欧州編・第1章「旅立ちの前夜」第1話

日が昇り始めた時間、政宗と彩芽は彦斎から受けた傷を抑えながら何とか蛤御門前の道に着く。

門前の道には多くの薩長親英派残党軍の兵士の死体が転がっていた。

その中を歩いていると一人の残党軍兵士の懐に女性の写真がある事に気付いた政宗は拾い上げ悲しむ。

「可哀想に、国を追われ再び日本の地を戻れたのに会えずに死ぬとは」

政宗の姿に彩芽が吐き捨てる。

「死んで当然よ、国に刃向かった逆賊に慈悲なんて必要ないわ」

彩芽の言葉に政宗は反論する。

「そんな事言うな!いくら逆賊とは言えこいつの様に大切な者がいる奴だっている。お前に分かるか?会えない辛さが?」

政宗の反論に彩芽はあざ笑う。

「はぁっ!そんな事、知りたくもないわ。会えなくなったのも自分の行いが原因、自業自得よ」

彩芽の態度に政宗は怒りを覚える。

「お前って奴は・・・!」

すると前で近藤達と話し合いをしていた歳三が政宗達に気付いて大声で呼ぶ。

「おーーーーい!政宗ーーーっ!彩芽ーーーっ!」

歳三の声で冷静になった政宗は彩芽との口論をやめて蛤御門に向かう。

二人は積み上げられた砂袋に座って手当てを受けながら近藤達に三条大橋での事を話し話す。

二人の話しを聞いた近藤は腕を組んで深刻になる。

「二人掛かりでも彦斎は互角に渡り合えた。昔に比べて彦斎は腕を上げたと言う事か?」

只三郎は折れた黒龍刀の小太刀を見て話す。

「余程の事では傷付かない黒龍刀が折れてしまうとは」

手当てを受けていた彩芽は心配そうに只三郎に聞く。

「父上、折れてしまった黒龍の小太刀は治りますか?」

只三郎は彩芽の問いに笑顔で答える。

「折れてはいるが、新しく作り直せば大丈夫だ」

それを聞いた彩芽はホッとする。

一方の政宗は彦斎の逃してしまった事を謝罪していた。

「すみません、奴を捕らえるどころか深傷を負わされ、挙句に逃してしまって」

近藤は笑顔で政宗を励ます。

「気にするな。いつでも勝負と言うのは必ず勝てる訳じゃないから」

近藤の後ろに居た歳三も政宗の左隣に座って笑顔で励ます。

「そんなしけた顔すんな、この俺でさえあいつとは何度も剣を交えたけど一回も勝った事は無いしな」

政宗は二人に励まされホッとする。

「ありがとうございます。近藤さん、父上」

すると今度は永倉が笑顔で政宗の右隣り座ってある事を話す。

「聞いてくれよ政宗君、総司の奴ときたら銃撃戦の中を一人で刀抜いて敵陣に突っ込んだんだよ」

その話しに政宗は驚き近藤の後ろに居た沖田に問う。

「ええ⁉︎沖田さん、それ本当ですか?」

沖田は照れ臭そうな表情で答える。

「う、うん。初めは三十年式騎兵銃を使って戦っていたけど、どうも僕は剣を交えて激しく戦いたくてつい」

沖田の答えに政宗は慌てる。

「駄目ですよ!そんな事をしちゃ!もし沖田さんに何かあったら父上達やミツさん達が大騒ぎしますよ!」

沖田は政宗の驚き様に困惑する。

「そんな!僕は新撰組の中でもかなり腕の立つ方だよ、心配する程じゃ」

すると歳三が立ち上がって沖田に言う。

「総司、政宗の言う通りだ。確かにお前は腕が立つが、あんな勝手な行動されて心配しない奴は何処にも居ない」

沖田の後ろに居た斎藤と島田も沖田に話し掛ける。

「俺もだよ沖田君。正直、今回は奇跡的に敵の銃弾を一発も受けなかったけど見ていて心配になったよ」

「本当だよ、俺もいきなり飛び出して行く姿に慌てて砲弾持ち上げて敵に投げつけようとしたよ」

近藤は振り向いて沖田を宥める。

「分かった総司、お前の周りにはお前を心配してくれている者達が大勢居るだ。その者達の気持ちを忘れないでくれ」

沖田は皆に言われて少し反省する。

「分かりました。今度から気を付けます」

その言葉に皆はホッとし政宗もホッとするが、突然、またあの違和感が起こり心の影が政宗に話し掛ける。

「いい子ぶっちゃって、本当は興奮したんだろ沖田が一人で敵を薙ぎ払う姿を想像して」

政宗は影の言葉に怒る。

(誰が興奮するか!俺は純粋に沖田さんを心配して・・・)

