出来損ないのmonologue

@Saki013094

最初で最後。

いつもいつまでも続くような坂道をひたすらに歩く感覚と共に生きている。


幼い頃から兄と比べ貶められることが常であった。

出来損ないの弟であることに何の違和感も持つ機会すらなかった。

兄は完璧でありその後をひたすらに追いかけた。

自分のしたいことも、願いすら思い浮かべたこともなかったから進路も部活もそのすべてが兄と一緒を目指した。

ただ出来損ないであったが故に同じ進路を目指したとて進むことのできた学校は違っていった。


俺はだからこそ兄を尊敬していたしその俺からの尊敬に耐えられず兄が壊れたとしても盲信していた。


だから社会人になって壊れた兄を尊敬しその影を見ながら進んでも出来損ない以上になることは出来なかった。


その事実は緩く緩く俺の首を締め付け坂道が歩き辛くなっていく。

呼吸の仕方も分からなければ尊敬していたはずの兄の姿が立ち消えても完璧である幻覚をみてヘラヘラ笑っている。


そんな俺を周囲はどう感じていたのだろうか。

おかしなやつだと思ったことだろう。

視野が狭く自分自身が歩きづらいことを自覚してもヘラヘラ笑っている異常者だと見限った者も多くいるのであろう。


これはそんな俺の日常の1ページに過ぎない。




何も変わらない日常。

友達なんているはずもなく出来損ないだからとミスを隠蔽することに罪悪感すら抱けない人間の仕事終わりの帰り道。


異常性を知らない人間から話しかけられた。

仕事先は若者なんて見もしない田舎町であるからして町の人間全員が知り合いであることも当たり前だ。


野菜を持っていかないかと声をかけてきた年老いた男性は窓口で俺と何度か話したことがあるらしい。

兄以外には興味は無い為覚えてすらいないがまぁ笑顔で話しておけば何も問題は無いはずだとタカを括りありがたく野菜を頂戴した。


その対価なのだろうか老人は昔の話をやたら意気揚々と話してくる。

家が目の前であるから早く帰りたいのだが働きはじめて一年、職場の人間は異常性を感じているのかいつもの避けるような態度に移り変わっているのでまぁ社会勉強として話を聞くことにした。


老人が話をしたことは至って普通の自慢話であった。

過去が何よりも尊いものであるかのようなそんな話し振り。


そんなに何か尊いもののように感じながら話せるものなんて俺にはあっただろうかと考えた。


何もない何もなかった。

生きてきた分だけ思い出もあるし好きなものだってないわけじゃない。

ただ生きる理由もなく死ぬ理由もないような希薄な人生を歩んできたことを俺は悟ってしまった。


悟ってからの行動は早かった。

特に何がしたいかもない人生を浪費することに嫌悪感を感じた。

罪悪感を感じた。


ならば生きる価値もないのだと理解した。

幸いこの陸の孤島と呼ばれるこの街には気づかれず死ねる場所なんていくらでもあった。


兄もこの間自殺未遂をしたと連絡があったしそれを悪いことだとは思わなかった。


命は尊いものである。それはきっと事実なのであろう。

誰かに信頼され支えとし支えになって生きていく。


だがその誰かすら居らず、1人分の食物、住居、時間。

それら全てが俺の死にたくもないし生きたくもない自己満足で浪費されていく。


さらに言えば俺の自己満足のせいで兄は圧に潰され劣等感に苛まれ息もうまくできないでいる。


ならば圧からの開放が唯一の自分でできる兄への献身なのだ。


一瞬兄は悲しむであろう。

だが苦しみは一瞬でこれから先も長い人生が続いていく兄にとって結果としては希望の前に進む一手になるのだ。


老人と別れた後沢山の野菜を常温の玄関に置きその足で車に乗り込み緩く続く坂を登る。


カーナビも付けずひたすらに上を目指す。


夜が更け前が見えづらくなるのは顔が見えづらくなるので好都合であった。


ただこれ以上時間を浪費しては他の誰かの枷になるから出来るだけ急ぎ目に永遠と続きそうな坂道を登る。


夏から秋へ更に冬に変わりそうなこの季節は風が吹くごとに青々しい葉っぱが落ちてく様が見事で建物がないこの町が段々と星々に照らされていくのは幻想的だった。


この世には永遠という言葉は存在しない。

立証など出来はしないたわいごと。

正に永遠と言う言葉は理想郷だった。


行き止まりについて車を停める。

星に照らされその奥に見える町はとても綺麗だひかる町は生きている証だと思えるから。


崖に腰掛け後ろを振り返る。

これが物語であったのならばきっと大切な誰かが大きな声で止めてくれる。


なんてそんな与太話を考えたが来るわけもない。

物語やゲームは理不尽を理想郷に変える幻覚だから。


立ち上がり体を前に倒すと色々考える。兄の解放されて笑った幸せな顔。

職場の人間の新しい人材を迎え入れて回る歯車。


そこに俺はいないけど兄が笑えるなら満足だった。

体が宙に浮かぶ。


浮遊感が身を包むが後悔など何もなかった。


何か一つでも後悔ができればきっとそれが生きる価値であり人生なのかもしれないが残念出来損ないにはそれすら出来なかったみたいだ。


嘲笑を浮かべ出来る限り処理が少ないといいな。

あとこの1人分で誰かが生きる価値を坂道をもう少し上手く登れたらと願う。


願えたから。これが俺の生きる価値であったかもしれない。

安心した。俺も人間であった。最高の人生だ。


風の音だけが俺を最後に褒め称えるように包んでくれた。

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