第33話アルフ、炎に呑まれる

 展開された防御結界魔術に炎が三連続でぶつかった。


「「あああああっ!!」」


 なんとか防いだ。


 しかし、障壁はその場で破壊され、二人は吹き飛ぶ。


「ははは! 可愛い子に無理をさせるぜ。死ぬ時間がちょいと伸びただけだろうが!」


「そうでもないさ。ブーストォー!!」


「なぁっ!?」


 二人が作ってくれた僅かな間。


 その隙に展開された僕の魔術。


 それと共に放たれた僕の炎が、あいつの連弾に追いついた。


「ば、馬鹿な。どうなってやがる。それは、その魔術は」


「そう、至って簡単の初級魔法さ!」


 黒炎の魔術に子供でも使える初級魔術が通じるわけがない。

 そう、普通なら。


「な、なんでその魔術にそんな威力がある!?」


 それでも、僕の初級魔術は黒炎の魔術を相殺出来るくらいの威力になっている。


 その理由は僕が先に使った魔術にある。


「魔術強化術式。これで僕の初級火炎魔法は、お前に追いつく!」


「な、に」


 当然のことながら、難しい魔術より、初級の方が出来上がるのが早い。


 しかし、威力は低い。


 ならば、威力を単純に上げてやればいい。


 初級の術式のままに、黒炎の炎に追いつく威力に。


「馬鹿な。強化の魔術は確かにあるが、初級がここまで上がる筈が」


 だから言ったろ、お前の知らない魔術もあるのさ!


 種明かしをすると、僕の魔術はその強化魔術に更に限定術式を組み込んでいる。


 それは、僕の使う魔術全ての威力を上げるのではなく、この初級火炎魔術“のみ”を上げるもの。


 あえて、条件を厳しくすることで、その威力を高める。


 前世では、どのノートにも残していないし、ロックを始めとする弟子にも伝えていない。


 この五百年で開発されていたらどうしようもなかったけれど、知らないらしい。


 まあ、限定魔術だってことは言わないけどね。


 炎しか使えないと判ると、対策されそうだから。


 戦いは再び互角。


 だが、互角ならこちらが有利。


 何故なら暗殺者は長く現場には留まれない。


 目撃されたら困るからだ。


 このまま逃げ切る!


「ちっ。ならばこれはどうだ!」


 黒炎は火炎を扇状に放つ。


 マズイ。


 これは狙いが僕じゃない。


 後ろの二人だ!


「二人共、下がれ!?」


「「!?」」


 僕がそう言って振り返ると、そこには起き上がろうとしている二人の姿が。


 しまった。

 さっきの結界が破られた衝撃で、ダメージを負っていたか。


「「きゃああああああああああああああ」」


 結界を広げて張ったけど、僕から離れればそれだけ魔力は薄くなる。


 僕は無事だけど、二人の前に張った結界は破られた。


 威力は多少下がったけど、二人共くらってしまった。


 僕は二人に駆け寄ろうとしたら、それを待っていたらしく、黒炎は溜めのある上級の炎を生み出していた。


「くぅ!?」


「終わりだ。小僧ぉーーーーー!!!!」


 放たれた巨大な火炎球。


 後ろには二人が!

 これは、避けられない!!


 炎は僕を丸のみにした。


「「アルフーーーーーーー!!」」


*********


 まともにくらい、アルフは炎の中へと消えていった。


「ああ、アルフ」


「私達を、庇って・・・うう」


 起き上がろうとした二人は再び倒れ伏した。


 絶望的なショックで立ち上がることが出来ないのだ。


「中々の騎士道精神だ。身を挺してお姫様二人を守ったか」


 暗殺者の声が酷く遠くに聞こえる。


 二人はそれほどに打ちのめされていた。


「だが、無駄だな。そして安心しろ。このお嬢ちゃん達は、すぐにお前と同じ所へと送ってやる」


 ゴウ、と、再び黒炎の手から現れた巨大な炎。


 それが二人にぶつけるべく渦を巻いていた。


 二人はそれを他人事のように見つめる。


 “ああ、あれで死ぬんだ”


 二人はそう感じ、それを受け入れてしまった。


 アルフが自分達を護って死んで、自分達がのうのうと生きられる筈がないと。


 だがだ。


「そんな顔をするなよ。僕のお姫様達」


「「・・・え?」」


「っ!?」


 二人は呆け、暗殺者は絶句する。


「今のはクサかったなぁ。我ながら外したわ」


 その炎の中から現れたのは、まったく火傷も服も燃えていない少年、アルフだった。

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