お別れは突然に③
更に一週間後。 学校を終えいつも通り三人で帰宅をした樹は、ベッドの上で仰向けに転がっていた。
「はぁ・・・」
大きく溜め息をつく。 転校するまで残り一日となってしまった。 転校することは隠し通せているが、実際毎日が辛い。 二人を騙しているような気もして落ち着かない。
部屋にある片付けられた荷物は転校するのが現実だと思い知らされてしまう。
―――明日磨と芽衣の存在が、こんなにも大きかったなんてな・・・。
そう思っていると一階から母に呼ばれた。
「樹ー! 明日磨くんと芽衣ちゃんよー」
「・・・は!?」
それを聞いて慌てて携帯を開く。 だが連絡は来ていない。 連絡なしに二人が来ることは珍しいことではないが、今のタイミングは流石にマズい。 “もし部屋にやってきたら”
そう考え、急いで段ボールをクローゼットにしまい込んだ。 あまり待たせると怪しませてしまうと思い急いで降りると、二人は玄関で手を振っていた。
「おう樹。 今から一緒に神社へ行こうぜ」
「神社? どうして?」
「私のお姉ちゃんの受験が上手くいきますようにって、お願いをしたいの!」
芽衣がそう言った。
「受験って、もう試験は終わっただろ」
「そうだよ? 試験前ももちろんお願いをしに行った。 だけど合格発表の前にも、お願いをしたいの!」
「んー・・・」
正直あまり乗り気ではなかった。 完全に気持ちがオフになっていたため、今から作り笑顔を浮かべるのは辛かった。
「あれ? 樹、いつもより家の中が片付いていないか?」
明日磨が家の中をキョロキョロと眺めながらそう言った。 神社へ行かないとなると『上がらせて』となる可能性は高い。
纏められた荷物は大体がリビングに置かれていて、家に上がればどんな拍子で見られるか分からなかった。
「あー、行く行く! 行くから! ほら、二人共行くぞ!」
引っ越しをするとバレないよう、二人の背を慌てて押し家を出る。 そのまま近くの神社へと向かった。
「ねぇ、折角だし樹も明日磨も一緒に何かを願おう? お姉ちゃんのことじゃなくて、自分のことでもいいからさ」
「ん、そうだなー。 何を願おうかー」
神社へ着いて早々賽銭箱の前まで向かった。 二人が手を合わせ目を瞑るのを見て樹も真似をする。
―――・・・またいつか、二人と再会できますように。
そう願った。 目を開け横を見ると何故か楽しそうに二人が見ている。
「何だよ?」
「ううん、別に? ただ、いつもお茶らけている樹が真面目にお願い事をしているなんて、何か凄い光景だなーと思って」
「俺だって願いたいことは山ほどあるからな」
「へぇ、例えば例えば?」
「例えば、たくさんの綺麗な女神様が俺に一目惚れをして、そのまま一直線にゴールインできますように! とか!」
「何それー」
本当のことなんて言えるはずがなかった。 それにくだらないことを言って芽衣は笑ってくれる今が好きなのだ。
「なぁ、樹! 芽衣! 折角だからおみくじも引いていこうぜ!」
いつの間にか離れていた明日磨が六角中の箱を持ち手を振っている。
「おみくじ! いいね!」
芽衣はそう言って明日磨のもとへ駆けていった。
―――くじ、か・・・。
―――どうせ俺は凶なんだろうな。
そう思いながらお金を入れくじを引く。 恐る恐る引くと中身は予想通りの凶だった。 いつもならそんな不運も笑いに変えてしまうところだが、今の樹はただただ顔を引きつらせていた。
―――・・・マジ、か。
「ねぇ、見て見て! 私大吉だった!」
「俺は吉だ! うわー、芽衣に負けたー」
「でも吉は大吉の次にいいんだよ! だからあまり変わらない。 樹はどうだった?」
「・・・え? あ、あぁ、俺も吉だった」
「本当に!? 三人揃っていい運勢だね!」
咄嗟に嘘をついてしまっていた。 おみくじの詳細に書かれた“待ち人が現れない”という項目が妙に嫌だったのだ。 暗くなる前に三人は帰ることになったが、樹はこっそりと木におみくじを結び付けた。
「明日は終了式だね。 もうすぐ私たち三年生になるんだよ!」
「実感湧かねぇよなぁ。 でも受験は面倒だわー・・・」
一緒に帰る帰り道。 もしかしたら今が最後になるのかもしれない。
「じゃあ樹とはここでお別れだね。 また明日ね、樹!」
「おう。 また明日な」
ここから樹の家が一番近いため、先に樹が抜けることになった。 笑顔で手を振り去っていく二人の姿を見ながら樹は一人呟く。
「・・・明日磨、芽衣。 今までありがとうな。 そして、さようなら」
夕焼けに消えゆく二人の影が妙に眩しくて、零れた涙が二人に見えなかったことを感謝し背を向けた。
そして翌日の終了式を終えた後、樹は先生に呼ばれ教卓の前へと出た。
「えー、ここで残念なお知らせだ。 この春から樹は、引っ越しをして転校することになった」
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