トぶ魔法といふもの
泉 水
第1話
「飛べるそうだ。」
青空は高い。白い雲がツラツラとゆっくり右から左へ流れていく。
空よ、どうしてお前は地上の出来事に無関心なのか。
俺と二人組パーティーの剣士ロンは青空のその先を見つめるかのように、斜めあっちゃを向きながらそう言った。
後ろ姿に両手を腰にあて仁王立ち、自分の言葉はすべて現実化する、というなんか意識高い系の人のように自信ありげ。よー知らんが。
俺はロンの言葉を心の中で何度か繰り返してみた。
飛べる。
大きなアドバンデージだ。
物理攻撃者二名の俺達が繰り出せる攻撃範囲を超えて、大空を舞い、そこから対象に攻撃を加えることができる。また空中で周囲を探索するということも可能になる。
立体的な攻撃が可能になれば、またより広い範囲の探索が可能になれば、これまで以上に、冒険依頼のクリアーも早く、効果的に済むはず。
さういふ魔法使いの情報をロンは得たようだ・・・。
「ふむ。先日のドつき魔法使いよりかは、いくらかマシそうだな。」
俺はロンの後ろ姿にそう返した。
「ん?・・・ああ、飛べるそうだ。」
ロンは、一瞬間をおいて、再び、『飛ぶ』という一点にのみ言及した。
俺はかすかにだがイヤな予感がしたのだが、黙っておいた。
なんかヤバいの極めて、意識飛んでるヤツとかじゃねえよな。
そういうわけで、飛べる魔法使い、に会うため、ホームタウンの町から、徒歩7日。
行商人の馬車が季節ごとに年4,5回程度立ち寄る程度の、とある田舎村にたどり着いた。
さびれている、というわけではないが、活気はあまりない村だった。
あちこちにおそらく鉱石か何かを掘り出したのか、人の頭大の岩がごろごろと転がり、一部では積みあげられていた。そういう岩置き場?がある広場脇の道を進むと、これも岩作りメインの商店等が並んだ通りに出た。
そこにいた。飛んでいる魔法使い達が。
魔法使いといえば、じゅうたん。
これはある意味必須アイテムと言ってよいだろう。
この村の魔法使いは、じゅうたんの上に座り、魔法によって、宙を浮いていた。
じゅうたんの上に買ったものらしい、野菜やら壺やらなんやらを乗っけながら、しゅらしゅらと進んでいた。速度的には、立って歩く速さくらいなもの。
そういうじゅうたんがあっちこっちに飛んでて、道は結構混みあっていた。
で、じゅうたんの前の方に乗っている魔法使い連中だが、そろってブックブクの超肥満体形の持ち主達だった。
「なあ。」
「何かな?」とロン。
「確かに飛んでいる。それは間違いない。だがそこからなのだが・・・」
じゅうたんの上の魔法使い達は、どれを見てもブクブクの超肥満系で、空飛ぶじゅうたんに乗り続けているが故に、
『歩くってなんですか?』と言わんばかり。
どーやって冒険の旅にでられるのよ?魔力消費考えたら、ずっと飛んでばかりいられないだろ。
「ダイエットしてもらえばよいではないかな?」
とロン。
「そうか。で、ダイエットしてもらうとしてだな。連中は、飛ぶ、以外に何ができる?攻撃にしても守備、もしくは探索などの魔法が必要となってくるぞ。」
俺は、ふよふよと飛んでいるじゅうたんの主を捕まえて、尋ねてみた。
「すまない、少し尋ねるが、この村ではじゅうたんを浮かべている魔法使いは多くいるようだが、冒険に出てみたい、という魔法使いはいるかね?」
ぶーちゃん魔法使いのオバちゃんが答えるには、
「いんやーまずいねえべ。せいぜい荷運びのじゅうたん飛ばし使いがいるだけで、冒険者になるくらいの腕があれば、こんの村なんぞ飛び出して都会にいってるべ~。」
確かに『飛べる』魔法使いはいるのは間違いないが、『飛べる』というとこで止まっている村であり、より能力のあるやつは都会に集まってるって。
そりゃまあそうだよな。過疎地の苦悩を見せつけられたようだよ。
で、魔力でじゅうたん浮かべてるから、動かなくてブクブク太ると。
「・・・ロンよ。」
ロンは目をつぶり、右手で頭をかいていたが
「ホームタウンに帰るか。」
馬車の代わりには困らんだろうがな。
トぶ魔法といふもの 泉 水 @katatsumurikan
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