第3話 古の代の食を追って
次元戦艦に乗り込んだ3人は艦内の船室で休んでいた。バルオキーの村長の家で少し休んだとはいえ、未来・現代と歩き回ったため、3人は少し疲れ気味だった。しかし、疲れた雰囲気を察してシュゼットはいつも以上に元気に言った。
「それにしても 次元を超える空飛ぶ戦艦……! まさしく この闇のプリンセスたるわたくしに ピッタリですわ!」
「確かに そうかもな……!」
アルドはそう笑って返した。一方、サモラは自分の鍋やハンマーの手入れをしている。すると、急にシュゼットがサモラに話しかけた。
「そういえば 名物料理がどうとか言ってましたけど 今の料理は何ですの?」
「そうだな……。今ちょうど持ってるが食うか……?」
「ぜひいただきますわ!」
「うむ。……ほれ。」
そういって、サモラは持っていたバッグから、小さな壺を出した。
「何ですの? これは。」
「『スパイシー・ソージャン』といってな。山菜とマッカハゼ 雑穀米を炒めたものにバルハラペーニョをトッピングしたものだ。」
サモラは説明をしながら、小皿2つとスプーン3つを用意し、2人に渡した。
「さあ 食ってみろ。」
「さっそくいただきますわ!」
「あっ そんなに一気に食べたら……。」
アルドの忠告もむなしく、シュゼットは顔をゆがませながら叫んだ。
「か 辛-----い!!!」
「一足遅かったか……。」
「はっはっは! 甘い物好きのお前には 少し刺激が強かったかもしれんな。」
「ほんなほほより みじゅ! みじゅーーー!」
アルドは、戦艦のクルーである合成人間に水をもらい、辛さに悶えるシュゼットに渡した。
「ひぃ ひぃ……。危うく口が無くなるところでしたわ……。」
「オレも最初食べた時は 大変だったよ。」
「でも 味は なかなかのもんだろ?」
「え ええ……。病みつきになりそうな味ですわ。最初に来る辛さはもう結構ですけど……。」
「バルハラペーニョは ワシの時代でもかなり辛い食べ物だからな。」
すると、3人の話を聞いていた合成人間がやって来た。
「今 バルハラペーニョといったか。」
「ひぃ……! 合成人間!」
驚くシュゼットに、アルドは落ち着かせながら言った。
「この戦艦にいるみんなはオレたちの仲間だよ。それで バルハラペーニョがどうかしたのか?」
「私が作っているサンドもバルハラペーニョを使っていてな。」
「それはほんとか! ぜひ食べてみたいものだ!」
「ちょっと待ってろ。」
サモラの要望を受けて、合成兵士は船室を出て、しばらくしてから戻ってきた。
「……持っていけ。」
「すまんな。」
「オレたちの分まで作ってくれたのか!」
「あ ありがとう……。」
そういって、3人は合成兵士からサンドを受け取った。
「何だか 少し個性的な見た目ですわね……。」
「見た目なんかはどうでもいい。問題は味だ。」
そういって、サモラはサンドをほおばる。2人も後に続いて口に運んだ。
「おお! なかなかうまいじゃないか!」
「バルハラペーニョの辛さと卵の甘さ そして野菜の食感が絶妙ですわ!」
「フィーネが作ってくれるサンドとはちょっと違うけど こっちもおいしいな!」
「む……? もしや……」
アルドの感想にサモラは、何か気付いたようだ。
「このサンドのレシピを教えたのは……」
「ああ フィーネが教えたんだったっけ。」
「この組み合わせ どこかで食べたことがあると思ったら アルドの妹が作ってくれたサンドだったか! ということは バルオキーカマスの塩漬けの代わりに バルハラペーニョを使ったということだな? いい組み合わせだ。」
「アルドの妹さんが作ってくれたサンドも おいしかったですけど こちらもなかなかいけますわ!」
「よかったな! みんな大満足みたいだぞ?」
アルドが言うと、合成兵士は背中を向けたまま言った。
「気が向いたらまた来るといい。あと もうすぐ草原の村に着くぞ。」
「わかったよ。ありがとう。」
こうして、3人は身支度を整えて、次元戦艦を降りた。3人を見送りながら、合成兵士は誰にも聞こえないような声で一言つぶやいた。
「きっと何かの誤作動だろう……。フッ……。」
>>>
「ゾル平原よりも東側に 村があるとは聞いていたが 来るのは初めてだ。」
「緑に囲まれた 素敵な村ですわね。」
「バルオキーも緑が多いけど またそれとは違った雰囲気だよな。」
3人は古代で最初に訪れたのは、草原の村サルーパだった。
「じゃあ 宿屋に向かおう。」