影は政宗の話しを遮り語りだす。

「違う違う、お前は沖田が無数の銃弾を受けて血塗れになり痛みに耐えながら戦い、負傷したあいつの姿を見たかったんだろ。激しい戦いだっと想像出来るからな」

影の勝手な気持ちの解釈に政宗は激しく怒る。

(黙れ!それじゃまるで俺が戦いを好む血塗れら戦人じゃないか!俺は断じて戦い何て望んでいない!)

政宗の反論に影は指摘する。

「じゃなんで剣を置かない?お前の夢は剣が無くても別な方法で実現出来る筈だ。それなのに何で今でも剣を使って戦い続ける?」

影の指摘に政宗は言葉が出ない。

(そ、それは・・・)

影は嘲笑いながら答える。

「簡単さ、お前は戦いに快楽を感じているからさ。人を斬る快感、極限状況での命のやり取り、自分で気付いていなくても体や心は常に戦いを望んでいるんだ」

影の答えに政宗は激しく動揺して否定する。

(ち、違う!俺は断じて戦いを常に望んでなど!)

すると影は嘲笑いながら段々と消えて行く。

「今は別に自分の本当の気持ちを認めなくていいさ。でもいずれお前は自分の本当の気持ちを認めなくてはならない時が来るさ」

そう言うと影は闇と消え胸の違和感も消えた。

政宗の深刻そうな表情に永倉が小声で話し掛ける。

「おい、政宗。その表情はもしかして北廉氏に言っていた影が?」

政宗は小さく頷く。

「ええ、実は此処に来る前もありまして」

永倉は勢い良く立ち上がる。

「やっぱり、この前の事、近藤さん達に話した方が」

そう言うと永倉は近藤達の元に向かおうとしたが、政宗に右腕を掴まれ止められる。

「やめて下さい。これは自分の問題ですから」

永倉は振り向いてしゃがみ政宗を説得する。

「でも!お前が苦しむ所は見たくねぇ!近藤さん達に相談するれば何か糸口が見つかるはずだ」

政宗は首を横に振って近藤達への相談を断る。

「もし相談すれば父上達は俺を戦線から離脱させるかもしれない。それだけはどうしても耐え切れないんです。ごめんなさい、俺こう見えて頑固な所があってそれに・・・」

「それに?」

政宗は一瞬、歳三を見て答える。

「余り父上達を心配させたくないので」

政宗の訴える目と振り向いて近藤達を一瞬、見た永倉は折れてため息を吐く。

「はぁーーーーっ分かった、その代わり何かあったら俺に遠慮無く相談しろ、いいな?」

政宗は頷く。

「はい、分かりました」

それから数時間後、八木邸の一室では寝間着姿の政宗が布団の上で胡座で座り本を読んでいた。

すると静かに斎藤が襖を開けて入って来る。

「政宗君、傷の具合はどうだ?」

政宗は笑顔で答える。

「もう大丈夫です。ミツさんから貰った塗り薬のお陰で良くなりました」

政宗の様子に斎藤も笑顔になる。

「それは良かった、とこで何を読んでいるんだ?」

政宗は読んでいた本を斎藤に見せる。

「父上が各国の軍学を元に作った新撰組流軍学書です」

斎藤は納得した表情で軽く頷く。

「ああ、それか。でも何で今更そんな書物を?」

政宗は照れ臭く斎藤の問いに答える。

「本当は枕草子とか読もうとしたんですけで、明日には江戸に戻るから本も何もかも荷造りされちゃって、丁度まだ荷造りされてなかったこれを暇潰しに読んでいたんです」

斎藤は政宗の答えに納得する。

「それでか、でもその書物を見るとあの騒動を思い出すな」

「あの騒動とは?」

「ほら、西本願寺からの苦情を聞いたトシさんが野砲で本願寺を砲撃しようとした、あれ」

政宗は斎藤の説明で思い出し、笑顔になる。

「ああ、あの騒動か。いやぁーーーーっあれは本当に俺を含めて皆んなが慌てましたね」

斎藤はクスクスと笑う。

「ああ、あの時の近藤さんの表情なんか初めて見たよ」

