第2話 現し代の食を求めて

 ラトルの新しい名物料理を作るため、合成鬼竜で現代へとやって来たアルド・サモラ・シュゼット。その3人が最初に訪れたのは、砂漠の村ザルボーだった。


「ここで待っている。用が済んだら戻ってこい。」

「わかったよ。じゃ いってくる。」

「しかし ここは 日差しが暖かいな。」

「暖かいなんてものじゃないわ! 暑さで体が焼けちゃう!」


ラトルの気候に慣れているサモラとは対照に、シュゼットはザルボーの暑さに悲鳴を上げていた。


「とにかく さっさと行きますわよ!」


シュゼットの叫びに答えて、3人は宿屋へと向かった。


「ザルボー名物 砂風呂といえばこの宿! どうです? どうです? 休みます?」

「そうさせてもらいますわ。」

「そうこなくっちゃ! あっ そうだ! これを食べれば 暑い砂漠もへっちゃら! どうです? 美味しそうでしょ? でしょ?」

「確かに 食欲をそそられますわね。いただきますわ!」


シュゼットはもらってきた『ラップ・ド・ザルザ』を、アルドとサモラにも渡した。全員にいきわたったところで、それぞれかぶりついた。


「ん~~! この 甘辛いソースが絶妙ですわ!!」

「片手で食べられて 旅にもってこいだよな!」


皆で食べながら絶賛していると、宿屋の娘が嬉しそうにやって来た。


「どうです? 美味しいでしょ?」

「ええ! 大満足ですわ!」


シュゼットの感想に宿屋の娘も喜んでいる。すると、今まで黙って食べていたサモラがようやく口を開いた。


「この生地は どうやってつくるんだ?」

「ああ。それはナナモロコシを粉末にして 水に溶かしたものを 薄く伸ばして作るんですよ!」

「穀物の粉を溶かしてつくるのか……。ではこの甘辛いソースは何だ? ラトルペッパーとダンシングの蜜か?」


(ダンシングって もしかして ゾル平原とかで襲ってくるアイツか!? サモラって 本当に 倒した魔物を……。)


アルドは、でてきた魔物の名前に恐怖しながらも、サモラの食の探求の姿勢に感心していた。


「初めて聞く素材ですね……。でも うちが使っているのは ザルボトウガラシとルチャナップルですよ!」

「そうか……。でも よく似た風味を持っているな。」

「さ さて もう食べ終わったことですし 次の場所へ行きますわよ! さきほどの舟も待たせていることですし。」

「まあ それもそうだな。いこうか。」


早くこの場を去りたいシュゼットは、サモラと娘の話の頃合いを見計らって、次の場所への移動を提案した。周りを見て判断するのは、意外と得意なシュゼットである。こうして、3人は合成鬼竜に再び乗って、次なる場所へと向かった。


