ネットゾンビ
ネコイル (猫頭鷹と海豚🦉&🐬)
ゾンビは生きるために人を喰う
「死ねよ」が口癖だったあいつは、たぶん死んだ
「死にたい」って言ってたあの子も、きっと本気で死のうと考えているんじゃないかな。
僕はトイレの個室で、小さな画面の先で起きる悲劇を想像した。みんな僕と変わりはしない人間だったんだ、そう思うと胸をねじられたような痛みと息苦しさを覚えた。
はじめは気持ち悪さが勝った。でもそんな痛みも段々と生きている実感として体を満たし始めた。あいつらの体に嚙みついた瞬間の歯応えと必死に抵抗しようと動き回る様は、僕に一人の人間としてあるべき何かを与えてくれるような気がした。
僕はひと時の愉悦に浸りながら、凍える体を縮こませた。この時期はどこよりもトイレの中が寒くなる。床も壁も硬い石材で覆われていている癖に、僕を苦しめる冷たさだけはどこまでも付いてくる。
キィィィと古くなったドアが開いて数人の男子ががやがやと騒ぎながらトイレに入ってきた。その声はまるでハチの羽音のように僕の背筋に緊張を走らせる。
声は少しずつこちらに近づいてきて、そこが帰る家であるみたいにピタリと僕の個室の扉のまで止まった。
それから始まる怒声に罵声、ドアを壊そうとするみたいに蹴りまくる騒音。
「死ねよ、マジで!」
嘲笑まじりに聞こえる言葉は僕の心と体をズタズタに引き裂いたくせに、まだ足りないとばかりに浴びせ続けられる。そんなに死んでほしいなら殺してくれればいいのに。そんな風に自暴自棄になったこともあったけど、彼らがそんなことをわざわざするわけがないんだと最近になって気が付いた。
彼らは僕に死んでほしいわけじゃない。
ただ死んでいく過程が面白くて堪らないだけなんだって。
だから僕もそうすることにしたんだよ。
人が本当に怖いのは死ぬことじゃない、死に至るまでの過程なんだってわかったから。
僕はあとで追加の餌を与えることに決め、今はただこの状況に耐えることにした。
予備鈴が鳴り人の気配が過ぎ去ったところで僕もまたこの石牢のなかから出ることにした。廊下の空気はあまり暖かくはなかったけれど、それでも人の残した空気はそれだけで僕にかすかな温かさと絶望を与える。
まだまばらに残った人の間を抜けながら感じる目線には、死体を流し見るような哀れみ以外の感情は見られなかった。
ここでは僕は死んだゾンビみたいに扱われている。
だから僕は、人間に嚙み付くし、仲間を増やす。
僕らの目的は、人を食って人間に少しでも近づくこと。
それだけが僕らの生きる道なのだから。
ネットゾンビ ネコイル (猫頭鷹と海豚🦉&🐬) @Stupid_my_Life
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