「ええ、近藤さんのあの表情は本当に肝を潰してましたから」

政宗は歳三が起こした大騒動の記憶に浸る。

時は幕英戦争が終結して間もない頃の京都、新撰組は第三の屯所としていた不動堂村でボロボロになった組織の再建に取り組んでいた。

そんなある日の昼時、中庭で政宗と沖田はボロボロになった誠の旗を見ていた。

政宗は少し悲しげな笑顔で沖田に話す。

「この誠の旗、池田屋以降もこんなになるまで使いましたね。新しくなるとは言え何か寂しいです」

沖田も政宗の気持ちに共感する様に頷く。

「ああ、僕もだよ。こいつは新撰組と名乗りを挙げた時にトシさんが髙島屋に特注で作ってくれた物だからね」

政宗と沖田は竹棒から旗を外して丁寧に折り畳む。そして政宗は草履を脱いで屋敷に上がる。

「じゃ沖田さん、俺は新しい旗を持って来ますんで」

沖田は折り畳んだ旗を持ちながら笑顔で頷く。

「うん。じゃ頼むよ」

政宗は旗を取りに奥に向かう途中で歳三が胡座で机や周りに多くの書物に囲まれ何かを書いていた。

政宗は気になり静かに歳三の後ろから声を掛ける。

「父上、何をしているんですか?」

突然の政宗の声に歳三は驚く。

「のわぁ‼︎てっ政宗、いきなり声掛けんじゃねぇ!びっくりしたじゃねぇか!」

政宗は苦笑いで謝る。

「すみません、父上。でも本当に何をしているんですか?」

歳三は振り向いて机の上に開いた書物を手に取り政宗に見せる。

「これはな俺が様々な異国の軍学書を参考に作っている新しい軍学書だ」

政宗は関心して手に取り中を見る。

「へぇーーーーっ父上が独学で、でも何で今になってそんな作るんですか?」

政宗の問いに歳三は誇らしげに答える。

「俺達は今や幕英戦争の英雄だ。英雄が国の為に何かに取り組む姿を見れば人々は自然と見様見真似でやる。日本の近代化の為にも俺達が手本とならないとな」

政宗は歳三の答えに納得する。

「成る程、それで新撰組が新たな軍学書を作ったとなれば人々は我々を見習い積極的に近代文明を取り入れると?」

「そうだ。まさに日本意識の近代化さ!」

政宗は再び納得するが、沖田との約束を思い出しハッとする。

「あ!いけない!新しい旗を持って来ないと」

政宗は歳三に向かって軽く一礼する。

「では父上、俺はこれで」

歳三も笑顔になって軽く頷く。

「ああ、完成したら皆に見せるからな」

政宗は小走りで新しい旗がある奥へと向かう。

それから三日後、政宗達は歳三の名で全員、大広間に呼ばれていた。

政宗を含めて全員がソワソワし、政宗の右側に座っていた組員が彼に向かって怯えながら小声で話し掛ける。

「政宗組長、俺達、何か副長の事を怒らせる様な事をしましたっけ?」

政宗は落ち着いた口調で組員に話す。

「大丈夫さ、もし誰か副長を怒らす事をしたら個別で呼ばれるはずだから。だから落ち着け」

政宗は言いながら組員の右肩を優しく撫でて落ち着かせる。

すると目の前に歳三がニコニコしながら現れ、皆の前に立つと大声で喋る。

「皆!突然、招集をかけてすまなかった。でもこれを見てくれ!ついに完成したぞ!」

歳三が右手に持っていた書物を高々と上げて皆に見せる。

先頭に座っていた近藤が歳三に質問する。

「トシ、それは何だ?」

歳三はイキイキと近藤の質問に答える。

「これは一ヶ月掛けて俺が様々な異国の軍学書を元に作った近代の軍学書だ」

「そんな物を作って意味があるのかトシ?」

近藤の言葉に歳三が厳しい表情をする。

「かっちゃん!幕英戦争を忘れたのか!俺達、幕府連合軍は今だに刀での接近戦で多くの犠牲を出した。だから俺達は他国を見習って新たな戦術を学ぶ。これ以上、犠牲を出さない為にも!」