「過去に秘められし伝説の料理の数々……。楽しみですわ……!」
3人はこうして、サルーパの宿屋へと向かった。
「大樹から感じる 安らぎをあなたに。少し体を休めては いかがでしょうか?」
「ああ。少し休ませてもらうよ。」
「かしこまりました。それでは はい。大自然の恵みを おすそわけ。こちらをどうぞ。」
「ありがとう。」
アルドはもらってきた料理をシュゼットとサモラにも渡した。そして、さっそくこの『ハナブクのトロトロ焼き』を食べた。
「うまい! なんだこの肉は!? こんなあっさりして甘い脂身は 初めてだ!」
「口に入れた瞬間 溶けましたわ!」
「こんなトロトロのお肉 他では食べたことないよ!」
3人が絶賛していると、宿屋の娘がやってきた。
「お気に召されたようで 何よりです。」
「これは 何の肉なんだ?」
「ハナブクといって サルーパの西側にあるチャロル平原に 生息している魔物のお肉を使っているんです。」
「聞いたことが無い魔物ということは そこにしか住んでないということか。しかし これだけ脂身が多いのに 全くしつこくないうえに ここまで肉独特の甘みが感じられるとは……。」
「しかも 炙っただけで ここまで トロトロになるなんて……。エルジオンでは まず食べられないですわ! でも……。」
「どうしたんだ?」
「手がベットベトですわー!」
シュゼットに言われて、アルドとサモラも自分の手を見ると、ハナブクのお肉の脂でベトベトになっていた。それをみて、宿屋の娘は言った。
「このトロトロ焼きは 食べると手が脂で汚れてしまうんです。奥にお手洗いがあるので そこで洗っていってください。」
「そうさせてもらいますわ!」
トロトロ焼きを食べ、手を洗い終わったところで、3人は宿屋を出た。
「さて 次はどこに行こうか?」
「うむ……。パルシファル宮殿はどうだ?」
「確かに その方がアクトゥールに寄って ラトルに行けるな! じゃあ そうしよう。」
3人は、外で待たせていた合成鬼竜で、パルシファル宮殿へと向かった。
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「禁じられし 古の王朝。その名を口にすることを許されない ときの王。そして そこへ 空飛ぶ方舟で 時空を超えて 降臨せし 闇の王女……。わたくしはまたもや 精霊の力によって 導かれたのですわ……!」
「いや パルシファル宮殿も そんなところじゃないって……。」
「ワシは もはや何とも思わなくなってきたぞ……。」
「ははは……。まあ とりあえず 宿屋へ行くか……。」
「そうだ アルド。」
「何だ?」
「ワシは パルシファル宮殿とアクトゥールの食事は 食べたことがあってな。その時に色々聞いたのだ。それに レシピについても考えたい。だから ラトルまではしばらく 静かだと思うが 気にしないでくれ。」
「わかったよ。それじゃ 行こうか。」
「……さあ わが忠臣よ。ときの王のもとへ…… って ちょっと! おいてかないでよー!」
シュゼットは、アルドとサモラの後を、急いで追いかけた。
「ここは衛兵の方以外にも 解放されています。旅のお方 お休みになられますか?」
「ああ。」
「かしこまりました。では こちら 宮殿付きのシェフだけが知る 秘伝の料理です。」
「すまんな。」
サモラは、アルドとシュゼットにも、もらった料理『ウルトラ・ジャーキー』を、渡して食べた。
「どうだ シュゼット?」
「これは……。」
「……。」
「なんて 忠実に再現されたお肉ですこと!」
「えっ 忠実に再現……?」
「あら これはお肉の味を 忠実に再現した お菓子か何かですわよね?」
「いや 違うんだ。これは お肉を干したものだよ。」
「お肉を干すですって? あの お肉を干すとこんな風になるんですの?」
シュゼットは干し肉を知らないのか、きょとんとしている。
「そうなんだ。余分な水分が抜けて そうなるみたいだよ。」
「そうだったのですわね。でも お肉の旨味が凝縮されていて とてもおいしいですわね! 他のお料理も 干したらおいしくなるのではなくて?」
「それはどうかわからないけど……。確かに 干しただけなのに すごくおいしいよな。」
「本当に! それに このスパイス! 今までこんな 薫り高いもの 食べたことありませんわ!」
すると、黙っていたサモラが、目を閉じたまま口を開いた。
