぴったりだと思うんだ。

 零菜は……多分僕を褒める。

 文章も下手で、数えるくらいの人間にしか読まれてない作品でも君は「すごーい!」って子供みたいにはしゃぐと思う。それを僕が否定すると君は君の意見を僕が認めるまで説得してくるんだ。


「まぁ、こんなもんかなぁ。話すこと終わっちゃったな」

 僕は顔をあげ、零菜のお墓と正面から向き合った。


「じゃあ、またな」

 光り輝く太陽は、今も空を照らしている。

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玲瓏の空 空野 雫 @soraama1950

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