騎士団の不適格者と亡国の姫~消える光と希望の灯~

天羽睦月

第1章 終わりの始まり

第1話 始まりのプロローグ

 大和皇国の外れにある小さな農村に一人の少年がいた。その少年はの耳にかかる長さの黒髪をしており、茶色いシャツと半ズボンを着ていた。その少年の名前は黒羽出雲といい、現在十歳であった。出雲は端正な顔立ちをし、優しさが溢れている顔をしている。出雲が住んでいる村は春風村と呼ばれており、農業を主体とている小規模な村である。


 出雲はその村にて、父親と母親に妹と共に静かに暮らしていた。妹の名前は優愛という名前であり、出雲より三歳年下の七歳である。優愛はいつも出雲の服を掴んで離れようとはしない少女であった。優愛は肩を少しだけ超す長さの黒髪をし、顔は二重の目元が可愛い目鼻立ちがハッキリしている可愛い顔をしている。


「お兄ちゃーん! こっちでイチゴが収穫が出来るよー」

「本当? 今行くねー」


 二階建ての木で造られている家の前を掃除をしていた出雲が、庭に植えているイチゴの収穫が出来るようで優愛が小走りで庭の端に植えていたイチゴの前に移動をし、出雲はゆっくり歩いて優愛の横に立った。


「本当だ! ちょうど収穫の時期だったんだね! 丁寧に取って洗って食べようね」

「うん! お父さんとお母さんも来るかなー?」

「二人は村の集まりに朝から行ってるから、もうすぐ帰ってくるんじゃないかな? もうすぐお昼の時間になるしね」


 優愛と話しながら出雲はイチゴを丁寧に収穫していく。優愛が持っていた木製のバスケットに一つずつ入れていく。庭に植えているイチゴを全て収穫すると、家に戻ろうと二人で歩幅を合わせて歩く。


「お父さんたち遅いなー。集まりってそんなに時間かかるのかな?」

「もう少しじゃないかな? お昼を用意して待ってよう」


 出雲がそう言った瞬間、血相を変えて父親と母親が家に向けて走ってきていた。その二人の姿を見た出雲と優愛は、焦っている二人を見て動揺をしていた。


「どどどど、どうしたの!? 二人とも慌てて何かあったの!?」

「お父さんたち何かあったの?」


 出雲と優愛が焦りながら走って二人の元にくる両親に驚いていた。両親は出雲と優愛の前で止まると、もうすぐ魔物の群れが村を襲いに来ると伝えた。


「村長からもうすぐ村に魔物の群れが襲ってくる! 国の騎士団が支援に来てくれるらしいが、間に合う保証はない!」

「だから今すぐ逃げましょう! 魔物の群れと反対側に逃げれば安全よ! 早く行きましょう!」


 父親が出雲を、母親が優愛の手を引きながら荷物も持たずに近場の森の中を走って行く。村から出て数分が経過すると、村の方面から爆発音や悲鳴が聞こえてきた。


「聞くな! 見るな! 俺達は前を見て逃げればいい! 他の人たちも逃げているはずだし、残っている衛兵の人が戦ってくれているだけだ!」

「そうよ! 私たちは村から離れて生き延びるの!」


 父親と母親が必ず生き残るのと出雲と優愛に話しかけながら走り続けていると、村がある方向から魔物の雄叫びが聞こえてきた。


「魔物の雄叫びが!?」

「後ろを見ちゃダメ! 走り続けて!」

「でも魔物の雄叫びが! 見て! 後ろから魔狼が来てる!」

「お兄ちゃん怖いよぉ!」


 優愛が怯えながら出雲に怖いと言っていると、出雲は俺が守るから大丈夫だよと息を切らせながら答えていた。四人は森の中を走っていると、川岸に出た。そこで四人がどの方向へ逃げようか戸惑っていると、背後に魔狼が迫っていた。


