お別れは突然に④
帰りのホームルームが終わった後、樹の席には人だかりができた。 突然の報告だったが皆別れを惜しんでくれた。 ただし皆の相手をしている中、明日磨は明らかに表情を落としている。
「・・・樹、話がある」
こうなることは覚悟していた。 転校するのを黙っていたことを彼は怒っているのだろう。 殴られても仕方のないことをしたと思っている。 それくらいに三人の絆は強かったのだ。
「あぁ。 芽衣も呼んで、三人で話そうか」
そうして三人は校庭へと出た。 芽衣は既に泣いている。 まず一番最初に話を切り出したのは明日磨だった。
「ふざけんなッ、ふざけんなよ! 今日転校します、明日からはもういませんって、そんなこと誰が信じるんだよ!」
「・・・ごめん」
「・・・どうして、転校するのが樹なんだよ」
「・・・悪い」
樹は謝ることしかできなかった。
「いや、謝ってばかりいないで何か言い返してこいよ。 俺たちに言うべきことがあるだろ?」
怒られることは分かっていた。 だが同時に悲しんでもほしかった。 樹は今までの感情を堪えることができず、全て曝け出してしまう。
「俺だって、ずっと苦しかったんだ! 明日磨と芽衣と一緒に過ごす毎日が! ・・・お前らが笑うたびに、俺は胸が締め付けられるんだよ。 苦しくなるんだよ。
今まで俺が一人でどんなに苦しんでいたのか、今まで俺が一人でどんなに泣いていたのかお前らは知らねぇだろ!」
「ッ・・・」
「だから・・・ッ! ・・・だから、言い出せなかった。 いや、言いたくなかったんだ。 お前らも俺と同じように、泣く毎日を送ってほしくなかった。
明日磨と芽衣には、最後の最後まで笑っていてほしかったんだよ!」
涙が出てきた。 それを見た明日磨も同様に涙を流した。
「・・・樹の時間は、お前だけのものじゃねぇんだよ。 俺たちのものでもある。 なのにどうして、一人占めなんかしてんだよ」
「・・・」
「樹が一人で苦しんでいた中、俺たちは知らずにずっと笑っていたって・・・。 それこそ馬鹿みたいじゃねぇか。 俺たちのこの気持ち、樹には分かるのかよ」
明日磨に言い詰められ、そしてそれを見た芽衣が不安気に言葉を挟む。
「あ、明日磨。 そんなに樹を責めないであげてよ。 樹だってずっと、苦しい中一人で耐えてきたんだから。 ・・・それに今樹に怒ったとしても、樹が転校しちゃうことには変わりないんだよ」
「・・・」
芽衣の言葉を聞き明日磨は顔をそらした。 その表情から心情が理解できたため、落ち着いた樹は言う。
「独り立ちができるようになったら、絶対にここへ戻ってくるから。 だから待っていてほしい」
「絶対にって、その根拠は?」
「俺たちは目に見えない糸で繋がっているから、離れることはない」
「何だよそれ・・・。 相変わらず、お前の根拠は全てが空っぽじゃねぇか」
「そう信じていれば大丈夫だよ。 ・・・悪い、そろそろ家に帰らないと。 引っ越しの準備がまだ終わってないんだ」
二人は泣きながら樹のことを見つめている。
「また絶対に会おう。 それまで二人共、仲よく一緒にいるんだぞ! またな!」
最後に最高の笑顔を見せここから走って去っていった。 背後からは明日磨の叫ぶような声が聞こえてくる。 何度も何度も名前を呼ばれた。 だが樹は止まらなかった。
ここで二人の顔をまた見てしまうと、立ち止まってしまいそうだったから。
―――二人共、本当にありがとう。
―――・・・大好きだぜ、ずっと。
二人の姿が見えなくなり、一人道を歩いていると携帯が鳴った。 見ると明日磨からで、とんでもないことが書かれていた。
『俺たちの思い出がたくさん詰まったコルクボード、とっくに引っ越し先へ送っておいたから。 ・・・これは芽衣の案だ』
―――・・・は?
書いてあることの意味が分からず聞き返そうとした。 だが続けて芽衣からメッセージが届き、全てを理解することになる。
『ズルいよ、樹。 引っ越しをして転校しちゃうこと、私たちに隠していたなんて。 いつ伝えてくれるのか、ずっと待っていたのに。
でも全然言ってくれないから、私たち本当は樹に嫌われているんじゃないかって思っていたんだ。 大事なことを伝えてくれなかったから。 ・・・でもその逆だったんだよね。 安心した』
『・・・さっきは強く当たっちまって悪かったな。 向こうでも頑張れよ』
二人からのメッセージを見ていると再び涙が流れた。
―――・・・何だよ、俺が転校すること気付いていたのか・・・。
―――まぁ、あんなに俺の様子がおかしかったら普通は気付くか。
―――・・・二人共、本当にありがとう。
―――明日磨と芽衣のことは絶対に忘れないし、いつかきっとここへ戻ってくる。
―――だからそれまで・・・待っていてな。
-END-
お別れは突然に ゆーり。 @koigokoro
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