Episode.1

バイトが終わり外に出ると外は真っ暗で冷たい風が俺の頬を掠めた。

冷たく悴んだ手を温めようと上着のポケットに手を突っ込んでみるとだいぶ前に使ったであろう使い捨てカイロが入っていた。俺はそれをぎゅっと握りしめた。それを握りしめたところで温まるはずが無いのに。

だいぶ外の寒さに慣れたところで、鞄の中からバイトのシフト表を取り出した。シフト表には今週と来週のシフト予定が書かれていた。シフトがびっしり書かれていた予定表に頭が重くなり、体が悲鳴をあげていた。しかし俺はやらなければいけなかった。


先週、両親が死んだ。葬儀は親族の間でひっそりと行われた。俺は正直悲しいと全く思わなかった。隣に座っていた妹と弟を見てみた。妹も泣いていなかった。弟は泣いていた。少しだけ。葬儀のときに周りの人を見てみた。正直母の親族も父の親族もあったことがなかったため、誰だか全く分からなかった。泣いている者もいれば「だから言ったのに…。」と呆れている者もいた。

俺達の両親の死因は薬物中毒だった。普段から俺達はほっとかれていた。なにかするといつも怒られボコボコに殴られた。弟も妹もそうだった。一日中いない事なんてよくあることだった。食事なんてまともにくれなかった。だから俺達は両親の親戚に誰にも合わされなかったんだと思う。俺はいつの日か感情を押し殺すようになっていた。そうしないとまともに生きることが出来ないと思った。

両親の親族同士が話している中、一人、俺たちに向かってきた。その女性は見た目は40代くらいで、泣いたのか目の中に光が無かった。しかし俺たちに気をかけてくれたのだから優しい人なのだと思う。少し母に似ていた気がした。

「私はお母さんのお姉さんよ。君たちだけじゃ生活できないだろうし…叔母さんと叔父さんが引き取ろうと思うんだけど…」

「大丈夫です。俺も高校生だし…バイトでどうにかなります。弟も妹も俺が守ります。ありがとうございます。」

俺は何故か分からないけど自然とその言葉が出ていた。

「あら…そう…。またなにか困ったことがあったら相談してね。」

その人は俺達から離れていった。

「お兄ちゃん…大丈夫なの…?」

「僕達どうなっちゃうの?」

妹と弟が心配そうに俺に聞いた

「大丈夫だよ。絶対に守るよ。大丈夫。」妹の前ではそう言ったが心の中は不安でいっぱいだった。俺はぐっと拳を握りしめた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青春 文子(ふみこ) @caramel2525

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