第2話 皇都

 玄武は出雲の暮らしていた村に入ると、そこは破壊の限りを尽くされていた。小さい農村ながらも人々で活気が溢れていた面影はなく、建物や集会場から崩れ、村の奥からは火の手が上がっているのが見える。


「俺の住んでいた家が崩れている……」


 出雲が崩れた家の前に移動をすると、足元に何かが見えた。それを手に取ると一年前に画家が村を訪れた際に書いてもらった家族全員の絵であった。その羊皮紙に書かれたその絵はとてもリアルに描かれれており、実際にそこにいるような錯覚を感じるほどであった。出雲はその絵を手にすると、涙を流してしまう。


「最後に泣いておけ。その涙はお前を強くする」

「はい……」


 数分間泣き続けた出雲はゆっくりと立ち上がって玄武に行きますと話しかけた。その言葉を聞いた玄武は、もういいのかと出雲に言う。


「もう大丈夫です! ありがとうございます」

「そうか。その絵は俺の家に着いたら額縁にでも入れよう」

「あ、ありがとうございます!」


 笑顔でありがとうございますと言った出雲の頭部を玄武は撫でた。


「さて、村の北側に馬車があるはずだ。それに乗って首都である八雲に行くぞ。そこに俺の家がある」

「分かりました!」

「良い返事だ」


 出雲は村の北側にあった馬車に乗り込むと、馬車を操作する人が隊長お帰りなさいと玄武に言った。


「村人で生き残りはこの男の子だけだ。この子は俺の家で引き取る」

「分かりました。では出発します。他の騎士団員は別の任務に向かいましたので」


 そう言うと馬車は出発をした。出雲のいる村から首都である皇都八雲まで十時間ほどかかるので、途中の村で休憩を挟みながら首都を目指していた。


 出雲たちは皇都に近い町である霞の町で一度休憩を取ることにし、一時間後に再出発をすることにした。


「そう言えば出雲は魔法を使えるのか?」

「火属性の魔法を使えたはずなんですけど、二年前ほどに黒いフードを被っている魔物何ですかねあれは? 不思議な魔物に頭部を掴まれた時から魔法を使えなくなってしまって……魔力の操作は出来るんですけど……」


