ある実験
松長良樹
ある実験
灰色の冬空に雪がちらついている。正月の神社の境内に小学生の兄弟がいた。
兄が伸二で弟が浩二だ。赤いほっぺたをした浩二が元気いっぱいな声で言った。
「にいちゃん。オレ父ちゃんにお守りもらったんだ。いいでしょ!」
伸二が興味本位の顔をして答えた。
「お守りかよ、へえ、そりゃよかったな。で、どんなお守りなの?」
「うん。父ちゃんが教えてくれたんだけどこのお守りはねえ、江戸時代、大工の辰五郎という人が高い
浩二はそう言って、伸二にお守りを得意げに差し出した。
「霊験顕著って、難しい言葉を覚えたね。だけどおまえ意味わかってんの?」
伸二がちょっと真面目そうな顔をして言った。そして差し出された赤いお守りの袋の中を開けて見ると、浩二という名が筆文字で書かれた小さな板が入っていた。
不思議そうな顔をして伸二が言った。
「ふーん、なるほど仮に交通事故か何かに遭っても、この板がおまえの代わりに割れておまえは助かるのか。身代わりってことか、そういうことか?」
「うん。そういう事」
浩二が嬉しそうに目を輝かせた。すると伸二は暫らく考え込んだ後にこう言った。
「じゃあ、もしこのお守りが先に事故に遭ったらおまえはどうなるの?」
「――それ、どういうこと?」
「反対ってこと」
伸二はそう言うと浩二の名の書かれた板をアスファルトの地面にいきなり叩きつけた。
しかし、板は割れなかった。割れずに地面から勢いよく跳ね返って来た。
そして、板が割れないかわりに……。
了
ある実験 松長良樹 @yoshiki2020
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