「なに読んでいるの?」

 そんな風に男の子に声をかけられて、よるはすごくびっくりして声のした、後ろを振り返った。

 するとそこにはよるの教室のクラスメートである男の子、白浜めぐるがいた。

 めぐるくんはとても明るい性格をした男の子で、男女問わず、とても人気のある学校の中でも有名なかっこいい男の子だった。

「えっと、……」とよるは言葉に詰まった。

「うん。なになに。……車輪の下? ああ、ヘッセ読んでいるんだ。ヘルマンヘッセ。好きなの? 田中さん」にっこりと笑ってめぐるくんは言う。

「……はい」

 顔を赤くしてよるは言った。

「僕も好きだよ。ヘッセ。小学校のころによく読んでいた。デミアンとか、少年の日の思い出とか、春の嵐とか」よるの座っているベンチの空いているところに座ってめぐるくんは言った。

「田中さん。本好きだよね。いつもなにかの本読んでいる」めぐるくんは言う。

「えっと、はい。読書、好きなんで」本で顔を半分くらい隠しながら、よるは言う。

「あと、どんな本読んでいるの?」

 めぐるくんの質問によるは自分の好きな作家さんの名前を二、三人答えた。その作家さんは全員外国の作家さんだった。

「日本の作家さんでは誰が好きなの?」めぐるくんは言った。

 その質問によるは「日本の作家さんはあまり読まないです。でも代わりに漫画はよく読みます」と答えた。

「田中さん。漫画読むんだ。どんな漫画読むの? 少女漫画?」

 めぐるくんの質問によるは自分の好きな漫画のタイトルをやはり二、三作品答えた。それはどれも、アニメ化や映画化もされている、とても有名な作品ばかりだった。

「田中さん。音楽とかは聞かないの? 俺は洋楽が好きなんだけど」

 楽しそうに笑ってめぐるくんがそういったときだった。

「やめなよ、めぐる。田中さん。困ってるよ」という声が聞こえた。

 よるが声のしたほうをみるみと、そこにはやはりめぐるくんと同じように、よるの教室のクラスメートである藤村ゆうくんが、いつの間にかこっちを見て、二人が座っているベンチのそばに立っていた。

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よるの時間 雨世界 @amesekai

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