 その言葉を聞いた玄武は、属性だけを使えなくする魔物なんて聞いたことがないと考えていた。


「出雲の魔法属性だけを奪ったのか? ちなみにどんな属性だったんだ?」

「火属性です」

「誰でも持っている火属性か。特別に珍しい属性ってわけでもないし、何がしたかったんだ?」

「分かりません……」

「魔法が使えなくとも、剣技を鍛えてやるからな! 魔法なんて使えなくとも、魔力が使えれば問題はない!」


 玄武は出雲を励まし、魔力と剣技で強くしてやると宣言をした。


「ありがとうございます! 俺は絶対に強くなる!」

「その意気だ!」


 玄武と出雲が笑顔で話していると、馬車の御者がそろそろ時間ですと二人に話しかけた。


「時間だな。行こう」

「分かりました」


 二人は馬車に乗り込んで皇都八雲を目指していく。霞の町を出てすぐに巨大な草原が出雲の目に入った。そこには多くの馬車や歩いている人々が見えた。


「凄い人がいる! こんなに世界は広かったんだね」

「村の外には広い世界が広がっている。良い人間も悪い人間も沢山な」

「そうなの?」

「ああ。むしろ悪い人間の方が多いくらいだ。だけど、俺達は悪い人間も時には守らなければならない」

「そんなのは嫌だな。悪い人間は守りたくない……」


 そう呟いた出雲に玄武が今は難しいことは考えなくていいよと言った。その言葉を聞いた出雲はありがとうと返答をした。


「そろそろ前方に都市が見えたか? あれが皇都八雲だ。この国の中心であり、この世界でも有数の活気ある都市だな」

「一生来れないと思ってた! ここが大和皇国の中心なんだ!」


 出雲の乗っている馬車がゆっくりと皇都八雲に近づくと、そこには笑いながら歩いている人々に露店で商売をする人や忙しなく動いている人々で溢れていた。


「これが皇都八雲……凄い凄い! 沢山物があって沢山人がいて、こんな都市がこの国にあったんて知らなかった!」

「もっと凄い都市もあるが、この国一番の都市はこの皇都八雲くらいだな! 俺の家はここの東側にあるからついてこい」

「はい!」


 二人は皇都八雲の入り口で馬車から降りると、町を見ながら玄武の家に向かうことにした。


「ここが大通りで、一番商店や人通りが多いところだな。ここの店の串カツは美味しいぞ。あ、左側のおっさんのパンは美味いから食べて損はないぞ」


 玄武が大通りの左側にあるパン屋を指差すと、そこの店主がもっと買ってけと玄武に向けて叫んだ。


「美味いならもっと買ってけよ! 十個も二十個も同じだろ!」

「今度買ってくよ! 待ってな!」


 二人がそう会話をしていると、出雲が楽しい町ですねと小さく笑っていた。玄武と共に町を歩き続けると、おじいちゃんと声を上げている出雲と同い年くらいの女の子がバケットに大根などを入れて立っていた。


「おじいちゃん!? 帰ってきたの!? 帰ってたら教えてよ!」

「ごめんごめん、ついさっき戻ったばかりなんだよ」

「そうなのー? あ、後ろにいる男の子はどうしたの?」


 玄武のことをおじいちゃんと言った女の子は、玄武の後ろに立っていた出雲のことが気になっているようである。


「この子は派遣先の村で救った男の子で、名前は黒羽出雲だ。これから一緒の家に住むからよろしく頼むぞ」

「一緒の家に住むの!? 突然過ぎだよ! 何も用意をしてないよ!」

「あ、始めまして。黒羽出雲です! よろしくお願いします!」


 女の子が色々と困惑をしている最中に出雲は自己紹介をした。そのために女の子がさらに動揺をしてしまった。


「急に自己紹介!? よ、よろしくね! 私は柊美愛よ、よろしくね」

「出雲と同い年だから、仲良くしてくれよな。三人で家に行こうか」


 玄武がそう言うと、出雲と美愛がうんと言って三人で移動をした。美愛は茶髪の髪をし、その長さは肩にかかるまでの長さである。美愛は目鼻立ちがハッキリしており、優しい印象を受ける顔をしている。また、二重の青色の瞳がとても綺麗であり、美愛の第一印象は綺麗な瞳だと言われている。


 美愛は大和皇国にある有数の名門校に通っている学生であり、現在は学校帰りのため、茶色の学校指定のブレザーの制服を着ていた。


「大通りを抜けると食料品以外の商店が店を構えている商店街に出るから、日用品や入用なものは買うといいさ」

「ありがとうございます!」


 玄武が町の説明をしていると、出雲は周囲を見渡すことにした町には城壁など存在せずに、草原からそのまま皇都八雲に入れるようになっている。町の中心には大和皇国の王が住む城が建設されている。そして、その城の右隣に国の防衛を担っている王国騎士団の騎士団庁舎が建設されている。


 その王城と騎士団庁舎を中心に国の運営をする各省庁も建設されていた。王城から見て北側と東側に住宅地が、南側に商店街や大通りが存在して皇都八雲で人気の地域となっている。そして、西側は飲食街となっており様々な店が店舗を構えている。


 出雲は説明を受けながら周囲を見つつ玄武と美愛の後ろを歩いて行く。商店街を抜けて二十分程経過をすると、二階建ての木造の一軒家が見えた。その一軒家は周囲にある家と変わりなく一般的な家と見える。


「ここが俺たちの家だ。結構立派だろう?」

「はい! もっと小さな家だと思ってました!」

「素直だなおい。まあお前の住んでた家も大きかったから、それほど窮屈な思いはしないんじゃないか?」

「ありがとうございます!」


 出雲がそう言うと、美愛がそんなに大きな家だったのと聞いてきた。


「両親と妹と四人暮らしだったから、少しだけ大きな家だっただけだよ。部屋は人数分あったから一人に一室あったかな」

「いいわね! 私の家も部屋は余っているから出雲の部屋を作れるはずよ」


 美愛がそう言うと、玄武が荷物を色々片付けないとなと言っていた。三人が部屋に入ろうとした時、一人の若い騎士団員の男性がやってきた。

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騎士団の不適格者と亡国の姫~消える光と希望の灯~ 天羽睦月 @abc2509228

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