サンタさんは自粛しない

ちびまるフォイ

男の子がよろこぶプレゼント

「感染予防のため、今年のGotoサンタは中止!?」


突然の発表にトナカイをスタンバイしていたサンタ達は耳を疑った。

あわてて地球のニュースをつけると、恐ろしいウイルスが感染拡大しているという今にも人類滅亡系の映画ができそうな報道がなされていた。


「サンタ、全員集合!! 緊急サンタ会議だ!!」


サンタ達は事情を理解すると、一様に沈んだ顔になった。


「それじゃ今年はプレゼント渡せないんですか!?」


「今じゃ外に出歩くことすら控えられている。

 知らないおっさんが煙突から入ってくるなんて、

 ウイルス感染の恐怖でしかないだろう」


「しかし!! 子どもたちがクリスマスをどれだけ楽しみにしてると思ってるんですか!」


「私だって配りたいさ!! だが……!! くそぉぉ!!」


サンタは悔しさのあまり白いあごひげを噛み締めた。


「ベッド横に置くのが難しいなら、家の外に置くのはどうでしょうか。

 人間の世界では非対面配達みたいなのもありますし」


「できるわけないだろう! 外においてみろ!

 翌朝目覚めたらカチンコチンになってるぞ!」


「うぐっ……そう言われればそうかも……」


サンタのプレゼントは24日配送で、気づかれるのは25日のクリスマス当日。

ワクワクして目が早くに覚める子供もいれば、お寝坊さんもいる。


冷え込む深夜に配達して朝方まで放置されていれば、

プレゼントの内容によっては取り返しがつかないことに。


「いっそ、交換用のシリアルコードでも渡します?

 それならポストに入れられるでしょうし、プレゼントは渡せますよ」


「シリアルコード……う、うーーん……」


期待感いっぱいでクリスマス当日に目が覚めた子どもたち。

その手には現物ではなく交換用シリアルコード。

場所によってはシリアルコードで注文しても配送まで時間がかかるだろう。


「なんか、そういうのじゃないんだよな……。

 子どもたちには25日当日にもらえる前提みたいなとこあるし……」


「でも、それじゃどうするっていうんです?」


「うううーーん……」


サンタ達は会議室で頭を抱えてしまった。

ひとりの若サンタが手を挙げた。


「そんなに難しく考えなくていいんじゃないっすか。

 普通に感染予防して、マスクして、消毒を徹底して

 それを周知していれば別に煙突から入っても良いんじゃないっすかね」


「……そうかも」


「あくまで、これまでと同じような状態で渡そうとするから無理が出るんっすよね」


「たしかに!! よし、すぐにサンタ公式HPに感染予防徹底している旨、表記するんだ!」


大人だけがアクセスできるサンタ公式ネットサイトには感染予防の取り組みについて明記された。

サンタ自身の消毒はもちろん、トナカイや袋にも除菌を徹底し、それでも心配な親御さんのために今年に限りプレゼントの横に除菌グッズもおまけに付ける徹底ぶり。


「これで安心してプレゼントを渡せるぞ!!」


「さあ、忙しくなりますね!!」


いけいけのムードだったが、地球の空気を見ていたサンタ気象予報士が待ったをかけた。


「待ってください!! この空気は……!」


「どうしたんだ。こないだクリスマスの天気は問題ないと言ったじゃないか」


「ちがうんです! 世界的に自粛ムードの空気が蔓延しています!!」


「なんだって!?」


地球観測衛星を介して様子を見ると、猟銃を持った自粛警察が町を巡回していた。


「これはいったい……」


「まずいですよ。彼らは自粛していない人に対して発砲許可が出ています。

 サンタがクリスマスにやって来たら格好の標的です!」


「いや寝ろよ!!」


「それだけじゃありません。転売屋が自粛警察に偽装していています。

 彼らはプレゼントを横からかっさらって、当日に高額転売するつもりです!」


「え……それじゃもし感染予防したうえで地球に行ったら……?」


「撃たれて、身ぐるみはがされます」


「人里に入った害獣みたいな扱い受けるの!?」


サンタは震え上がって赤いサンタ服がブルーに塗り替わった。

それでも子どもたちを笑顔でいっぱいにさせることに諦める選択肢はなかった。


「サンタ研究チームをここに集めろ! クリスマスまでに作るものがある!」


「あと2週間もないんですよ!? 何を開発させるつもりですか!?」


「サンタガジェットだ! 地球にいかずしてプレゼントを渡すんだ!!」


サンタ研究開発本部はこの事態を重く受け止め、サンタガジェトットの開発に着手。

クリスマスに間に合わせるため毎日遅くまで必死に開発を進めた。


「できた! トナカイくん1号機!!」


クリスマス前日についにサンタガジェットは完成した。

プレゼントを持たせて指示を出せば指定の場所まで運んでくれる代物。


あらゆる箇所に静音処理がほどこされ、衣ずれレベルの物音さえしない。

そのうえプレゼント含めて透明になれるので視認もできない。


「コレなら目を光らせた自粛警察と転売屋をかいくぐっってプレゼントを渡せる!」


「しかしバッテリーの問題はまだ残っていて、プレゼントを配達した後にこっちへ戻ってこれません」


「かまうものか。プレゼントがちゃんと運べればそんなの小さな問題だ!」


サンタ達は急いでプレゼントをサンタガジェットに詰め替えた。

時間ギリギリにプレゼントはガジェットとともに各家庭の枕元へと贈り届けられた。


「間に合った……明日にはプレゼントに喜ぶ子どもたちが見られるぞ」


サンタ達は一段落してこたつに足を突っ込みながら、子どもたちの様子をモニタリングした。

クリスマス当日、テンション高めな子どもたちはプレゼントに大喜びしていた。



「パパ! サンタさんが来てた! なんかすごいおもちゃ届いてたよ!!」



各地の子どもたちはトナカイくん1号機を嬉しそうに受け取っていた。

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