第81話

 龍神族の里では飲めや歌えの大騒ぎになっていた。そりゃそうだ、国一つを丸ごと騙したようなもので、退屈していた龍神族達にとっては良い刺激だったことだろう。


「それよりは……龍神様の誕生かな」

「そうだ。うちの里じゃしばらく現れなかった。それこそ、聖ノ国を作った時以来だ。あれからどれほどになるのか……ロアナが覚醒したのは、聖女の誕生に立ち会ったからかもしれんの」


 あの国の事などほとんど放っておったからの……とグレイは苦笑する。


 大きなキャンプファイヤーを囲んで踊る龍神族は、本当に嬉しそうに吠え合っている。中には龍の姿で文字通り宙で舞っている者までいた。


 それを眺めながら木樽のジョッキを傾けていると、小さな影が不意に視界を覆った。


「リーフ……ここ、座るわよ」

「おお、メリッサ。飲んでるかー?」

「まあね。その……傷は、痛む?」


 メリッサは俺の目を見ずに視線を泳がせながら、躊躇いがちに尋ねる。一瞬何の事か分からなかったが……洗脳魔法にかかった事を気にしているらしい事に気付いた。


「ははっ……大丈夫だよ。俺は大抵の傷は『超速再生』できる。知ってるだろ?」

「な、何笑ってんのよ! それでも……あたしがやった事には変わりないでしょ?」

「ああ、それは変わらない。つまり、お前は立派に俺を守ってくれたってことさ」


 そう返すと、メリッサはパチクリとくりっとした目を瞬かせていた。それに構わず俺は続ける。


「メリッサの盾がなければ俺はウルスを仕留められなかった。お前をあそこまで追い詰めた俺のためにそこまでしてくれたじゃないか。謝るのは、俺の方だよ。メリッサの強さに甘えてた。強い奴には何をしてもいい……なんて、そんな事あるわけないのにな」

「……そうよ、甘えてたのよ。心地良い関係に。そしてあんたは甘いのよ。パーティメンバーの裏切りを許すなんて」

「裏切りなんかじゃないだろ。ただ、色々と歯車が噛み合わなかっただけだ」


 コツッと俺はメリッサのジョッキに自分のをぶつけて、くしゃりと頭を撫でた。


「仲間同士でケンカなんかしてなんぼだろ。殺しさえしなきゃ、いつか乾杯できる。そしたら仲直りできるもんさ」

「……そんなんでいいの?」

「いいんだよ、そんくらいで」


 だけど、俺はそこでしばし言葉に迷った。あの時に聞いた言葉を……酒に酔ったままじゃ話したくなかった。だけど、酒にでも酔っていないと気恥ずかしくて言えない。


 そこで俺は、一つの折衷案を見出した。


「……今度、二人で飲むか」

「別にいいけど……どうして?」

「いや、そんな機会無かったなと思ってさ。俺も一応リーダーなわけだから、もっと皆の話を聞かないとなって」

「ふうん、じゃあ、まあ……その時でいいわ」


 僅かの間、穏やかな目をしたメリッサと何かを共有し……すると、背後からドサドサっと音がした。驚いて見てみると、そこにはトゥイとマリンが地面に転がるようにもつれこんでいた。


「……何してんだ、お前ら」

「い、いえっ! 盗み聞きしてたわけじゃないですよ!」


 正直な子だ。まあ、聞かれて困る話もしてなかったが……マリンはえへへと笑い、トゥイを抱えるように起き上がった。


「まー、色々あったみたいだからさ。わたし達も心配だったんだよー。それで、ね?」

「ね? じゃないわよ! あんた達、自分達の居ない場所で喋れって言うから!」


 わあわあと言い合う様を見ていると、何故かホッとしている自分がいた。今回、結構バラバラに動いたからだろうか……ようやく、纏まってきたような気がした。


「リーフ君、わたしとも飲んでね?」

「あっ、私もです!」

「聞いてんの、ねえっ!」


 そんな、名誉も何も無い戦いの……だけど確かに前進した『銀狼』の話だ。




・あとがき

ラブコメ書き始めました。よろしくお願いします!

https://kakuyomu.jp/works/16816452219875595314

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パイプ使いは紫煙を纏う~俺だけが使える毒草からスキル無限採取術~ @sakumon12070

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