△が長い休暇に入らずに、僕と彼女がもっと早く話せていたならば。この引っ越しをしなくてもよかったのかもしれない。でもそんなこと、考えても詮無いのだ。△の推薦図書は実を言うととてもおもしろかった。なかなか読み進められなかったのは、一文ずつの情報量がひどく多いせいだ。久しぶりに小説の世界に酔った。

現実はやっかいだ。僕は大人になってしまったけれど、ほんとうは物語の主人公になりたかったのだ。けちをつけながらも読まずにはいられない。いつかどこかで、『はてしない物語』みたいに本のなかに吸い込まれて、自分だけの秘密の冒険をしたかった。

 そろそろ、時間だ。

さよなら△、僕は僕なりに自分の物語を紡ごうと思う。

 コールドスリープの装置の中で、僕はそっと目を閉じた。

 願いは一つ。長い夢が見たい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さよなら△ らいらtea @raira_t

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説