終、
ギルドの主人は、酒場の傭兵たちを見て、溜息を吐く。
面倒なので、酒は勝手に持っていけるようにカウンターに並べ、葡萄酒の樽も出した。
伯爵の気まぐれには困ったものだ。
レオニールが最初に、ここに来た時はいつまで持つかという印象だった。
だが、今では彼はこの場に多くをもたらしている。
シドをはじめ、その他の若い傭兵に初心を思い出させ、珍しくヤアンも心を開いていた。
それに、彼が成長するにつれて不思議な変化も起きている。ちょうど湖から帰った後だ。
野菜の値段が下がっている。農地で野菜の育ちが良くなり、収穫量が増えたのだ。
穀物も秋には豊作が予想される。
そういう特性を持った人間が稀にいるのを、老紳士は経験から知っていた。
ギルドの主人は付け台に身を乗り出して頬杖を突き、傭兵たちの饗宴に目を細める。
とはいえ、まだまだ宴もたけなわというには早く傭兵たちも、まだほろ酔いの頃合い。
レオニールがリザイラに声を掛けて、酒場の中央に立たせた。
ギルドの主人は何事かと、ヤアンと視線を交錯させる。
声を掛けられて戸惑うリザイラに、ヤアンは愉快げに目を細めて肩をすくめた。
そして――レオニールはリザイラに跪き、手を差し出す。
「レディ・リザイラ! 心からお慕い申し上げております」
レオニールは酔ってはいない。その姿は紳士的であり青年貴族のそれだ。
「えっ――」
思わぬ愛の告白にリザイラは狼狽えていた。
「貴女の心に他の者がいることは重々承知しております。ですがどうか、私のこともその心の片隅に留め、機会をいただけませんでしょうか。よろしければ手をお取りください」
「えーと……」
リザイラが助けを求めて、ヤアンに視線を投げかける。
ヤアンはニヤニヤとした微笑を湛えて、その様子を眺めるだけだ。
――実はリザイラは男だ――ということは、レオに教えない方が面白いだろう?
そう口を動かすヤアンを、リザイラは愕然としてから、恨めしそうに睨んだ。
流石に衆目の中、目の前の紳士――今や友でもある――彼に恥をかかせたくはない。
そして、リザイラにも――試練があるから、強くなれるんだろ?――と笑った。
リザイラは大事な友人を前に、うな垂れるしかなかった。
そして、ギルドの主人は溜息を吐いた。
獅子の嘆き~猫は企み、狼は笑う~ 黒巌麻里子 @utage_mao0111
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