第34話最終回 極炎の魔術師
アルフは笑う。
とても楽しそうに。
「はは、そもそもね。僕に炎で勝負してくるなら、こいつじゃ力不足だ」
そう言って、楽しそうに笑うアルフの傍に、それはいた。
「ピィイイイイイイイイイイイ!!」
とても高い鳴き声と共に。
「なん、だ、あれは?」
黒炎は目を見開いてそれを見る。
“炎が舞う”
そう表現されることがある。
だが、それは文字通り舞っていた。
「・・・不死、鳥? ・・・」
メリアが信じられないといった顔でぽつりと呟く。
伝説は唄う。
それは天上では眩い程に光り輝き、地獄では灰の中より煉獄の業火と共に蘇る。
現存が確認されているドラゴンよりも遥かに希少。
伝承の中でしか存在しないと唄われた不死鳥は、ただ一度五百年前、東西魔術大戦時に確認されている。
極炎の魔術師。
アルフレートの隣にいたと。
不死鳥はアルフの傍を一周すると、ふわっとアルフの肩に止まる。
燃えているにも拘らず、アルフの肩に火は移っていない。
『お帰りなさいませ主様。この時を心よりお待ちしておりました』
「喋った、だと・・・」
ぐらりと、黒炎の身体が揺れた。
「久しぶりフェニー。長く待たせたね」
『私は不死鳥。貴方が私を呼ぶまで何時までも待ちましょう』
メリアは自分の中の魔術観がガラガラと壊れていく気持ちになった。
「不死鳥を召喚? いえ、あれは違う。魔術の中に仮想人格を、命を、植え付けた?」
そんな馬鹿な。
そんな魔術があり得るのか?
不死鳥は明確な意思を持ち、記憶を宿している。
そしてこの魔術は召喚ではない。
にも拘らず、一度創り上げてしまえば、解除してもその人格を留めた状態で再度現れる。
永遠に消えない、魔術。
「な、なんだそれはぁーーーーーーー!!」
絶叫と共に黒炎が炎を投げつけた。
不死鳥は、ふいっとそちらを見つめ優雅に飛ぶ。
不死鳥と炎が衝突。
しかし、爆発も起こらず不死鳥は消えることもなく、黒炎の炎のみが消えた。
「・・・なっ」
茫然と黒炎は棒立ちになる。
現実を受け入れられない。
何が起こった?
「フェニー、それはいい。先に彼女達を」
『了解しました』
再び優雅に宙を飛び、メリアとリゼの頭上を周る。
その度に、火の粉が二人に降り注いだ。
「ひ、ひゃっ」
「も、燃えないのかな?」
おっかなびっくりといった様子でそれを見つめていたのだが、火の粉が体に付着する度に、
「え、嘘」
「傷が、治っていく?」
吹き飛ばされた時に受けた傷が、みるみる癒えていく。
「な、なんで?」
理解が追い付かず、二人は混乱する。
「知らない? 不死鳥は傷を癒すんだ」
二人にアルフは事も無げに笑うが、メリアとリゼはますます混乱する。
炎の属性に、癒しの力を与えた?
一つの魔術に別の魔術を同居させ、それを使い分けるなど聞いたことがない。
「ありうるの? こんな奇跡が」
知らず、メリアは涙を流していた。
「ふ、ふざけんじゃねーーーーーー!!」
黒炎が叫ぶ。
認めない。
こんな魔術は認められない!!
本来であれば、こんな驚天動地の魔術はポンと生まれるものではない。
長い年月をかけて段階的に研究に研究を重ね、少しづつ周りから認知され、要約実る魔術の極致なのだ。
何百年も先を行く発想。
それを実現させる技術。
これでは、これではまるで、
「・・・アルフ、レート」
メリアがそう言って震えている横で、リゼも混乱していた。
先程からメリアはアルフとアルフレートを結び付けようとしていた。
流石にそれはアルフレートフリークであるメリアの過剰反応と思っていたが、今は笑えない。
間違いなくこの少年の魔術は現代魔術の価値観を破壊している。
「お、俺は“黒炎”だぞ! 炎の魔術に関しては俺の右に出る奴なんていやしねぇんだ!!」
「お前がこの時代、最強の炎使いというならば、見せてみろ。その頂、“極”を」
「き、“極”だと?」
八属性のうち、火、水、風、土、雷、闇、光。
雷、闇、光の上位三属性は難易度が高いものの、使い手は数多いる。
しかし、最後の極。
魔術を極めた者のみが到達する至高の属性。
それに至った者は歴史上、わずか数人。
それこそが、アルフレートが“極炎の魔術師”と言われる所以。
因みに、極へと至る者の魔術は魔法であると言われている。
魔法の〝法〟とは即ち世界の摂理である。
魔術を極め、己が意を持って世界に干渉、理を敷く。
それが極属性。
魔術師の基本理念であり、目指すべき最終終着点。
「そ、そんなもん。伝説だ。アルフレートだって本当に使えたのかどうか・・・」
「伝説? この時代では極属性は伝説なのか? それは残念だね」
「有り得ねぇ。極なんて、魔法なんてあるわけが」
「なら見ろ。これが魔術が行き付く一つの可能性だ」
『主様』
二人が話しているうちに、いつの間にかフェニーと呼ばれる不死鳥は再びアルフの肩に止まる。
『次は?』
「ああ、焼け」
『了解いたしました。
フェニーは黒炎に向かって飛ぶ。
黒炎は恐怖で顔を引きつらせた。
「う、うおおおおおおお!!」
炎を放る。
それこそ、現代魔術の中では最上級のものまで。
それが効かない。
どれもまるで通じない。
「くそ、くそ、俺が炎だけしか使えないと思うな!!」
黒炎が両手から生み出したのは渦巻く水だ。
「へえ、水で洗い流そうっていうのか」
ヒヒヒヒと、黒炎は笑う。
螺旋の水がフェニーに命中。
だが、
「消えた、だと?」
水が飲まれた様に消えた。
水蒸気すら発生せずに、水はフェニーに吸い込まれるが如く消えていった。
「ば、かな・・・」
焼かれた。
炎も。
水も。
あの不死鳥に触れたその瞬間に。
『その程度のぬるい魔術で、主様に歯向かおうなど五百年は早い』
フェニーの尾びれが鞭の如く伸び、黒炎に巻き付いた。
「あ、が、ぎゃあああーーーー!!」
絶叫と共に、黒炎は炎に飲まれる。
「ああ、生焼けでいいよフェニー」
フェニーは黒炎を開放する。
ボロボロになりながらも息をしていた。
ぶすぶすと音をさせながら、ごろんと転がる。
「ありがとうフェニー」
『またいつでもお呼びください』
フェニーが大きく燃え上がり、灰となって消えていった。
*********
エピローグ
「流石に“黒炎”と呼ばれるだけはある。大した耐性だね」
「なに、が、生焼けだ。俺じゃなけりゃ、死んでるぞ」
「ま、僕の自慢の魔術、魔法を見せたんだ。見物料さ」
「ま、ほう。本当にあれが、魔法なのか」
「お前なんかに見せるつもりはなかったんだけど、流石と言っておくよ」
「クソが。とっとと殺せ」
「お前に死なれると困る。依頼主は誰だ?」
僕がそう聞くと、黒炎は楽しそうに笑う。
ちょっと狂気が入ってるな。
「かはは、やったぜ。お前に一泡吹かせることが出来るぜ」
「・・・何?」
「俺が、されるがままでいてたまるかよぉ!!」
ゴォ!!
「うぉっ!?」
黒炎は自らを焼いた。
自分自身に炎の魔術をぶち当てて。
「きゃははははは!! じゃあな化け物。地獄で待ってるぜ!!」
もう生焼けじゃ済まないな。
ゴウゴウと燃えながら、黒炎は死ぬまで笑い続けた。
ふぅ。
これで手掛かりなし。
プロがそうそう口を割るとも思えなかったけど、これで足取りが途絶えた。
森での狼型モンスター。
それにプロの殺し屋。
心当たりはただ一つ。
クラウス。
アイツの恨みなど、言ってみれば只の子供の駄々っ子の延長。
メンツを潰されたからってここまでやるか。
「まったく、こっちは只の学生だよ?」
「・・・アルフ」
おっと、こっちがまだだったね。
振り返るとおどおどとしているメリアとリゼがいた。
さてと、困った。
「えーと、ほら、僕って天然だから」
二人はじっと僕を見ている。
僕の言葉をまるで信じていない。
天然が、通用しない、だと!?
無敵ではないのか天然は。
「はぁ、ま、いいや。元々言うつもりでいたんだし」
とりあえず、にへらと笑って見せる。
「アルフ、レート様、なんですか?」
メリアがフルフルと唇を震わせながら僕に問う。
さて、どう言おうか?
うーん。
うーーん。
んーーーー。
「はい、僕がアルフレートの生まれ変わりなのでした。お終い!」
僕はパンと手を叩いた。
「早!」
「軽!」
「じゃあ夕飯食べに戻ろうよ。もう冷めちゃってると思うけど」
「「ちょおっと待ったぁーーーー!!」」
「待ちません。説明責任は果たしました」
「してないでしょうがーー!!」
メリアは歩いて行こうとする僕の前に回り込み、僕の手を掴んだ。
「本当にアルフレート様、なんですよね?」
「そんなことってあるの・・・?」
「んー、本当に追加情報ってあまりないんだよ?」
僕はざっくりと説明した。
輪廻転生に魔術で干渉し、記憶を保持したまま生まれ変わった事。
しかし、赤ん坊の時の事件で記憶を失い、記憶が戻ったのは最近で、今の人格が主人格であり、別にお爺ちゃんが演技をしているわけではないということ。
この秘密を知っているのは今のところはメリアとリゼ、母さんだけだということ。
本当に追加情報少ないね。
「とまあ、こんな感じでいるわけで、秘密にしておいてね。下手すると一緒に監獄だよ」
「まあ、それは勿論だよ。私もこの歳で固いパンばかり食べたくない」
リゼはそう言ってコクコクと頷いた。
「で、でも、アルフレート様が生まれ変わったなら、魔術界はもっと活性化して」
「あー、それ止めてよ。“様”なんて呼ばれたくないしさ」
「え、でも・・・」
メリアが何かを言おうとすると、リゼがメリアの肩を掴む。
「メリア。今さらそんな他人行儀にされたら、彼も悲しいんじゃないかな?」
「・・・え、悲しい?」
メリアは恐る恐る僕を見た。
僕はきっと、情けない顔で笑ってるんだろう。
母さんの時もそうだったように、これまでの関係が壊れるのが怖くて。
「・・・あ・・・」
メリアはきっとそれに気づいてくれた。
まあでもやっぱり急には難しいだろう。
まあいいさ。
これから徐々に慣れていってくれればそれで充分。
「そりゃーーーーーー!!」
「あべしっ!?」
いきなりミドルブローを貰いました。
え、なにゆえ!?
「これまでずっと秘密にしていた罰よ。これからは隠し事はなし。と、友達でしょ?」
「・・・あ」
メリアはちらちらと僕の反応を窺うように視線を送っている。
リゼは肩をすくめて笑っている。
「は、はは」
「な、何よ!?」
「解った。これからは秘密はなしだ。君達もなんでも言ってね!」
「さて、それはどうだろうね。乙女には秘密がつきものだよ?」
「あ、そうよねリゼ。アルフのエッチ」
「な、なんだとぉ!」
大丈夫だ。
上手くやっていける。
そうじゃないと困るね。
僕達の学生生活はまだ始まったばかりなんだから。
空気も和んだところで軽口を叩いてみよう。
「エ、エッチって、あの時胸に僕の顔を押し付けたのはメリアだろ!」
「・・・え?」
メリアが固まり、リゼが天を仰ぐ。
「あ、あああああああ、あれはぁ!!」
やばい! 調子に乗った!
笑いを取りにいく作戦は失敗だ!
ど、ど、どうする?
ここを切り抜ける最上の策は!?
これだぁ!!
「とっても柔らかかったです。あざましたー!!」
感謝!
これこそ人を繋げる尊い行いだ!
おお、メリアが感激の余り、震えながら顔を赤くして、
あれ?
「馬鹿ーーーーーーーー!!」
「不正解かぁーーーーー!!」
ばちぃん!!!!
*********
ピシっと、音を立てて一つの宝石が砕けた。
クラウスの兄、リヒャルトは目を見開く。
「失敗しただと・・・?」
黒炎にはあくまでも念の為、任務に失敗し死亡した時、すぐに判るように、生命活動が停止したら壊れる魔石を渡し、魔力のパスを繋いでおいた。
そして今、そのパスで繋いだ宝石が砕けたのだ。
「・・・まさか、只の学生に、名うての殺し屋が敗れたというのか?」
ギリっと、リヒャルトは臍を噛む。
「一体何者だ? アルフ・アルベルト」
*********
屋敷に帰ると、既に料理は綺麗に並べられており、母さんは僕達を喜んで迎えてくれた。
「お帰りなさい。遅いから心配したわ」
「僕の一世一代の告白を見物する無粋なデバガメがいてね」
「ええ、なんてやつなの! そんな奴にはパンチよ、パンチ!」
「うん。ぶっとばしてやったよ」
「それでこそわたしの息子よ」
母さんは腕を組んでうんうんと頷いた。
「・・・デバガメ?」
「・・・ぶっとばす?」
二人は顔を引きつられた。
「なるほど、そのほっぺのアザはその時に出来た男の勲章ね」
「は、ははは」
沈黙。
これしかない。
リゼは笑いを押し殺し、メリアは顔を真っ赤にしている。
母さんはそれを見て、不安そうな顔を作る。
「それで、うまく伝えられた?」
母さんが尋ねると、メリアとリゼは僕の肩に手を置いた。
「何があっても」
「彼が何者であろうと」
「「私達は友達ですから」」
母さんは嬉しかったのか、涙を溜めて頷いた。
「ありがとうね」
涙を拭うと母さんは僕らに笑いかける。
「さあ、夕食にしましょう。今日のスープはわたしが作ったから!」
「よっしゃあ! 母さんのスープは絶品なんだよ」
「それは楽しみね」
「ご相伴に預かります」
僕らは食堂へと向かう。
未来の魔術を極めたくて、僕は転生したけれど、それ以上に大切なものをこの時代で得ることが出来た。
願わくば、この幸せが続きますように。
天才魔術師は未来の魔術を学ぶ為、転生して最強を目指す さく・らうめ @sakuma0815
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