第14話 新人隊員訓練。
新人の入団から2週間、早朝から騎士団の大きな屋外訓練所には野太い雄叫びが木霊す。第2隊の副隊長であるラウロ・ワトキンソンは今回の騎士団の一次試験の監督を務めた騎士爵を持つ元平民の実力者だった。彼は水色のふわふわと波打つ髪をひとつに括り、灰色の目をきょろきょろさせて新人達を監督していた。
そして、気になる存在。第1隊の新人のクレトという少年を見つけた。彼は、二次公募で飛び入り参加し圧倒的なその力で第1隊所属になった青年だ。年は17歳で騎士団に入るには少し大人だった。しかし、誰も彼の第1隊入隊に異議を唱えなかったくらい強かったらしい。同期だったら、自分が手合わせしてもらいたい。彼は、その青年の深紅の髪をぼんやりと眺めた。
「ねぇ、クレトなんか凄いこっち見てない?」
「俺が唯一の第1隊の新人だからだろ。おれ、すれ違う時に上官の方々に道譲られんだけど。」
「あらあら、偉くなったのね?」
「なんか怒ってんのか?お嬢??」
私とクレトは向かい合って手合わせをしている。彼の剣は重かったがこれでは魔獣は倒せない。もう少し力を上げて訓練を有意義なものにしてあげようと力を出そうとにやりと笑うとセレーネが私を抑えた。
「何してんですか?!あれだけ言ったじゃないですか!!!グレンの好意を無駄にするつもりですか?!」
セレーネが押さえつける私の様子をグレンは微笑まし気に見つめる。ちょっと温度差が違う。彼は穏やかな人だということは良く分かったが、その分自分のこと以外は楽観的というか、いざという時以外まったく動かない。ある意味大物だと思う。少し天然が入っているところの左右しているかもしれない。彼は薄桃色の髪をかき上げながら、はははっと笑っていた。
これからの動きについてグレンの話を元に考えたのが入団式の帰りのカフェだった。
**********
入団式の後、歩きで屋敷に帰る私たちにグレンが声をかけた。
「僕は、あまり皇都に来たことが無いんです。観光をしたこともなくて…良い昼食をとれる場所を教えてくれませんか?」
「良いですよ!では、第2隊の新人だけで行きましょうか!」
「あら、いいですねお嬢様…帰りなさい第1隊員!」
「つめてーー!俺、良いテラス席の店知ってんぞ??ケーキもうまい。」
「「「…」」」」
利害が一致した彼らは青空の下、綺麗なテラス席のカフェで昼食をとる。ギスギスした空気の中、グレンが苦笑しながら口を開いた。
「あの…セレーネとアーリア…様はどうして…
「アーリアでいいわ。」
「セレーネとアーリアはどうして第2隊を希望したのですか?」
彼の神妙な顔に緊張する必要もないのに少し緊張してしまう。何がそんなに重々しくなることなのか。緊張した顔の後は不思議そうな顔になってしまう。そのまま私は口を開いた。
「だって、もし第1隊になったら他国への遠征に行けない。」
「…は??…あっ、失礼。えっと…君たちは遠征に行きたいの?」
「ええ、そのために騎士団に入ったのよ?」
さも当然のように言い放つ主人にセレーネはあきらめを覚えるとともに、真の目的を知って驚いた。主人は正当な目的で隣国へ行き、そこの魔獣の生態系を知りたかったのだろう。思ったより呆気なかった理由を知り、少し素が出てしまう。
「あ、そうなんですか?」
「俺も知らなかったよ?お嬢?」
セレーネに続いてクレトも呆気なかった答えに呆然としながら自分を指さしながらアーリアを問い詰めた。
「え???お二人は目的も知らずについてきたのですか?」
目を丸くして3人を交互に見たグレンは心底不思議そうに尋ねた。
「お嬢様は、そういう人です。その行動の理由を知るのは事が始まってから、または終わってからです。事前に教えてもらえたことなんてほとんどないですよ。」
セレーネは淡々と答える。
「お嬢はそういう生態系の生き物だ。」
クレトはなんの悪びれもなくなぜか胸を張って堂々と答える。その行動の理由は分からないが、ばかにされていることはよく分かった。
「あんたたち…減給にするよ?」
「ほらっ、こうやって脅してくんだぜ??嫌な主だ。」
グレンをぐっと引き寄せ、肩を組みながらクレトは口を尖らせる。こういう距離の詰め方はあまり良くないと前々から言っているにもかかわらず、ずっと直らないままだ。私は眉間にしわを寄せ、ギッと彼を睨み昼食に戻る。
「本当に変わった主従関係だな…」
グレンは驚きながらボソリと呟いた。
闇の公女は上を向く。∼謎の身体能力チートと聖属魔法でらしく生きたい∼ SITORA @sitLa
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