第14話
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三条大橋では政宗、彩芽、彦斎が橋の上で激しいチャンバラを繰り広げていた。政宗と彩芽は犬猿の仲ではあるが、息の合った連携で彦斎に応戦する。
一方の彦斎は二対一の状況でも斬撃と体術を繰り出しながら二人の攻撃に対応している。
体を激しく動く事で風を切る音が鳴り、肉体と肉体がぶつかり合う音、刀同士がぶつかって金属音を鳴らしながら火の粉を散らす、三人のチャンバラは殺伐とした凄まじさと何処か美しさを窺える物であった。
政宗が下から上へ斬り上げたが、彦斎はすかさずその斬撃を防ぐ。そしてその隙に彩芽が彦斎の腹部に回し蹴りを喰らわす。彦斎は腹を抑えながら大きく後ろに下がる。政宗と彩芽、彦斎もお互いに汗が滝の様に流れ息切れをしていた。
「はぁはぁはぁ、彦斎・・・はぁ、前より腕を上げたな」
政宗は笑顔で彦斎の剣の腕を褒め、彦斎も政宗の褒め言葉に素直に喜ぶ。
「ありがとよ政宗・・・はぁはぁはぁ、でも腕だけじゃない、この刀のお陰でもある」
彩芽が彦斎の持つ刀を唐突に問う。
「彦斎、はぁはぁ、その刀っ相当な大業物ね。はぁはぁ、何処で手に入れたの?」
彦斎は自分の刀を二人の前に突き出して答える。
「こいつの名は蛇龍刀、元々は罪人の打ち首刀として使われていた村正の名刀さ」
政宗が彦斎の刀に驚く。
「村正⁉︎あの妖刀の⁉︎」
「そうさ。しかもこいつは本物の妖刀でな、こいつを持った奴らは不幸な死を迎えたとか」
そう言うと彦斎は上段の構えして勢いよく間合いを詰め再び激しくチャンバラが始まった。今までは政宗と彩芽がを追い込んでいたが、今度は彦斎に追い込まれる。彦斎の動きは変わり今までは暗殺者の様な素早く鮮やかな動きであったが、今はまるで獣の様な荒々しくも確実に相手の急所を狙う動きになっていた。
政宗と彩芽はお互いにカバーをしているが、彦斎の攻撃の手は緩まず反撃をしようにも彦斎の荒々しい動きで反撃出来ずにいる。だが政宗は上からの斬撃を防いでその隙に彩芽が小太刀で突くが、河上は後方にジャンプして間合いを作る。
「さてとそろそろ飽きてきたし勝負を着けるか」
彦斎は刀を鞘にしまい抜刀術の構えをする。政宗と彩芽も同じ様に刀を鞘にしまい抜刀術の構えをする。そして政宗は小声で彩芽に指示をする。
「彩芽、お前は斬撃を飛ばせ。その隙に俺があいつの懐に飛び込む」
政宗の指示に彩芽は否定する。
「いやよ。あんたの指図は受けないは」
政宗はため息を吐く。お互いに睨み合い微動だにせず集中する。京都御苑では激しく戦闘が行われていたが、政宗達の集中力は凄まじく周りの雑音が聞こえない程で彼らの周りだけ静寂の空間が生まれていた。
心臓の音、呼吸の音、筋肉が締まる音しかなかった。そして政宗の鞘を握っていた左手の汗が滴となって落ちて橋板で弾けた瞬間、政宗と彩芽は勢いよく彦斎との間合いを詰める。そして政宗と彩芽が大声で秘剣名を叫ぶ。
「理心流奥義!飛龍剣‼︎」
「二天一流奥義!鬼門‼︎」
二人は互いに秘剣の抜刀術を彦斎に繰り出す。
一方の彦斎は素早い動きで自己流の抜刀術を繰り出す。力強く振るった刀はぶつかり合い凄まじい金属音が響く。
彦斎も通り越した政宗と彩芽は抜刀術を繰り出した横払いの状態となっていた。
政宗の白龍刀にはヒビが入り、彦斎の蛇龍刀は刃が少し欠け、彩芽の黒龍刀は小太刀が完全に折れてしまう。
お互いに向かい合う様に振り向くと政宗は左腹部を彩芽は右腕、彦斎は胸の生地が切れてそこから血が滲み、お互いに受けた傷口を手で抑える。
彦斎は何故か笑顔になる。
「流石に腕は落ちてねぇな」
彦斎はそう言うと右に向かって走って三条大橋を飛び降り、闇の中に消えた。政宗と彩芽も走って彦斎の飛び降りた方から身を乗り出す。
「彦斎ーーーーーーっ‼︎」
政宗が闇に向かって大声で叫ぶ、すると彦斎の声が返ってくる。
「今日はひとまずこの辺で失礼する。それと俺を助けた組織の名を教えてやる、黒の円卓騎士団。この次はパリで同じ事が起こるぜ、んじゃあばよ」
彦斎はそう言い残すと彼の気配は完全に消え失せた。
少し時間が経ち山奥の上から黒いフウドを被った者が双眼鏡で三条大橋の様子を見ていた。
するとそこに彦斎が刀を納めた姿で現れ、フウドの者に話し掛ける。
「どうだった?あいつは面白いだろ?」
フウドの者は右手でフウドを下ろす。男性で女性の様な長い白髪と六十歳後半の様な老けた姿をしていた。老人は笑顔で河上に話す。
「ああ、お前の言う通り政宗は面白い奴だ。そして私と同じ匂いがする」
老人は双眼鏡をしまって後ろを向いて去ろうとする。河上は去る老人に話し掛ける。
「あんたの計画を聞かされた時は狂っていると思ったよ」
老人は立ち止まり彦斎に問う。
「どうした今更、怖気ついたか?ヒラクチと恐れられたお前が?」
老人の問いに彦斎の顔を横に振る。
「いいや、別に怖気ついた訳じゃない。ただあんたは自分を真面なのかって?」
老人は彦斎の指摘を鼻で笑う。
「私は自分を真面だとも狂っているとも思っていない。ただ一つ、狂っているのは我々だけでなくこの世界自体が初めから狂っているのだよ」
彦斎は老人の答えにある程度、納得する。
「そっか、それと俺は未だにあんたが信じられない」
「私の何が信じられない?」
「全てさ。あんたがあの伝説の騎士王、アーサー・・・アルトリア・ペンドラゴンである事が」
アルトリアは振り向き大声で笑う。
「ンハッハッハッハッハッ、そんな事か?たわいのない疑問だな」
河上はアルトリアの態度に一瞬、イラッと来る。
「はっ?どう言う事だそれ?」
アルトリアは笑顔で彦斎に説明する。
「何が真実で何が虚偽なのかは自分で決める事、お前が私に仕えるのは自分で私を本物、真実だと信じているから、違うか?」
河上はアルトリアの言い分に納得して笑顔になる。
「ハッその通りだ。何を信じているか決めるのは他でもない自分自身だ。たわいのない疑問だな」
アルトリアは再び振り向き歩き始める。
「行くぞ、我々の理想は始まったばかりだ」
彦斎はアルトリアの後に続く。
時は戻って三条大橋、政宗と彩芽は振り返り橋の手すりに身を預けて静かに腰を下ろし安堵しつつ政宗は彩芽に話し掛ける。
「なぁ彩芽、あいつが言っていた事」
「ええ、黒の円卓騎士団、それとパリで同じ事ってまさか」
「どうやら俺達の敵はとんでもない奴なのは確かだ。今回の一件も偶然じゃない」
「どうして分かるの?」
「何となくね」
彩芽はゆっくりと立ち上がり、政宗は右手を差し出す。
「彩芽、悪いが肩を貸してくれ。思った以上に受けた傷が痛え」
「嫌よ、自分で何とかしなさい」
「相変わらず冷てーーな」
そんな彩芽でも笑みを溢し政宗の右手を左手で掴み彼を起こし肩車してゆっくりと京都御苑に向かう。
その道中で政宗は自分の心臓の鼓動が急に速くなり、あの不可解な気持ちが突然と起こる。すると今度は横浜での時と同じ何処からか影の声がして来る。
「何だよ政宗、あのまま追いかければ良かったのにそうすれば面白かったのに」
政宗は勘付き声に出さず反論する。
(黙れ!お前が何であれ俺は必ずお前を消してやる!)
政宗の決意に影は大笑する。
「あはははははははははっ!俺を消すだって?無理だね。俺達は表裏一体、どちらかを消すなんて不可能なんだよ」
影の言葉に政宗は怒る。
(黙れ!黙れ!お前が何て言おうと俺は必ずやり遂げる!だから今は俺の前から消えろ!)
影は嘲笑いながら徐々に消えていく。
「いいぜ、今は大人しくしててやる。でも忘れるな、お前が戦えば戦う程にお前は俺に苦しむ事になるぜ」
政宗は沸き起こってきていた影を何とか追い払い、そして左手で傷口を抑えながら今は彩芽も同じで前を向いて大きな戦いと自分の過酷な運命が待ち受けている事を強く固く決意する。
-次回・欧州編につづく-
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