第43話・終章。
シャランガはが眼を開けると朱い空が広がっていた。
(ここは、どこだ・・・・)
ぼんやりとした記憶を辿った。ザウデの町を攻撃して、シャラソンらの裏切りに会い玄武軍が来た。
(そうだ、玄武次郎と闘ったのだ。するとここは、地獄か・・)
そっと周りを見渡した。
すると自分の側に男がいる。
(誰だ・・)
顔を巡らせようとすると、頭上から声が掛かった。
「・・気が付きましたか」
その顔は見た事がある・・・・そうだ、最後まで残ってくれた三人の内の一人だ。
「お前も、死んだのか」
一瞬止まった男の顔が、崩れて笑い声を上げた。
「そうですな。もうサラ軍の近衛兵ではありません。只の流浪者です。確かに一度死んで生まれ変わった気分ですな・・」
男の話す事によれば、次郎は闘ったシャランガの命を奪わずに、
「この者らを殺しても、両親が生き返る訳では無い。なかなかの武人だ。あの状況になっても慕う者もいる。その者の為に地の国へでも行って黒党でも率いてもう一旗揚げてはどうだ」
と言って放置していったと言う。
ついて行く兵の家族も罰しないし、家族はサラにそのまま残っても構わぬと言う事だった。
(負けた。剣の腕でも、器量でも・・)
シャランガは清々しかった。
「シャランガ様・・」
二人の会話を聞いたシャベルが、まだ痛む腹を押さえてヨロヨロと起き上がった。
「シャベルも生き残ったか、なかなか地獄は遠いな。仕方が無い、お勧めに従って地の国に降りてもうひと暴れするか」
「お伴します」
強張った顔で、しかし嬉しそうにシャベルが答えた。
ガベンダ・サソン・シャラソンとその取り巻きは、処刑されずに天の国への立ち入りを禁じて放逐された。
その時に、
「お前達は多くの家を潰し、人を殺して財産を奪った。その者らや身内の者からの報復は逃れられないだろう、今この時から常に刺客に狙われると思え」
と言い渡されて、彼らは逃げる様に天の国を去った。
地の国でも彼らの悪状は広く知れ渡り、その結果誰にも相手をされずに、少し後にはその姿が消える事になる。
王子・小太郎がサラの土の神殿で、五人の神巫女と戻ってきた元の臣下、ウスタ・オスタ・ザウデ・玄武の代表に囲まれて、即位の儀式を終えたのはそれからすぐ後の事だった。
小太郎が即位して高善王となると、枯れていたサラの泉に再び水が湧き出した。その事を知った農民や町民が大挙してサラに戻って来た。
天の国は高善王の元にひとつになり、地の国もそれぞれが恭順を誓った。
「玄武は王の臣下では無い。我が玹家の本家である。だが、国が安定するまで相談役を置いては貰えないか」
と言う高善王の請いを受けた次郞は、一番組の玄武紀成を相談役として残した。
こうして、ミキタイカル島は二十数年に及ぶ紛争をようやく解消して、未来に向かって進み出した。
海の国から来た男 これで終わりです。
物語は「英雄たちの戦い」に続きます。 蔭西三郎
海の国から来た男 kagerin @k-saburou
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