第6話

「じゃあ、ごちそうさまでした。」


優紀君はそう言うと帰って行った。


残された空っぽのお皿が嬉しい。思わぬ来客に私の分は足りなかったけれど。


「そういえば、これ、材料…。」


お皿をみて仁君が呟く。


「小銭いくらか持ってたから。」

「わ、悪いです。お金返します!」

「全然大丈夫。大丈夫、なんだけどさ…。」


明日からの食費が無くて。そういうと仁君は笑った。


「ああ、それならここに実家から送ってきた野菜が。」

「わ!気が付かなかった。」

「だけど、これからどうするんですか?まさか、ここに住む…とか?」


その言葉に、何も言えない。

どうしよう。自分の家に帰ったところで、今は誰かの家だろうし、実家は遠い。まぁ、そもそも10年前の私が居る所になんて行けるわけもないけれど。


「もし、仮に…本当に未来の僕の彼女だったとして、どうやって未来に帰るんですか?僕が心配してるんじゃ…。」


私以上に深刻そうな仁君。申し訳なさすら感じる。


「…してないよ。心配なんて。」

「どうして?お姉さんみたいな可愛い人が居なくなったら心配するよ。」

「…仁君の目に、私は可愛く映ってる?」

「え?」

「仁君は私のことなんて好きじゃないんだよ。」


自分で言ってむなしくなって、涙がこぼれる。慌てて手の甲で拭えば、仁君はその暖かい手でおそるおそる私に触れ、背中をさすってくれた。


「そんなことないと思うけど…。好きでもない人と付き合わないよ、僕は。」

「大人になったら変わるんだよ。」

「…本当に好かれてないの?」

「そうだよ。」

「そうなんだ…。」


これ以上フォローもできないのだろう。だけど、その優しさが嬉しかった。ゆっくりとソファーに誘導してくれて、座らせてくれると仁君は私にティッシュを差し出す。

それを受け取って涙を拭いた。


「だから僕の初めてを?」

「…それは…まぁ、違うとは言えないけど。複雑なの。色々と。」

「そうなんだ…。」


先ほどと同じように、そうなんだ、と繰り返した仁君。

言えなかった。忘れられないくらい好きな人ができるよ、と。彼には。


きっと仁君も苦しいのが分かってるから。

だからと言って、私がその恋を邪魔していい理由にはならないけれど、悔しくて。


静かな部屋で、携帯の着信音が響く。

私のスマホは無い。必然的にそれが仁君のものから聞こえる着信音だという事が分かって、彼はすぐ立ち上がってその携帯へと向かった。



私を見て、一瞬戸惑うから、出ていいよという意味を込めて手のひらを上にしてどうぞというジェスチャーをすると仁君は安心したようにの着信音を遮りその携帯を耳に当てた。



…私は、本当に神様に嫌われている。


「優香先輩!連絡待ってました。」


その言葉に、頭を鈍器で殴られたようだった。

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あの頃僕は18だった。 ことりは @ktrha

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