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 3人が続いて訪れたのは、港町リンデだった。


「ずいぶんと穏やかな町ですわね。」

「ここは 魔獣との戦いの被害が 大きいからな。」

「なあ アルド。この時代はワシのいた時代と 似ているんだろ?」

「まあ 未来よりかは 似てるかもしれないな。」

「この町は ワシらの時代で 大体どのあたりなんだ?」

「うーん……。だいたい ナダラ火山周辺ってところかな。」

「なんと……! あのナダラ火山が この町に……。」


現代と古代の話をしている2人に、シュゼットが横槍を入れる。


「2人とも そんなところで話してないで はやく宿屋に行きますわよ!」


いつの間にかシュゼットはだいぶ先の方を歩いている。2人は慌ててシュゼットの方へと向かった。


「しがない町だが ゆっくりしていってくれよ。少し休んでいくかい?」

「ああ。頼むよ。」

「そうか。そうと決まれば お客さん。リンデにきたら これを食わなきゃな。さっ 持ってきな。」

「おっ わざわざありがとう。」


アルドは、サモラとシュゼットにも渡すと、さっそくもらった料理『漁師のリスベル』を食した。


「久しぶりに食べたけど やっぱおいしいな!」

「ソースの塩味と 魚介の磯の風味があいまって バツグンですわ!」

「魚介類と塩味という シンプルな組み合わせだが それがお互いの良さを 最大限に引き出している!」


すると、宿屋のおやじが3人のもとにやって来た。


「おっ お前さんたちも リンデの名物料理にハマッちまったかい?」

「えぇ! とってもおいしゅうございますわ!」

「そうだろ? リスベルは入れる魚介の種類によっても 味が変わるんだぜ? もっとも どの魚介類にも合うがな!」

「ふむふむ。ちなみに この町では どの魚介類を使うのが多いんだ?」

「うちで一般的なのは リンデカマスだな。たまにサンダーサザエが入っているときもある。あと 祝い事の時には アカサンマを使うぞ。」

「なるほど。じゃあ この塩味のソースは 何でできている?」

「ソースは塩と香辛料と油なんかで作るんだ。塩はリンデで採れたもの 香辛料はセレナ海岸とかで採れるホワイトロートス 油はリンデカマスから採ったものだ。」

「油は植物ではなく魚から採っているのか……! さすがは港町だな。だからこそ どの魚介類とも合うのかもしれん。」

「そうかもしれんな ハッハッハッ!」

「色々と世話になったな。2人とも次の場所へ行くぞ!」


サモラはおやじの話を聞き終えたところで、2人に声をかけ、宿屋を後にした。有益な情報をきけたのか、サモラはことのほかご機嫌だ。


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 3人が続いてきたのは、リンデから西に少し行ったところにある王都ユニガンだった。


「ここは 先ほどとは違って だいぶ栄えているな。」

「まるでおとぎばなしにでてくる 王国のよう……。まさしく 闇のプリンセスたるわたくしが 治めるにふさわしいですわ!」


シュゼットが目を輝かせているのを無視して、サモラがアルドに聞いた。


「この街は ワシらの時代で言うと どこら辺だ?」

「ここは…… だいたいラトルのあたりだな。」

「おお……! ラトルがこんな大きな街に……!」

「ここは王都だから 他と比べても 大きいな。」

「なに 王都だと……? まさか パルシファル王が……?」

「いや ここを治めているのは ミグランス王だよ。」

「むむ……。そうか……。」

「そんなことより 早く宿屋に行きますわよ!」


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 「伝統あるユニガンの宿へようこそ! 休んでいく?」

「お願いするよ。」

「わかったわ。それじゃ はいこれ 名物の王国風スープ。あったまるわよ。」

「ありがとう。」


アルドは2人に『お豆の王国風スープ』を渡して、食べた。


「これを食べると いつもなんか バルオキーに帰ったような感じがして 安心するんだよな……。」

「お豆がたくさん入っていて ヘルシーですわね!」

「これは 何の豆なんだ?」

「ああ それなら ここに書いてるみたいだぞ。」


サモラの問いかけを受けて、アルドはスープと一緒にもらった紙切れをサモラに渡した。


「なになに……。「この『お豆の王国風スープ』は 野菜と鶏肉で作ったブイヨンに クレナイベニビーン ひらりあ豆 もちえんどうの3種類のお豆をふんだんに盛り込んだ 優しい味わいの食べるスープです」 か……。」

「何か 気になることでもありまして……?」

「いや これらの豆は ワシの時代にはないが ホクホクとしたクレナイベニビーンに しっかり歯ごたえのあるひらりあ豆 そしてねっとりとしたもちえんどう。豆だけでこれほど多彩な触感を楽しめるのは 非常に興味深いと思ってな。」

「今まで 何とも思ってなかったけど 言われてみると確かにそうだな。」

「何か活かせそうではあるが……。」

「……そろそろ ここをでませんこと……?」

「そうだな。しかし 次はどこに行くんだ……?」


サモラはアルドに尋ねる。


「うーん……。オレは特には思いつかないな……。一度爺ちゃんに聞いてみるか。」

「何かうまいものを知っているかもしれんからな。よろしく頼む。」

「ああ。そしたら バルオキーに行こう。」


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 3人は村長にうまいものについて聞くため、緑の村バルオキーへと赴いた。


