とある殺し屋の小話
神里みかん
エクストラインターミッション
「一つ聞きたいことがあるんだがいいかな?」
「ええ、なんでもどうぞ!」
殺し屋はにこりと笑いながらそう答えた。
「君は人を殺すときに憎しみや怒りなどの感情を伴うのかね?」
すると殺し屋は考え込むように顔を上げて天井を眺めると、「実にいい質問ってやつですな!」と言った。
「事実を言うならほとんどの仕事でそうした感情を持ち合わせたことはないんですよ。中には真の悪党みたいなやつもいましたけどね。殺すときに何とも思いません。ただ言われたから殺す。それだけです。」
「では殺すときに罪悪感みたいなものは感じないのかね?」
「余裕があれば感じたいもんなんですがあいにく私は不器用なんでね。毎回罪悪感を持っていたら気がまいっちまいますよ! 仕事なんてとてもじゃないがやっていけません」
そこまで言うと殺し屋はコップの水に口を付ける。
「そんなことを考えるくらいなら明日の朝飯のことを考えますな! 兵隊さんだって国のためとか言ってたくさんの人を殺して帰ってきて勲章片手に喜んどるでしょう! 彼らは国のために、俺は明日の朝飯のために人を殺すんです。仕事としてね」
「だが一般の人々から見て、兵隊の殺しに正義はあるが、君たちの殺しに正義はないんじゃないか?」
「私は馬鹿ですからよくわかりませんが……正義って何です? 正義とやらで私の明日の朝飯は食えるんですか? 正義で私が幸せになれますか? 答えはきっとNoでしょう。それくらい私にでもわかります。あなたの言う正義はわかりませんが、私にとって正義とはあってないようなものです。例えば正義を正当性とするなら……娘をレイプされた父親が加害者の青年をぶち殺すことにも、正義があるように思わんですか? だが残念なことにそれは法律で認められていない犯罪行為なんです。そして私の仕事もね」
「正義なんて人によってたやすく塗り替えられる代物です。俺はそんなもん信じませんね。だから、正義とか正当性とか考える前に明日の朝飯のことを考える。今までそうやって生きてきました」
「君なりに考えて仕事をしていたんだね。よくわかったよ。私も少し質問が軽率だった……」
老人は予想したより長く彼がこの話題に関してしゃべり続けたことに面食らった。ようやくこれで話が終わると老人が思ったとき、殺し屋はまた口を開く。
「でもね、中にはどうしても感情が乗ってしまう弾丸もありますよ。あまり撃ちたくはないんですが……なぜならそうした弾丸は私の心を蝕むんでずっと残り続けるんです。なのにたまにどうしても撃っちまうんです……」
「だが、もう撃つことはないんだろう?」
そうすると殺し屋はこちらを向いてにんまりとほほ笑むと「ええ、もちろん」と答えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます