よるの時間
雨世界
1 私は、あなたのことを忘れない。
よるの時間
登場人物
田中よる 十六歳 高校一年生 少女
藤村ゆう 十六歳 高校一年生 少年
白浜めぐる 十六歳 高校一年生 少年
プロローグ
私は、あなたのことを忘れない。
本編
もう、泣かないで。
藤村ゆうくんに抱きしめられたとき、田中よるは本当に驚いた。男の子に抱きしめられることは初めてのことだったし(お父さんにはよく抱きしめられていたけど)、本当にびっくりした。
それに抱きしめられることだけではなくて、男の子の泣いているところをみるのも、よるにとっては初めてのことだった。
泣きながら自分のことを抱きしめているゆうくんのことを見ながら、よるはいろんなことを考えていた。
でも、少しして、よるはいろんなことを考えることをやめて、ただゆうくんのことだけを考えることにした。
よるの手は自然とゆうくんの背中に触れた。
「大丈夫。もう大丈夫だよ、ゆうくん」
ゆうくんに抱きしめられながら、背の高いゆうくんの胸の辺りのところで、よるはゆうくんにそう言った。
ゆうくんはなにも言わなかった。
ただずっと、よるのことを優しく泣きながら抱きしめているだけだった。
それからしばらくの間、二人だけの時間がすぎた。
よるは周囲の風景に目を向ける。
いつものベンチ。
いつもの大きな桜の木。
いつもの花壇。
見慣れた校舎。
誰もいない夕暮れの校庭。
いつもの場所で、いつもとは少しだけ違うことをしている自分とゆうくん。
それが、なんだか不思議で、なんだかちょっとだけおかしかった。(実際によるはゆうくんに見つからないように、小さくくすくすと笑った)
やがて、泣き止んだゆうくんはよるのことを抱きしめることをやめて、その体をよるからそっと離した。
よるがゆうくんの顔をじっと見ると、ゆうくんはその赤い目と同じように、その顔を真っ赤な色に染めて、とても照れくさそうな顔をしていた。
そんな珍しいゆうくんの顔を見て、よるはゆうくんのことを、小さい子供みたいで可愛いと思った。
「ごめん」と小さな声で、ゆうくんは言った。
でもよるにはなぜゆうくんが自分にこのタイミングで誤っているのか、その理由がよくわからなかった。(私を驚かせたことを誤ってくれているのだろうか? それともほかになにか深い理由でもあるのだろうか? ……うーん。わかんない)
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