「久しぶりに帰って来たな……!」

「ここがアルドの故郷か。のどかでいい村だな。」

「世界を幾度となく救った 星に愛されし英雄……。そんな英雄を忠臣にもつ闇の王女が家臣の故郷に……。何ともわたくしにピッタリな場所ですわ……!」

「いや バルオキーはそんな場所じゃ……。」

「それで 村長の家はどこなんだ?」

「ああ この先だ。」


少し歩いたところで、3人は村長の家に着いた。早速中へ入ると、そこには村長とフィーネがいた。


「ただいま。」

「あ お兄ちゃん! おかえりなさい!」

「おお アルド。おかえり。今日も お仲間を連れてきたんじゃな?」

「ああ。爺ちゃんに聞きたいことがあって。」

「わしに……? わかった。まあ用件は聞くとして 長旅で疲れたじゃろう。少しゆっくりしてきなさい。」

「すまんな。」

「では お言葉に甘えさせていただきますわ。」


3人は少し休んだところで、本題に入った。


「ところで わしに聞きたいこととはなんじゃ?」

「ああ 爺ちゃん ここら辺でなにかおいしいもの 知らないか? さっきザルボー リンデ ユニガンには行ってきたんだけど……。」

「うむ……。すまんが わしはあまりバルオキーをでないこともあって あまり詳しくないんじゃ……。」

「なんと……! そうであったか……。」

「そしたら これからどうしますの?」

「これだけ 食べてきたし 一度古代に戻って レシピを考えてみたらどうだ?」

「まあ それもそうだな。色々なうまいものを食べて 良いアイデアもたくさんみつかったしな。」


古代に戻るということで、話がまとまったところで、ふいにフィーネが口を開いた。


「あ あの……。」

「ん……? どうした フィーネ?」

「もし おなかが空いてるんだったら サンドイッチ作る……? いつも お兄ちゃんに作ってあげてるものだけど……。」

「おっ いいじゃないか! 皆にも食べてもらいたいし 作ってくれよ。」

「わたくしも アルドの妹さんの料理 食べてみたいですわ!」

「店で出される料理もいいが 家庭料理も店とは違ういい味が出るからな。ぜひとも頼む。」

「わかった! じゃあ作るね! ちょっと待ってて!」


皆からの言葉が嬉しかったのか、フィーネは鼻歌を歌いながらサンドイッチを作り始めた。しばらくして、フィーネは3人の前にサンドイッチを並べた。


「はい どうぞ! お口にあえばいいけど……。」

「それじゃ いただきますわ!」


さっそく3人は『フィーネの手作りサンド』をほおばった。フィーネはこころなしか緊張しているようだ。


「これは……!」

「ど どうかな……?」

「うまい……! 具材はシンプルなのに 何と味わい深い……!」

「それに このどこか優しい感じ……。作っている人の思いを感じますわ!」

「ほんと!? よかったぁ……。でも なんだか少し照れるね……。」

「みんなが喜んでくれて 何だかオレも嬉しいよ!」


サモラとシュゼットの感想を聞いて、フィーネは安堵と嬉しさと照れくささが入り混じったような顔をしていた。その様子を見てアルドも嬉しそうだ。すると、サモラが何か気付いたのか、フィーネに質問した。


「このソースはどうやって作っている? 何かの魚の塩漬けのようだが……」

「すごい……! よくわかりましたね! このソースはバルオキーやヌアル平原でとれるバルオキーカマスの塩漬けペーストで作ってるんです!」

「なるほど……。その魚は聞いたことが無いが これがいいアクセントになっている。」

「一回食べただけで分かるなんて すごいなぁ……! お兄ちゃんなんて よく作ってるのに 一回もそんなこと 言ってくれたことなかったよ。」

「あはは……。」


こうして、フィーネの優しさいっぱいのサンドを食べ終え、それぞれフィーネにお礼を言ったところで、アルドが次の予定について話し始めた。


「さて じゃあ そろそろ古代に戻るか。」

「そうだな。いくつか試したいものも出てきたしな。」

「じゃあ オレも一緒に行くよ。サモラの作った名物料理も 見てみたいからな。」

「わたくしも一緒に行きますわ。この封印されし精霊の力をもって 魔界にも通じるような究極スイーツを編み出して差し上げましてよ!」


(それに 昔の食事も食べてみたいし……!)


最初は面倒がっていたシュゼットも、今となっては楽しそうだ。すると、サモラがアルドに言った。


「なあ アルド。」

「ん……? なんだ?」

「行き先を ラトル以外の場所にしてくれないか?」

「いいけど…… どうかしたのか?」

「ラトルに帰る前に もう一度他の所のうまいものも確認しておきたくてな。」

「わかった。そしたら サルーパはどうだ?」

「うむ。それで頼む。」

「よし。それじゃあ さっそく合成鬼竜に頼もう!」


次の行き先も決まったところで、3人は外へと向かう。


「頑張ってね お兄ちゃん! それに皆さんも!」

「気をつけてな アルド。お仲間の皆さん アルドのこと ひとつよろしくお願いしますの。」

「お任せあれですわ!」


3人はフィーネと村長に見送られながら、合成鬼竜に乗るためヌアル平原へと向かった。


(なんか 思ったより長旅になったな……。でも サモラの料理もシュゼットのスイーツも気になるし 最後まで見届けなきゃな。)


アルドはそんなことを思いながら、ヌアル平原で合成鬼竜と合流した。

こうして、3人は合成鬼竜に乗り、過去へと向かったのだった。

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