エクストラインターミッション②
「それではじめは銃も使わせてもらえなかったんです」
と殺し屋は右手で銃の形を作りながら話した。
「組織とトラブルを起こしたゴロツキと殴り合ったり、借金した男を追いかけまわしたり……そんなことしかさせてもらえなかったんです。人を殺すどころかは半殺しで終わるような仕事ばかりでね」
「それじゃあ、半殺し屋だね」と老人は笑みをこぼしながら殺し屋に向かってそう言った。「たしかに半殺し屋ですな」と言って殺し屋もクックッと笑うのだった。
「誰だって最初はそういうものだ。一部の天才を除けばね。そうした仕事をコツコツこなして、チャンスをうかがうんだ。そして掴み取る。仕事はそれができるかどうかだよ。仕事ができない奴っていうのは、そうした時期に手を抜くことを覚えたり自分に合わないと決めつけて長続きしない奴だよ。君の業界ではそうした奴は特に危険じゃないかね?」
「ええ、そうです。私の先輩が言うにはね。自分の実力を見誤った奴は大体一年持たずに死ぬみたいです。僕の前任者もそれでして。先輩はそいつのせいで死にかけて嫌になったらしくてね。しばらくパートナーなしで仕事したんだとか。それにしても仕事に関してかなり熱く語られますな」
「もう引退した身だが、かれこれ40年以上も仕事をしてきたからね。そうした哲学くらい身についてしまうのだよ」
そう答えると老人はグラスを右手に持ち、体ごと殺し屋に向き直って質問する。
「それで君にはチャンスがやってきたのかね?」
「はい、やってきました。それはあまりにも突然にやってきたんです」と殺し屋は答える。
「チャンスとはそういうものさ。だから私たちは常にチャンスを迎えられるように準備をしていなければならない」
そう言うと老人はグラスに口を付けた。殺し屋はこめかみに指を当てながら、手前に置いてある水の入ったコップをじっと見つめている。
「その日が来るまで、つまらなくも平和な毎日がずっと続くと思っていました。でも人生と言うのはそうした停滞を許してくれんようです」
とある殺し屋の小話 神里みかん @geden
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