「出雲危ない!」


 父親が出雲を突き飛ばすと、出雲の場所に立った父親の首に魔狼が嚙みついた。


「逃げろみんな……」

「お父さーん!」

「逃げて! 逃げるのよ!」


 母親が父親に噛みついている魔狼に石を投げて注意を引き付けると、出雲が優愛の右手を掴もうとした瞬間、魔狼が雄叫びを上げて出雲と優愛に飛び掛かってきた。


「危ないわ! ダメ!」

「お母さん何してるの!?」


 出雲がやめてと叫ぶと、母親が出した左腕に魔狼が噛みついた。そのおかげで二人に怪我はなかったが、足を滑らせた優愛が川の水に腰まで浸かってしまい、流されそうになっていた。


「優愛! 手に捕まれ!」

「お兄ちゃん助けて! 流されちゃう!」

「待ってろ! 今行く!」


 出雲も川に入って、流されそうになる優愛の手を掴もうとしていた。だが、川の流れが速くなり、優愛の手を掴めなかった。優愛はそのまま川に流されてしまい、奥が滝のようになっているようでそのまま落下してしまった。


「優愛あああああ! あぁ……落下していった……優愛ぁ……」


 出雲が絶望をしながら川岸に移動をした。そして母親がいた方向を向くと、魔狼が母親を食い殺した瞬間であった。母親は涙を流しながら逃げてと小さな声で出雲に話しかけていたようである。


「お母さん……なんで……優愛も死んでお父さんとお母さんも死んで……こんな場所で俺も死ぬのか……」


 出雲は目を閉じて俺もすぐに行くよと小さな声で呟くと、近くで何かを切り裂く音が聞こえた。恐る恐る眼を開けてみると、目の前に大剣を持っている壮年の男性がいた。


 その男性は筋骨隆々の白髪混じりの黒髪であり、意思が強いと感じる目元が鋭い顔をしていた。その男性は出雲を見ると右手で出雲の左頬を強く叩いた。


「死のうとするな! 死んでも生き残る覚悟を持て! 俺は見てはいなかったがそこに倒れている人はお前の両親だろ? お前を生かすために命を懸けたんだ! なのに何の抵抗もせずに死のうとするな!」


 そう男性に言われた出雲は、生きる気力がないと泣きながら言葉を発した。


「優愛やお父さんにお母さんが死んでしまって……俺一人だけが生き残ってどうしろって言うんですか!」


 川岸の石など気にせずに地面で蹲って泣いていると、壮年の男性が膝を地面につけて出雲の肩に手を置いた。


「ならお前が守る剣となるんだ。もう誰一人悲しませないように、強くなって守り抜け!」

「俺が守り抜く……そうですよね……家族の想いを受け継いで、俺が守っていきます!」

「そうか。なら、俺のところにくるか? 俺が鍛えてやるよ!」

「お願いします! 俺を強くしてください!」


 お願いしますと頭を下げた出雲に、壮年の男性が覚悟をしておけよとニヤリと笑っていた。そして、壮年の男性は自身の名前を出雲に言おうとしていた。


「まだ自己紹介がまだだったな。俺の名前は柊玄武だ。大和皇国の騎士団員として働いているぞ」

「俺は黒羽出雲です。十歳です」

「まだ十歳か! これから伸びしろは沢山あるな! 俺の家にはお前と同じ年齢の孫がいるから、仲良くしてくれよ」

「はい! ありがとうございます!」


 玄武は出雲の両親の簡易的な墓を作ると、出雲と共に手を合わせた。出雲はその際に守ってくれてありがとうと心を中で何度も言い続けた。


「息子さんを預かります。立派な男に育てて守れる強さを見に付けさせます。どうか見守っていてください」

「お父さん、お母さん俺は優愛を守れなかったよ。だけど、俺はこれから強くなって悲しみの連鎖を断ち切る!」


 二人は墓に報告を終えると、行こうと言って歩き始めた玄武の後ろを付いていく。これから多くの苦難が降りかかるが、出雲は負けないと胸に希望を灯して歩き始めた。

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