歳三の強い思いが込められた言葉に聞いていた組員達は震え上がった。そして歳三は落ち着いて話の続きをする。

「いいか、皆!明日にでも俺達の戦術や訓練は変わる。より一層の厳しい訓練になるから皆はこれを読んで明日に備えるんだ、いいな!」

喝の入った歳三の言葉に政宗を含めて全員が真剣な表情で頷き返事をする。

「はい!副長!」

そして翌日の早朝、元第二屯所だった西本願寺に新撰組が集まり近代軍事の訓練準備が始まっていた。

西本願寺の大庭に様々な物が運び込まれていた。

装備を着けた政宗は積み上げられた長方形の極秘と書かれた木箱を気になって開ける。中には軍用小銃が入っており、政宗は一丁を手に取る。

「村田銃か、いやっこれは・・・!」

政宗は何かに気付いて素早いボルトを動かし、中の底を親指で押す。

「今、軍で使っている村田単発式小銃じゃない!装弾口の底に空間がある!」

さらに政宗は素早い手捌きでボルトを分解する。

「やっぱりだ!村田と違ってバネが松葉バネじゃなくて弦巻バネだ!」

政宗が新型の軍用小銃に気を取られていると目の前に歳三が近寄り話し掛ける。

「そんなにその小銃を気に入ったか政宗、いいだろそれ」

政宗はハッとなってボルトを元に戻して立ち上がる。

「父上!すみません、勝手に小銃をいじってしまって!」

歳三は右手を政宗の左肩に手を置いて笑顔で話す。

「別にいいさ、それは長州藩出身の陸軍軍人、有坂 成章が設計して先行で開発した新型の三十年式歩兵銃だ」

「噂には聞いていましたが、なんで我々にこの新型が?」

「まぁしいて言えば新型小銃の試験運用て形で俺達に先行で配給された訳さ」

政宗は歳三の説明で納得する。

「成る程、じゃここに運ばれた木箱って新型の兵器って事ですか?」

「殆どな、んじゃ政宗、その小銃を戻してさっさと隊に行け」

「はい、父上」

政宗は三十年式歩兵銃を木箱に戻して駆け足で十一番隊に向かう。

そして日が登り出した頃に新撰組は訓練を開始した。

三十一年式野砲が空砲を放ち、組員達は積み上げた砂袋から的に向かって新型の銃火器で狙撃する。

政宗は三十年式歩兵銃を使って的を狙撃して、その性能に関心していた。

「いやぁーーーっこの三十年式は実包が五発入れれるから村田単発小銃に比べて装填が楽だ」

すると左隣で十一年式軽機関銃を撃とうとしていた組員が引き金を引くといきなり十一年式が爆破した。

射撃手と周りに居た組員が巻き込まれ、政宗は駆け寄って負傷した射撃手を抱き上げる。

「おい!大丈夫か?おーーーい、誰から来てくれーーーーっ!」

政宗の呼び声に後方に居た組員数名が駆け寄り急いで負傷した組員を後方の医療区に運ぶ。

後方で床几に座って訓練を見ていた近藤が右側に居た歳三に話し掛ける。

「おい、トシ、十一年式軽機関銃の事故はこれで何回目だ?」

歳三はため息を吐いて答える。

「十回目だ。たく有坂の奴、とんでもねぇ欠陥兵器を作りやがって」

近藤は歳三にある提案をする。

「あんなの使っていたら危険だ。すぐに十一年式の使用を禁止した方がいいな」

歳三は近藤の提案に賛成する。

「ああ、後で報告書と一緒に改修提案も送ろう」

すると寺の奥から一人、住職の老僧が現れ近藤に話し掛ける。

「あのーーーっ近藤さん、申し訳ありませんが、今すぐこんな事はやめて下さい。此処は神聖な場所なので」

近藤は立ち上がって深々と頭を下げる。

「申し訳ありません、後少しで終わりますので」

すると近藤の姿にイラッとした歳三が老僧に話し掛ける。

「おい、ジジィ。文句言うんじゃねぇーよ。少しの間だけ我慢出来ねーのか?」

老僧はきつい口調で歳三に話す。

「我が西本願寺は武力とは無縁な場所、今日は幕府からの命で仕方ないとは言えお前達は武士の風上にも置けない野蛮な疫病神じゃ。どれだけこの西本願寺を汚せば気が済む」