「そのスパイスは パルシファル宮殿のシェフ長しか知らんという 特別なものだ。」
「そうだったのですわね! ハーブのようであり フルーツのようでもあって 色々な料理に合いそうですわ!」
話を聞きながら、サモラは心の中でつぶやいた。
(食べ物を干す。それに ハーブやフルーツのような 色々な料理に合う薫りのスパイスか……。)
休憩もかねてしばらくゆっくりしたところで、3人は宮殿を出た。
>>>
次に3人が訪れたのは、水の都アクトゥールだった。
「とても美しくて 神秘的な場所ですわね!」
「ほかにはない景色だよな。」
「それに ここまで水が豊富なところも 見たことないですわ!」
「エルジオンには こんなところは ないもんな。」
「ねえ アルド。」
「……? なんだ?」
「成り行きでここまで来てしまいましたけど 普通なら来ることができないような 場所まで来れて よかったですわ。それに……。」
「それに?」
「色々なご飯も食べることができたのですもの! とてもうれしいですわ!」
「ま まあ そうだよな……。」
「でも 肝心のスイーツがないですわ! 今まで食べたものは 全て美味しかったですけど スイーツがないことには わたくしも満足できませんわ!」
「確かに ニルヴァから 甘いものは食べていないような……。」
「ほれ。さっさと宿屋に行くぞ。」
疑問を感じ始めたところで、2人はサモラの呼び声に誘われて、宿屋へと向かった。
「美味しい水で作る料理は 最高の味! 休んでいきますか?」
「ぜひ そうさせてもらいますわ!」
「わかりました。それでは これ 澄んだ水からつくった お菓子です。ぜひ ご賞味ください。」
「……! いただきますわ!」
もらってきたシュゼットは、少し興奮気味なままアルドに手渡す。
「ついに ついに スイーツですわ!」
「やっとだな。早速食べよう。」
そうして、さっそくもらった『冷製スフィア・コッタ』を口にした。
「……。」
「ど どうだ……?」
「これよ これ!」
「うわっ……!」
「こういうのを 待っていたのよ! やっと食べられたわ!」
シュゼットは興奮のあまり、口調が普通に戻っている。それに気づいたシュゼットは、少し黙ってから咳払いをして言葉を続けた。
「こ この 透明でぷるぷるなものが 冷たくて 食感もバツグンですわ! それに この中の丸いものも 上品な甘さで とてもおいしいですわ!」
「満足そうでよかったよ。」
「でも これは 何でできているんですの?」
シュゼットが聞くと、ここぞとばかりにサモラが口を開いた。
「このぷるぷるは 水と少量のカラメテ粉でできている。中に入っている甘いものは シュガーバドックを煮詰めたものだ。」
「聞いたことはないですけど……。でも中に味や食感が違うものが入っているのは おもしろいですわね!」
「……ふむ。なるほど。」
「そしらた もう 食べ終わったことだし 外へ出ようか。」
アルドの提案を受け入れ、2人も宿屋を後にした。
「それで 次はどこに行きますの? わたくし もっと スイーツが食べたくってよ!」
「シュゼット それが……」
「これで 回るところは最後だぞ。」
「えっ……?」
サモラが、アルドがオブラートに包んで言おうとしたことをはっきりと言い、シュゼットは呆気に取られていた。
「それは 嘘よね……? まだ スイーツ2品しか 食べてないけど……」
「残念だけど 今から向かうところは ラトルなんだ……。」
「そんなー!! もっと スイーツを食べれると思ったのに……!」
「すまんな……。だが他に行くところもないからな。」
「うう……。」
しばらく、ショックを受けていたシュゼットは、しばらくしてから顔を上げて言った。
「こ こうなったら……。」
「な 何をする気だ……?」
「こうなったら 自分で魔界でも通じるような極上のスイーツを作って 自分で食べまくってやりますわー!!!」
「シュゼット……!」
何とかなったのかはわからないが、とりあえずいつもの調子に戻った様子をみて、アルドとサモラは胸を撫でおろした。
「そうと決まれば さっさとその ラトルとやらに行きますわよ! アルド 忠臣として私たちを案内してくださまし!」
「ああ……! それじゃあ 行こう!」
こうして、3人は食を巡る旅を終え、新たな名物料理を作るため、ラトルへと向かうのであった。
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