おぞましくも心地よい悪夢のごとく

 自分が得体の知れない怪物になって、ぬとぬとの汚い粘液にまみれて、ああ、もうずっとこのままなんだなあ、と、なぜか爽快感の混じる諦観を持ってしまう。そんな悪夢を見たことがありますか。
 そんな感じに似たこの作品の、おぞましくも素敵なところは、主人公の転生前はどんな人物なのか、文中では明かされないところだと思うのです。その性格さえスライムの身体に引きずられている疑いもあります。
 つまり、それは貴方(のような人)かも知れないのです。ね、おぞましいでしょう?
 そしてラスト、「旦那」のために一歩踏み出さんとする姿も、おぞましくも美しいと感じてしまうのです。
 あの有名転生スライム作品に情緒的不満を持つ人と、「我が夫となる者はさらにおぞましきものを見るだろう」という有名セリフにときめいてしまった人にお勧めします。「おぞましい」って5回も書いてすみません。