歳三は老僧の言葉に完全に堪忍袋を切れた。

「ほぉーーーーーっ言ってくれるじゃねぇか、クソジジィ」

すると歳三はその場をさると近藤を含めて皆が驚く。

政宗は別な場所で銃剣を付けた三十年式歩兵銃を槍の様に巧みに扱い近接戦闘の訓練をしていた。

政宗は的となっていた草鞋を巻いた棒を倒し、一人の組員が政宗に近づく。

「凄いですね、政宗さん」

だが政宗は三十年式の銃身を見る姿に組員は問い掛ける。

「どうかしたんですか?」

政宗は組員の問いに答える。

「ああ、この三十年式の銃身が長過ぎるんだよ」

「長いのは当たり前でしょ、小銃なんですから」

政宗は首を横に振る。

「俺達の戦は殆ど狭い所だ。こんな長い小銃じゃ扱いづらいだろ」

政宗の答えに組員は納得する。すると青ざめた表情をした組員が慌てて政宗の元に現れる。

「ま・・政宗組長ーーーーーっ‼︎大変です!」

振り向いた政宗は現れた組員を宥める。

「落ち着け何があった?」

組員は息切れをしながら答える。

「はぁはぁ、じ・・・実は、副長が・・・」

組員が後ろを指差し政宗はその方向を見ると驚き、駆け足で向かう。

そこには暴れる歳三を近藤達が必死に抑えていた。しかも歳三の前には三八三十一年式野砲を西本願寺に向けていた。

政宗も慌てて歳三の両脇を抑えている斎藤に聞く。

「どうしたんですか?斎藤さん!一体父上に何が?」

歳三を抑えている斎藤が何とか政宗の問いに答える。

「実はさっき、住職から苦情があってそれに近藤さんが謝罪したんだけど、それがトシさんが気に食わなくて怒って野砲で本願寺を吹っ飛ばそうとして」

政宗は野砲を向いている方を見ると腰が抜けて物凄く怯えた住職の姿があった。

政宗は歳三の方を向いて必死に説得する。

「父上!落ち着いて下さい!こんな事したら幕府が黙っていませんよ!」

しかし、歳三は耳を貸さず皆を振り切ろうとしていた。

「そんな事知るか!かっちゃんは何も悪くねぇのにあのクソジジィは!」

脇を抑えている近藤も肝を潰した様な表情で歳三を説得する。

「トシ、やめろ!お前が俺の為と思っているが、こんな事は俺は望んでいない!」

さらに右腕を抑えていた沖田も必死に説得する。

「トシさん頭を冷やして!西本願寺どころか裏の民家まで吹っ飛ばしますよ!」

同じ様に左腕を抑えている永倉も必死に説得する。

「落ち着いてトシさん!冷静に!冷静にーーーっ!」

政宗も必死に何度も何度も説得する。

「父上!やめて!ことが大事になりますよ!最悪、打首になりますよ!」

周りからの説得に歳三は見向きも聞く耳もしない。

「うるせえ!あいつごと本願寺を吹っ飛ばさないと気が済まねぇーーーーーーーっ!」

そして現在に戻って歳三の起こした事件を振り返っていた政宗と斎藤が何故か大笑いしていた。そして斎藤はその時の近藤を話し始める。

「とでもない状況だったけど、あの時の近藤さんは本当に肝を潰してたなぁ」

政宗も笑いながら答える。

「ええ、俺も生まれて初めてですよ。あの時の近藤さんの表情は」

すると邸の奥から組員が大声で斎藤を呼ぶ声がする。

「斎藤組長ーーーーーっ何処ですかーーーーっ?」

斎藤は後ろを振り向き立ち上がり、襖を開ける。

「おっと誰から呼んでいるな」

斎藤は政宗の方を向いて別れを言う。

「じゃ政宗君、俺は失礼するよ」

政宗は笑顔で斎藤を見送る。

「はい。お見舞いありがとうございます、斎藤さん」

「それじゃ、また」

斎藤はそう言うと静かに襖を静かに閉めて部屋を後にする。

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真撰組 〜白龍剣士伝〜 IZMIN @IZMIN

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